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2012年04月07日(土) ■ |
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『シンベリン』 |
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『シンベリン』@彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
彩の国シェイクスピア・シリーズ第25弾。これで全てのロマンス劇は上演し終えたことになるそうです。残るは悲劇、喜劇、歴史劇と重厚なものばかりになりそうなので、こういったハラハラしたり笑ったり、そして最後は笑顔で大団円な作品は最後なのかも。身が引き締まる思いです。しかしロマンス劇はいい…とても気持ちよく劇場をあとにすることが出来ます。お芝居っていいなあとじんわり心が温かくなる感じ。ホンのつくりとしては矛盾点もあり、風呂敷のたたみっぷりもすごいのですが(笑・神さまの万能っぷりって便利だよねー)、「芝居だから!」こその嘘や荒唐無稽を楽しめる作品です。休憩込みで3時間40分、ブリテンにちなんでか物販には紅茶もありました(笑)。阿部寛さんはブリテン紳士の役ですが、古代ローマも深く関わっているストーリーのためか『テルマエ・ロマエ』の関連本も売られていてウケた。
開演より少し早めに席に着いておくといいかも。蜷川さんの芝居では毎回と言っていい程そうですけどね。以下ネタバレあります。
舞台は楽屋の風景。出演者の名前が張られた鏡台がズラリと並んでいます。鏡台の周りに写真や切り抜きが張られていたり、メイク道具の並べ方にも、各人の趣味や特徴が出ています。そうそう、観たひとに訊きたいのけど、勝村政信さんの鏡台の横に何故か大石継太さんの若い頃の写真を拡大コピーしたものが張られていたんですよね……あれ、何。勝村さん演じるクロートンがとっちゃん坊やのバカ息子で、髪型(ウィッグ)がその大石さんの写真に似ていたので参考にしたのかなと考えてはみたが、勝村さんのことなのであんまり深く考えなくてもいいのか?(笑)しかし気になる。ネクストシアターの川口覚さん等、若手が先に出て来て談笑しており、開演が近付くにつれ、浴衣やガウン姿の出演者が次々と現れます。そして開演、出演者たちが一列になり、しんと静まった客席に対峙。黒子たちが彼らの上着を一気に取り払い、役者たちが舞台装束の姿になり場の空気がガラリと変わる。客席からは「おお」と言う声と拍手、蜷川さんお得意の二重構造で幕開けです。
この作品はこの後5月にロンドンに持っていくので(オリンピック開催を祝う『ロンドン 2012 フェスティヴァル』内の「ワールド・シェイクスピア・フェスティヴァル」で上演されるとのこと)、それを意識したと思われる東洋色を押し出した音楽や美術を起用しています。屏風状のスライドドアによる転換、墨絵の背景画。歌舞伎の拍子木打ち、ツケ打ち的な転換音と、胡弓、琵琶等を取り入れた音楽。これらがしっくりきています。そして和+モンゴリアンの衣裳。この辺りは、今作同様本国で上演された『コリオレイナス』に連なるプランですね。
男たちが自分の国の女たちを自慢しあうシーンの背景画は『源氏物語』の「雨夜の品定め」、部屋に置かれた美術品として巨大な『ルーパロマーナ(ローマの牝狼)』像。こうやって言葉で説明するとカオスですが、実際目にしたそれは洗練されており、品のいいものです。オオカミ像の台座に横たわり、長煙管で紫煙をくゆらせ登場した窪塚洋介さん演じるヤーキモーは絵になった。これには不思議な説得力がありました。
窪塚さんはローマ=イタリアの伊達男としては線が細いのは否めないのですが、仕草や立ち居振る舞いに華があり、妖艶ですらあるヤーキモー像でした。言葉と知恵でひとを誘惑し、欺く。新しい魅力を感じました。蜷川さんとの舞台は三度目ですよね。『血は立ったまま眠っている』『血の婚礼』のように従来の窪塚さんのイメージを活かした役柄もよかったのですが、今回はシェイクスピアと言うこともありどうなるんだろう…と不安でもあったのです。見事に裏切られた。台詞回しも丁寧で、無理に早口にしようとはせず、しっかり言葉の意味を伝える努力の跡が感じられました。いつか『オセロー』のイアーゴを窪塚さんで観てみたいなとも思いました。
役者の才能とスキルによって説得力が増す、と言う面では大竹しのぶさんもそう。ヒロインであり、新妻であり、男装して少年となり、小姓を演じる。実年齢と演じる役柄の年齢差をこうも簡単に埋められる女優はあまりいない、実際目の当たりにすると納得せざるを得ない。こういうところは舞台の醍醐味でもあります。少年フィデーリとなったイノジェンが登場した場面はハッとする程のかわいらしさでした。清廉さを感じさせる、幼く美しい少年そのもの。激情の表現もコミカルな演技も自由自在だし、そして台詞の伝達力の強烈さ!やっぱりすごい。
そして勝村さんですよ。もう、いろんな意味でヒドい(笑)。最高です。前述のウィッグも似合ってたわー。暴走ギリギリの悪ふざけで好き放題。このギリギリってところが大事で、イノジェンへの思いや、国の後継者になろうとする確固とした意欲とプライドはしっかり見せる。もうほんっとバカ息子なので、どこ迄笑わせていいかのさじ加減が難しいと思いますが、ここらへんの切り替えは見事でした。ジュピター役も多分自作なのでは、紙のお面着用で嬉々として演じてらっしゃいました。あれだよねー勝村さんて王に仕える道化のイメージだ。身体も頭もキレる、状況を鳥瞰で見られる、そして命知らずで執着がない。いつか『リア王』や『間違いの喜劇』の道化役で観てみたいな。すっかりしっかり蜷川さんの懐刀ですね。
懐刀と言えば大石さんもそうで、誠実で善良なピザーニオ役、とてもかわいらしかった。この役あっちからもこっちからも無茶な命令されて可哀相よね(笑)だから彼のラストシーンの笑顔には、とても幸せな気分になりました。大石さんの笑顔、ホントチャーミング。
幼い頃誘拐され山の男として育てられた、第一王子ギデリアス(ポリドー)を演じた浦井健治さんもよかった。長身が映えるワイルドな役どころ。終盤実の息子であることを確認するためシンベリンに上着を取り払われるシーンは観客席が息をのむような色気と凛々しさがありました。あとクレジットはありませんでしたが、楽師の伴奏で歌を披露した仮面の男は浦井さんだよね?ミュージカルファンには嬉しいサービスだったのではないでしょうか。同じく誘拐された第二王子アーヴィレイガス(カドウォル)を演じた川口くんも次男坊らしい愛嬌のある青年っぷり。いやあ、いい役…このひとはこれからもいろんな作品で観たいなあ。この美しくちょっとユーモラス(クロートン退治の辺りとか大ウケ)な仲のよい兄弟が、実の妹と知らずにイノジェンを助け気遣うシーンはじんわりいいシーンでした。かわいらしかったー。
タイトルロール、シンベリンを演じる吉田鋼太郎さんは流石の貫禄、娘に怒るシーンは星一徹のようでした(笑)。鳳蘭さんもゴージャスで腹黒な王妃(名前もないんだよねえこの王妃・泣)を少ない出番で強烈に印象づけました。かっこええー。そしてポステュマスを演じた阿部さん。ロマンス劇の中にあって苦しむ役どころでもあり、妻を失ったと誤解して「もう生きていたくない」とのたうちまわるさまは今作品中異色なシーンなのですが、ここの空気の変えっぷりは見事でした。イノジェンを大事に扱う仕草も素敵。丸山智己さん演じるローマ将軍も、武人としての益荒男っぷりと小姓に翻弄されるコミカルさの二面性が格好よかった。
ちょっと惜しいと思ったのは、戦闘シーンのスローモーションがブレるところ。衣裳が重くて大変なのでしょうが、ここがビシッとキマればより説得力が増すように思います。『パーマ屋スミレ』での擬闘が印象深かった、栗原直樹さんによる殺陣そのものはすごく格好よかったです。
心に強く残ったのは、終盤全てが明らかになり、武人たちが剣を鞘に収めていくシーン。カチャ、カチャと次々に起こるこの音は、争いが消えていくこと、敵である人物を許し認めることに繋がります。武器を扱う音が和平へと繋がる、とても印象深いシーンでした。そして一本松についてのシーン。珍しく蜷川さんが台詞をいじっているのですが、今ここでこの作品を演じるにあたってのものとして納得出来るものです。再生を強く祈り信じる力は、演劇の持つ力――現在の状況を映し伝える瓦版のような、報道的な力でもあると思いました。意地悪な見方や解釈も出来るでしょうが、素直な心で観たいと思わせられた演出でした。
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■メニュー模索中? 毎度カフェペペロネ。ロースターを導入して、チキンの丸焼きを作っていたよ!前回来たときあったグラタンやパスタはなくなっており(たまたまなのか今後ずっとそうなのかわからん)、野菜たっぷり(キッシュ、チキン、サラダ、パン)プレートや、ローストチキンサンドがメニューに入っていました。迷って結局カレーにしたが、これの名前が「差し入れカレー」になっていた。なんだ、楽屋差し入れで役者さんも食べてますよーてことなのか(笑)。味は相変わらずのおいしさでしたー。チキンサンドは持ち帰りで翌日のおひるごはんにしてみた。こちらもうまかったー
■向かいの情報プラザでは 丁度ランチタイムコンサートが行われていました。川口晃祐さん、智輝さん兄弟による『さいたまアーツシアターライヴ』。チャイコフスキー、ショパン、リストの他にピアソラの「リベルタンゴ」がピアノ二重奏アレンジで聴けた!これはラッキーだったー嬉しかったー
■そうそう さい芸に行く途中にある与野西中学校に、蜷川さんとシェイクスピアシリーズ出演者の手形レリーフが設置されていましたよ。今後増えていくそうです ・埼玉芸術文化振興財団『与野本町駅から劇場までの空間を「アートストリート」に!!手形レリーフが設置されました!!』
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