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2013年02月03日(日)
『ザ・タウン』

『ザ・タウン』@早稲田松竹

念願叶ってのスクリーン鑑賞!『アルゴ』が公開されたとき、よしこれでベンアフ作品二本立てが出来るぞ、早稲田松竹辺りで…『ゴーン・ベイビー・ゴーン』は日本では劇場公開なかったから、これと組み合わせてもいいよねえなんて思っていたのでした。いやーん嬉しい、早稲田松竹ありがとー!

GGもPGAもSAGもDGAも獲得、現在賞レース快進撃中の『アルゴ』。日本でも改めて注目が集まっているようで、異例の規模でのリバイバル上映も決定(て言うか最初の公開館数が少な過ぎたんだよ……)。その影響もあったか、立ち見も出る盛況でした。気になるのは、本国では悪者イランに一泡吹かせたった!アメリカ万歳!みたいな風潮で盛り上がっているような感じがするとこで、そこは注意深く一歩退いて描いていると感心していただけに、ちょっと心配ではあります。

とりあえず今回は『ザ・タウン』のみを観ることに。上映順は『アルゴ』→『ザ・タウン』。『ザ・タウン』から入る場合既に『アルゴ』から観ているお客さんがいる訳で、その時点でどのくらい席が空いているか判らない。早稲田松竹さんのツイートを参考に、早めに出掛けて整理券をもらうことにしました。早稲田松竹で整理券もらったの初めてだ…あのーこれ、作品自体の注目度もあるけど、ここんとこのジェレミー・レナー人気も影響してると思う……。『ザ・タウン』をスクリーンで初めて観るひと、結構多かったんじゃないかな。まんまと私もそうですが。いやしかしジェレミーのおかげでこんなに入れ込んでしまう映画がまた一本増えたよ。オールタイムベストに入る勢いです。『ザ・タウン』をDVD鑑賞したときの感想はこちらにちらりと書いたのですが、スクリーンで観て感じたことなど含め改めて感想を。ネタバレしてます。

DVDでは劇場公開ヴァージョン→エクステンデッドヴァージョンの順で観ましたが、個人的には劇場公開版の方が断然好きです。説明のさじ加減が丁度いい。エクステンデッド版は、コメンタリーで監督が「ここは説明が過ぎると思ったのでカットした」と言っている箇所が結構ありました。確かに、副支店長を見舞うクレアに付いていったダグが罪悪感を感じるシーンや、現金輸送車襲撃後のダグたちと鉢合わせした警官が彼らを見てみぬふりした理由、ダグがクリスタを侮辱するような言葉をジェムに投げかけるシーンは、補足として観る分にはいいと思いましたが、本編に残っていたら冗長に感じたと思います。「役者も熱演しているし、そんな彼らの出番を減らすのはつらい。自分も好きなシーンだし」と言いつつ、何より公開されたときの時間の長さや話運びのテンポを重視して、これらのシーンをカットしたところに監督の冷静な判断、作品への献身を感じました。

かくして説明のない部分―余白に想像力を掻き立てられる。母親を捜す幼いダグを、真実を知るあの花屋や“タウン”の大人たちは黙って見ていたのか。「揃いも揃って親父にそっくりだな」と言う花屋の言葉から連想される、代々受け継がれるタウンの仕事の根深さ。そしてバッグに入っていたオレンジ。クレアはあの地へ向かうだろうか? 今迄決してその線を越えなかった殺人をもダグは犯してしまった。彼はあの後捕まるだろう、そのときクレアはどうするだろう……。“I'll see you again, this side or the other.”人生はやりなおせるか、消せない罪をどう背負っていくか。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』にも『アルゴ』にも、アフレック監督作品には、人生の苦さと登場人物への優しい視線がある。

随所に挿入されるタウンの街並―あの空撮を大画面で観られてよかった。団地がぎゅうぎゅうに、狭い路地に建てられている。どうしてあんなにカーチェイスがつんのめるかが解る。これはTVの画面だと実感しづらい。タウンに暮らすどんなひとびとにも、夜がきて、朝がくる。これも優しい視線。いぬの吠える声が左後方から聴こえてきてうわっとなったり(ヘッドフォンではいぬの声にすら気付いてなかった。結構大きな音で何度も聴いてたのに!)、映画館の環境で鑑賞しないと気付かないことってあるもんですね。そしてこの作品、サントラが素晴らしくいいんですよ!すっかり愛聴盤なのですが、それを映画館の環境で聴けたことも嬉しかったです。あとこれは『アルゴ』でも思ったけど、見知らぬ他人と一緒にハラハラしたり笑ったりほろりとしたり出来ることな…見終わったら席を立ち、それぞれの家に帰っていく。そんなちょっとあったかい気持ちと寂しい気持ちを、アフレック監督作品は思い出させてくれるのです。

そうそうそして、『アルゴ』との二本立てだと、あの終盤のメモのシーンにあ゛ーーー!!!!となりますね!うわーこれ気付いてなかったわ、ダグがフローリー捜査官に残したメモには“GO FUCK YOUSELF”と書かれているのです。『アルゴ』の合い言葉は“Argo, Fuck Youself”だったじゃないか。“Go Fuck Youself”は決して珍しい言い回しじゃないし、アフレックは『アルゴ』の脚本は書いていないので偶然だろうけど、それにしても誰がうまいこと言えと。うわーん楽しかった、早稲田松竹ありがとー!

さてジェレミー。DVD観たあと結構レヴューとか読んでまわったら、ジェムがおホモだちよろしくダグをひきとめる!(この言い方もどうなのか)とか書かれていてえ、それ意識してなかった…と思い、そのへん改めて注意して観たら、まあ…確かに……。と言うかダグはもっとジェムにかまったれよ…あなたのためにひと殺してんのよ!「頼んでない」けど!あとダグが「フロリダで会おう」つってんのに「帰りを待ってる」とか、何その出征するダンナの帰還を待つ奥さまみたいなけなげなスタンス……かわいいそうすぎる。いや、ともだち思いで故郷思いのいいDQNだよね……。でもさーダグもジェムと距離を置こうとしてる割にはクレアの車壊した連中を襲撃するときジェムを誘ったり、酷いわ。ジェムは都合のいい女かYo!それでついてっちゃうジェムもどうYo!

それはともかく、これのジェレミーはホントいいです。繊細な目の表情が素晴らしい、クレアと話してるときのくるくる動く目!ダグに酷いこと言われたときの目!フローリーに声掛けられて振り向く迄の目!ジェレミーの目に魅力を感じているひとは必見です。ああこれが映画でよかった、この目が!あの目が!映像として残っている!あと『ハート・ロッカー』のとき「ジェレミーは歩き方に特徴があり過ぎて、顔が隠れる防護服を着ているシーンでもスタントが使えなかった(だから全部自分でやった)」って何かで読んだけど確かにすごい特徴ある。警官の変装して球場を出て歩いていく後ろ姿、すごい印象に残る。それにしてもフローリーに声掛けられる→振り向きざまに銃乱射→袋のねずみ→隠れる→弾撃ち尽くす→ジュース飲む→“I surrender!”とか言いつつ弾入ってない銃を構えて飛び出す…これある意味自殺だよね……せつなく素晴らしいシーンでした。

その他(まだあるか)

・クリス・クーパーの存在感が素晴らしい
・ピート・ポスルスウェイトの存在感が以下同文
・ピートさん、遺作『Killing Bono』は日本で公開されなかったので『ザ・タウン』が日本で観られた最後の作品だったんだよね……名演でした
・あと花屋にいたもうひとりのおっちゃんの存在感が以下同文。この方は役者さんではなく、実際の“タウン”の住人だそうです。タトゥーもほんもの
・他にも実際のタウンの住人(元服役者含)が出ているシーンが沢山あり、彼らの意見を参考にしたシーンも多くあるとのこと

・ベンアフ、あんまりエモい芝居しないひとだけど、お父さんにお母さんのこと訊いて躱されたときの泣きそうな表情がすごくよかったなー。6歳のこどもに戻ってた
・ジェムに「しゃぶるか!?」て言われた後映るダグのポカーン顔もいい。ここにこれを入れるかと言う

・ひとつだけ難を言うなら、女優さんを綺麗に撮ってください(笑)でも芝居を忘れさせる程にと言う意味で、クリスタ(実際のブレイク・ライヴリーすごい別嬪さんよ!)の肌の荒れ具合や法令線、クレアのそばかすはチャームになっていたなあ
・と言えば、レベッカ・ホールの、いろんな思いを滲ませた笑顔は素敵だったなー
・彼女たち女優と、フローリーを演じたジョン・ハム、ディノを演じたタイタス・ウェリヴァーらはこの作品が初見だったのだけど、素晴らしい役者さんたちを教えてくれてベンアフありがとーと言う思いです

・エンドロールの曲、Ray Lamontagne「Jolene」もすごくよかったなー。歌詞がまたこの作品にぴったりなので、リンクを張っておきます→RAY LAMONTAGNE LYRICS - Jolene

・いちばん好きなシーンは、目隠しされたクレアが海辺を歩くふたつのシーン。オープニングに使われたシーンではクレアのトラウマとして、ダグと初めて結ばれたときに入るシーンではそのトラウマの緩解と、そうなったことへの戸惑いとして。そのあとにまたつらいことがあるんだけどね…人生はそんなことの繰り返しだからこそ、癒しの一瞬は忘れ難いものになる