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2012年10月07日(日) ■ |
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『ヒッキー・ソトニデテミターノ』『紫陽花とバタークリーム』 |
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『ヒッキー・ソトニデテミターノ』@PARCO劇場
ドーンときて、プレゼントの缶バッジもらい損ねて帰ってきた。ひとの顔見たくないひとと話したくない…PARCO劇場でこの気持ちになったのは長塚くんの『sisters』以来。内容は全然違うんですが。つらい、おもしろい、くるしい、観てよかった。岩井さんおっかない、すごい。PARCO劇場がアゴラ劇場に。これをPARCOで観られたってことも大きい、ホームを持ってきた岩井さんとそれを通してくれたPARCOの制作さん有難う。宣美もなんもかんもハイバーイて感じでよかった。
『ヒッキー・カンクーントルネード』シリーズは未見です。このシリーズで、ひきこもりだった主人公登美男が部屋を出る。今作品はその後の話。登美男はひきこもり支援団体のスタッフ“出張お兄さん”になり、先輩出張お姉さん黒木とともに、二十代のひきこもり太郎、四十代のひきこもり和夫のカウンセリングを担当する。ひきこもりだった経験を活かし、しかし他者とのコミュニケーションに違和感を消すことが出来ず、それでもやっていこうと決心している。熱心な活動の甲斐あって、太郎と和夫は部屋を出て、団体の施設で生活を始めるが……。
シーンの間にひきこもり時代の登美男がフラッシュバックする。家族とコミュニケート出来ている。特に妹とは仲がよく、プロレスの技をかけあったりして、端から見ると何ら問題はない。それでも出られない。そして登美男は一度外に出るきっかけがあったとき、これでもかと痛めつけられる。周囲のひとはもうダメだと思う。それでも登美男は外に出ることを選んだ。
太郎と和夫は別々な形で外に出た(和夫も外に出ることが出来た、と言うことになるのだろう)。しかし全く問題の解決にはなっておらず、全てが経過だ。それはひきこもりに限らず、全ての人生がそうなのだ。ゴールは死ぬことの他にない。それ迄に何をするか、何をしないか。他者と向き合うか、他者を拒絶するか。何故?黒木が問う。登美男くんはどうして出てきたの?何もいいことなんかないかも知れないのに。それに対する登美男の返事に涙した。“生きづらさ”に対する解答はどこにもない。それでも決死の覚悟で外に出て行く。可能性は外にある。内にもあるが、それでも外にあるのだ。
みちのくプロレスが町にやってきたときの妹の台詞が忘れられない。ここで事態が好転したのは事実だが、当然このままでは終わらない。心がどんなに大きく動かされても、人生はそこで終わりにはならないのだ。ハイハイからバイバイへ。ゆりかごから墓場へ。ひとは暗闇からやってきて、暗闇へと帰っていく。登美男が消えていった暗闇は、『ある女』で主人公の女性が辿っていく道に繋がっているのかなと思った。“暗闇”を見詰めると言う感覚、それを体験として自覚出来たこともよかった。
セット(美術:秋山光洋さん)は舞台の真ん中にギュッと。ハイバイドアもバッチリ。出番前/後の役者たちは、舞台の隅のテーブルに集う。お茶を飲んだりしつつ、静かに座ったり、次の出番の準備をしている。これも全部見せる。
母親が泣き出したときの、和夫の表情を忘れることが出来ない。古舘寛治さんの凄みがジワリ。あの表情、後ろの席からでも見えただろうか?黒木を演じるチャン・リーメイさんの平熱の苛立ちは観ているこちらをハラハラさせる。綱渡りを見ているよう。相手を大きく傷付けるスレスレを走る。それは自分をも深く傷付ける可能性があり、実際彼女は傷付いている。それなのに?それでも?模索し乍ら歩き、そして立ち止まる。そのバランスが絶妙。吹越さんは妙な話だが、ときどき岩井さんに見えることがあった。もともと身体能力の高い方ですが、今回そのポテンシャルは他人になると言う形で発揮されていた。他人になる、それは役者そのものと言うことだ。その身体には笑いも悲しみも同時に存在する。
音楽がとてもよかったです。マリンバのあの曲はオリジナルなのだろうか。音響は中島正人さんとクレジットがありましたが、音楽は誰が作った(もしくは選曲した)んだろう?
ずるずると、今もひきずっている。余韻と言うには居心地が悪い。しかし、なかったことには出来ない。と言いつつ随分笑った。笑いと震撼は紙一重で、それは日常も同じ。
うーん、つらおもしろ過ぎて思い出すとつらくなるので、筋道たてて感想を書く気力がない。殆ど自動書記で書いた。読みなおすのが怖いのでそのままあげる。
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『紫陽花とバタークリーム』@マメヒコ飯店
これとハシゴだったのでなんとかバランスとれた次第。
三茶と渋谷にお店を構えるCAFE MAME-HICOが、この度映画を作ったとのこと。三茶で観劇した後よく寄るお店で、渋谷でもよく行く。おいしいコーヒーとケーキ、カレーがある。お店の女の子たちも皆感じがよく、とても居心地のいいカフェ。
先日『浮標』を観た帰りに三茶店に寄りチラシを見付けた。六月、向かいのシアタートラムで『南部高速道路』を観た後立ち寄ったら、何かの撮影をしていて入れなかった。その後サイトで映画を作っていると書かれているのを読み、ああこれの撮影だったんだな、と思ってそのまま忘れていた。出来上がったんだ。チラシを手にとるとなんとトモロヲさんがいるではないか。キャストも豪華!
カフェで繰り広げられる人間模様。オーナーはトモロヲさん。内田慈さんとキムラ緑子さんが母子。断絶された母子と兄妹、その修復。淡々と、しかし登場人物の心は波立ち、ささやかな、しかし大きな決断をする。ほんわりいい映画でした。大々的に宣伝する気はないようで、その奥ゆかしさにまた好感が持てたが、それにしても知らないひと、多いのではないだろうか。随分贅沢な空間で観せてもらいました…も、もったいないかも……。映画鑑賞用の特別メニュー、コーヒーとマフィンもおいしかったです。
タイトルにもなっている、紫陽花色のバタークリームロールケーキはマメヒコで食べられます。おいしいよー。台詞にもあったけど、昔のバタークリームってそんなにおいしく思わなかったけど、今はすごくおいしい。生クリームがないから代用で…ってんじゃなくて、いいバター使って丁寧に作られたバタークリームってほんとはおいしいんですよね。
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