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2012年06月29日(金)
『温室』

『温室』@新国立劇場 小劇場

前日迄『室温』だと思ってました(どげざ)。

ピンターと言えば『ダム・ウェイター』が有名で、こと早稲田劇研周辺を好んで観ていたひとには馴染みがあるのではと思います。近年ではシス・カンパニーが上演していましたね。翻案ものが上演されることも多く、ウェイターを掛け言葉にした『ダム・ウェイトレス』と言う作品もありました。これ今は亡きジァン・ジァンで上演されたんですが面白くて、今でもよく憶えています。思えばこれも早稲田劇研絡み。渡辺育子さんと柳岡香里さんのユニット(St. Scrap Shelley。検索してみたらまねきねこさんのサイトがヒット。これ全部観てるわ私)でした。雰囲気のある劇場の選び方も独特でよかったんだよねー、ジァン・ジァンもル・ピリエも今はありません。思わず昔話(としよりは話が長い)。

と言う訳で一作しか観たことがなく、自分にはすっかり不条理劇作家としてインプットされているピンターです。今作はミステリ的(『羅生門』のよう)な構成。とある国(独裁国家のように感じる)の国営収容施設で起こる連続殺人、父親不明の妊婦、不倫、官僚の腹の探り合い、と言った要素から、謎に迫っていく…いきたい……ところがそうは問屋が卸さない。ストーリーとしては筋が通っているようだけど、ちょっと油断するとあっと言う間に自分が薮の中。謎解きよりも、不可解な人間の心理と言うものに頭を突っ込む感じです。登場人物の物事の受け取り方の違いを追っていくスリルもありました。

先日観た『南部高速道路』に続いて舞台は四方が客席で囲まれたつくり。通常の正面と反対側は傾斜のある客席で、両側面は所謂二階席になります。側面の一階席にあたる部分には鏡面の板が張られている。舞台は盆状で、殆どの時間回り続けている。終始落ち着かず、どこを見ればいいか迷う環境です。て言うか真剣に見てると酔う(笑)。これは役者さんは大変だろうなあ、どこに向けて言葉を飛ばし、どこに身体の意識を向ければいいか……精神的にも肉体的にも、演者にはかなりの負荷がかかっていたように思います。セットは赤色で統一。これは戯曲指定なのだろうか……デイヴィッド・リンチ、『ツイン・ピークス』を思わず連想してしまった。登場人物たちとともに、観る側も精神的に不安定さを味わうことになります。

面白かったのは、側面二階席のお客さんが、自分たちのほぼ真下で演者が何かをやっているとき、それを見下ろそうとはせず向かいの鏡を見ていたこと。視線の向け方からして混乱しています。直接は見えないからあたりまえと言えばあたりまえなのですが、そういうフックが作品の不穏さをより膨らませていたように感じました。

作品に即してのことではあるのでしょうが、このクセのある演出と美術は気になります。深津篤史さんの演出、池田ともゆきさんの美術作品を観たのは確か初めて…同じコンビでの新国立『象』はチケットとれなかったんだ。『象』は来年再演されるとのことなので、今度こそ観に行きたいです。

さてそんな厳しい舞台環境の中で弾む演技を見せてくれたのが山中崇さん。ベビーフェイスも相まって天使/悪魔的な役柄両方出来る方ですが、今回はその両面の魅力が堪能出来ました。しかも身体がキレる!四方を囲まれた舞台だからこそそれがより際立って見えました。そうだー山中さんて野田さんの演出作品にも出ていたわ……舞台でもっともっと観たいひとだなあと思いました。また飴屋さんともやってほしいな。段田さんは流石の声の力で立場の入れ替わりを見せ(あと格好が『国民の映画』を思い出させたもんだから怖い怖い)、高橋くんは笑顔の薄皮一枚下では……?と言うキーとなる役柄を繊細な声色、表情の変化で見せてくれました。

いや〜〜〜〜〜な後味ですが、妙〜〜〜〜〜に記憶に残る作品でした。なんか、じわじわまた観たくなる……。あと国営施設が舞台の作品を国立の劇場で上演してるってところにゾワーとしつつニヤニヤしました。