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2013年01月01日(火)
『会田誠展:天才でごめんなさい』

今年も宜しくお願い致します。

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『会田誠展:天才でごめんなさい』@森美術館

昨年の激混みにも懲りず、再び元日に六本木ヒルズ。しかし今年はゆったりしてました。六本木に限らず、例年より都内にひとが少なかったような…休みが長かったので、旅行に出掛けているひとが多かったのかな。

いんやそれにしてもすごかった。年明け早々観るもんじゃない?いやいや年明け早々観てよかったよ、喝入れられたわ。そもそも森美で会田誠展、と言う思い切りに感動しておりましたが、いや当然でしょ、と言う思いもあり、しかしチケットが展望台入場券とセットになっていて観光客がふらりと寄れてしまうことに懸念もあり。沢山ひとが集まるということは、必ずしもそれ目当てじゃないひとがいると言うことです。ボソッと言うと以前某フェスで峯田くんが書類送検されたようなね。いや待てこの例えちょっと違う、峯田くんの全裸目当ての客がいた訳ではなかろう(笑)。

美術館での初個展。意外と言えば意外ですが、そういう意味ではどこか納得。今回の資金はクラウドファンディング形式で集められました(・会田誠が語る「アート」の未来:CINRA.NET)。作家の衝動を守り、確実に存在する(そしてそれは決して少なくはない)彼の描く世界を求めているひとに、作品を届けるための環境づくり。スタッフの尽力には頭が下がります。とは言え会田さんご本人はクレヴァーな方で、ゾーニングに関しての目も行き届いています。ステートメントはこちら(・コソコソ見るから、エロ本は面白い〜1分でわかる会田誠:初の大規模個展を控えた、美術家の挑戦(1):森美術館公式ブログ)に詳しく。

かくして内容は質量共に大充実。美術館の規模ならでは、圧巻。新作『モニュメント・フォー・ナッシングIV』、制作中の『電柱、カラス、その他』が特に印象に残った。どちらも大型作品で、前者はtwitterに書き込まれた原発に関する不特定多数のツイート画面をコラージュしたもの。ひとしきり文面に見入った後その場を離れ、振り返って気付く。それはtwitterスキンの水色を、福島原発の外壁柄に重ねた一枚絵だった。後者は電線に留まるカラスたちの六曲一隻屏風絵。まず退きで観て画面の静謐さを堪能し、続いて寄りで観る。カラスは人間の指や、セーラー服の端切れを銜えている。このカラスたちがいるのは…?着想は二十年前とのことですが、今観ると自ずと連想する土地は限られてくる。作品の前で絶句、まさに体感。2012年に個展が開かれたからこそ観られた作品。

震災と言えば『2011年3月13日あたりの幻視』にはグッときた。ASIMOだけじゃなくAIBOもいるねん。「みんなといっしょ」「戦争画RETURNS」シリーズをいっぺんに観られてしまうのも嬉しい…ウケる。『寅次郎2歳4ヶ月』がなかったのは残念。2歳4ヶ月のこどものモンスターっぷりがあまりにもあまりな手法で表現されていて、初見時すんごい感動したのをよく憶えています。この感覚判ってくれ。それを言ったら実はわたくし「犬」シリーズ大好きです、特に近作『野分』が好きです、いぬの表情がすんごく好きです。「食用人造少女・美味ちゃん」も好きです。わ、わかって……。

と言う訳で“18禁部屋”はラブホか!てなビニールカーテンで仕切られておりました。「犬」「美味ちゃん」シリーズは勿論こちら。『ミュータント花子』全頁展示には参ったわー(笑)。いやでもなんだろな、会田さんの描くこの手の作品群に自分が嫌悪感を持たないのは、女性蔑視的、女性を力で支配しようとする姿勢を感じないからなんですよね。あったとしてもパロディに転化され、蔑視する側を笑っている。作品から感じるのは、こういう身体、こういう器官を持つ女性をこう見たい、こう描きたいと言う欲求そのものだけ。

以前の展示では製作中だった『滝の絵』もやっと完成形で観られて満足。場所柄や時節柄もあるかも知れませんが外国人の鑑賞者が多く、「戦争画RETURNS」シリーズ辺りはイヤホンガイドに聴き入りつつ真剣に見入るひと、議論し乍ら観ているひとが結構いました。反面、靴を脱いでくつろぎ乍ら鑑賞出来る『日本に潜伏中のビン・ラディンと名乗る男からのビデオ』はすごいウケてた。「ハッハッハー」とか笑って座布団に胡座かいてる金髪碧眼のひととかいた。根っこの思想とパロディとのボーダーをどこにひくか、それも鑑賞者に還ってきます。

美術史に詳しいひとだと、画角や技法の引用を理解し、そこから沸き立つような衝撃もあるのだと思います。豊富な知識と強欲な探究心、それを描き出す腕の鍛錬。これらひっくるめて、美術の天才。