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2012年12月21日(金) ■ |
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『レ・ミゼラブル』 |
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『レ・ミゼラブル』@新宿ピカデリー スクリーン2
原作は大昔にこども向けの世界文学集みたいなので『ああ無情』を読んだ程度、ミュージカルは日本人キャストで二十年程前に観た(バルジャン=滝田栄、ジャベール=村井国夫、エポニーヌ=島田歌穂)くらいの知識です。でですね、ミュージカルの演出がちょっとトラウマになってまして……。
ジャベールがセーヌ川に身を投げるシーン、舞台版では「身を投げる」アクションの演出が、ジャベール役の村井さんがバンザーイと言うポーズをとる→周囲のセット―記憶が確かならば、川縁にある設定のベンチと街灯―がワイアーに吊られてびょーんと上にあがっていく、と言うものだったのです。これを「あっ、川に飛び込んだんだ」と認識するのに時間がかかったんですね。と同時に涙もひっこんだと言う…コミカルに見えてしまったのです……。舞台演出の限界、と同時におのれの想像力の限界を感じたものでした。来年から新演出になるそうなので、この辺りどうなるのかしら。
なので、「映画ならあのシーンが実写で観られる!」と言うのが個人的にはいちばん楽しみにしていたシーンでした。しかもジャベールを演じるのがラッセル・クロウと言う…わーいひいきひいき。ヒュー・ジャックマンのミュージカル俳優としての実力は折り紙付きですし、予告編で聴いたアン・ハサウェイの歌声にも期待が高まるばかり。勢いづいて初日に観に行ってきました。
長大な原作を2時間半ちょいにまとめてあるので展開は早い。時間の長さは全く感じませんでした。映画ならではの、歌い手の表情がクローズアップで観られたのがまず嬉しかった。繊細なニュアンスが伝わる!バルジャンの瞳に浮かんだ涙が、零れ落ちる前に粒となって睫毛に載っているところ迄見える!ファンテーヌ臨終のシーンも、アップになったとき襟元にちいさな血のシミがいくつもついていて、具体的な説明がなくともどんな病か察しがつくようになっている。あとジャベールが市長となったバルジャンに挨拶に来るシーン、高揚したこどもみたいな表情でかわいかった。そうそうひいきもあるけど、ラッセルってこういう細かい表情がすごくいい…ちいさなガブローシュの亡骸に自分の勲章をそっと載せる(これラッセルのアイディアだったそうですね。グッときたー)ときの表情も、死者への悼み、自分の信念の揺らぎ、と言った複雑なニュアンスが感じられて素晴らしかった。
鳥瞰シーンが多かったのも映像ならでは。バルジャンが生まれ変わる決意をし、破り捨てた釈放状が山頂に舞い上がるシーンとか、ジャベールが天へ誓う「星よ」と天へ悔いる「ジャベールの自殺」の対比とか。同じ高所を歩いているのに、天界への思いが180度違って見える。ラストシーンの壮大なバリケードを上空から見下ろせたことも、観客が自力で見ることの出来ないところ迄連れていってくれる感じがしてよかった。若干ジャンプカットが多いと言うか編集がめまぐるしくて、ん?ん?と思うところはありますが、それは序盤だけかな。物語に引き込まれると全く気にならなくなりました。
歌がライヴ録音と言うのも目玉で、演者の息づかいが近くに感じられます。シーン毎に空気感と言うか空間が感じられるようにも思いました。屋外と屋内で、音が拡散/反射する違いと言うか。「ファンティーヌの死」は、ブレスの合間にひゅうひゅうと弱々しい息が漏れる音迄聴こえて、彼女に死が近付いている気配がより感じられました。ヒューもアンも素晴らしい歌声。ラッセルは外見とちょっとギャップがある甘い声なとこもいいですね(微笑)。声を張らず、人物の心情に寄り添い、囁くような、祈るような小さな声で唄える、と言うところも舞台版とは違うところです。勿論舞台版では歌の迫力を堪能出来る良さがあります。そうそうアンサンブルですげー巧いひとがいたな…はっとする程。バリケード前で「市民は来ないぞ〜」て唄う鎮圧隊の隊長。調べてみたらミュージカルに多数出演しているハドリー・フレイザーと言う方でした。舞台版のレミゼではマリウス、ジャベールを演じたそうです。
そしてセットの規模とリアルな描写。現実のバリケードがしょぼくて、えっ地味…と思ったのですが、考えてみれば実際はこんなものだったのでしょうね。学生たちの非力さを象徴するものとして虚しさ満点。そしてこれがラストシーンに効いてきます。天界でのバリケードはとても巨大で、ドアを開けてくれなかった民衆が集い、笑顔で旗を振る。彼らの理想を可視化した素晴らしいシーンでした。娼婦街や泥(糞尿)だらけの下水道をはじめとする当時のフランスの街並の汚さ、ゴミくずみたいに殺された学生たちの遺体が目開けっ放しで並べられているシーンにも可視化の底力を感じました。かわいいガブローシュが目開けっ放しで死んでるのがもうね……。ヒューとアンの、昔のデニーロばりの役作りもすごかったです。オープングの囚人、ヒューだとしばらく気付かなかったくらい。おじいちゃんにこんな過酷な労働を…酷い……とか思ってたくらい(笑)。と言えばリアルおじいちゃん(と迄はいかないにしても、精神的にはもうおじいちゃんだよね…)になったバルジャンがコゼットのもとを去るとき、馬車に荷物を揚げられなくなってふううとなってたとこは泣いた……。
全編宗教的な側面が強く、結局生きてる間は試練ばっかりなのよね死後の世界でしか幸せになれないのよねみたいな感じで(自殺したジャベールは天界には行けないってとこもね…彼の迷いこそが人間の魅力だと個人的には思うので。ラッセルが演じてるから(笑)ってだけでなくジャベールには肩入れするわ)観ていてつらいところは多いです。バルジャンは神に許されて、ジャベールは神に罰せられる。神にもいろいろな顔がある。と言えば、バルジャンがマストを担ぎ上げたり、下敷きになった老人を助けるため荷台を肩に抱え上げるシーンはキリストの受難を象徴したもののようにも感じられました。
さて前述のジャベールの最期ですが、っまーこれでもかと言う実写(+CG)で見せてくれました。あの高さ!あの水の勢い!しかもザバーンじゃなくて縁石に激突した後流れに呑まれると言う見せ場になっておりました。舞台版のトラウマを二十年越しで払拭出来た……。
それにしても拷問かと思う程泣かされた。終盤は嗚咽が漏れそうになり声が出ないようにこらえるのに必死で、字幕どころか画面もあやふやに…そうだった、これものっそい泣かされるんだった(またトラウマ)。そんな訳で実はラストシーンの細かいところが見えていない。コゼットが喪服着せてもらってたとか帰ってwebで感想見てまわって知った。バリケードにいたと言うエポニーヌも見逃している…かんじんなところを!えええ〜手放さずだいじにしていた燭台があったとこはちゃんと見たんだけど……確認の意味も含めてリピートしたいよ〜!でもリピートしてもまた泣いて見落とすような気がする。
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