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2011年12月20日(火) ■ |
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『欲望という名の電車』 |
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青年座交流プロジェクト『欲望という名の電車』@世田谷パブリックシアター
今年二回目の『欲望という名の電車』。『青年座交流プロジェクト』と言うことで、演出に文学座の鵜山仁さん、出演者に金内喜久夫さん、山本道子さん、塾一久さん、川辺邦弘さんを招聘する企画。鵜山さんは『欲望〜』オペラ版の演出もなさってるんですよね、観てみたいよー。
そして特別枠客演としてステラに神野三鈴さん、スタンレー(スタンリーじゃなくてスタンレーよ、今回)に宅間孝行さん。迎え撃つ?青年座はブランチに高畑淳子さん、ミッチに小林正寛さん。高畑さんが『欲望〜』に出演するのは三演目で、看護師、ステラときて今回初めてブランチを演じるとのこと。念願の役を演じるのが待ち遠しかったようで、今年始めに出ていたTV番組で「早くやりたい!」と話していたのが印象に残っています。
鳴海四郎訳で観たのは初めて。意訳や簡略、カット&ペーストが面白い効果を生んでいました。テンポよく間延びがない。具体的なところで言うとミッチの「南北戦争は終結ですか?」が「西部戦線異状なし、ですか?」になっていたり、スタンレーがステラに肉を持って帰って来る箇所が序盤ではなく、ブランチがスタンレーのことを「彼は野蛮人、いいえ人類以前の類人猿で、洞窟で待っているあなたに肉を持って帰ってくるのよ」とかむちゃくちゃ言った直後。これはウケてた。あと「アンブラー&アンブラー、クラブトゥリー」も出てこなかったな、取り立て屋の会社名と判らずスタンレー(と観客)が呪文か何か?と一瞬ぽかーんとするところ。タマーリ売りは出て来ないけど花売りは出てきて、こわれゆく女ブランチを死の世界へと誘う役割を担う。この花売りを演じる津田真澄さんは後に看護師の役でも登場し、やはりブランチの死を象徴する役回り。そしてラストシーンのステラはこどもを抱きしめて嘆き悲しむが、スタンレーの腕の中には戻らないヴァージョンでした。
どこに光をあてるかによって作品の印象が変わり、ストーリーと人物像の新しい面が見えてくる。インターミッションの挟みどころもカンパニーによってさまざまで、その違いも面白い。今回は「時には神様がこんなにも早く…!」の後。
今回のヴァージョンは、登場人物造形の記号化が明確だなと感じました。スタンレーはDVでステラはビッチ、ミッチは(セカンド)童貞。二面性もハッキリしてた。ステラは状況によって「ブランチ」「姉さん」「あんた」と呼び方を変え、スタンレーに金をせびる前後で態度ががらりと変わる。べそをかいたり無邪気にはしゃぐスタンレーはかわいらしくすら見える。ミッチは意識する女性とふたりきりになると豚のように鼻を鳴らす。各人の欲望の在処が見えやすくなり、その欲望は“夢中”と等価だと示す。
そして今回うわー!となったところはふたつ。ステラの、次女のノホホホホ〜ンっぷりがすごい出てた!次女だから解る、あのノホホンっぷり…女きょうだいがいる(≒男きょうだいがいない≒跡継ぎとしての男がいない)ひとにはピンとくるのではないか、あのきょうだいげんかの微妙なニュアンス……あるあるある!なんか今回そこがすんごいしっくり来たわー。姉ちゃんすまねえ!と心の中で叫んだわ(笑泣)。最後のシーンも、ステラは「やめてー!ブランチに何するの!」とかなんだかんだ言ってるけど、連れて行かれる=ブランチが死の世界へと旅立つ現場を見送ってはいないんですよね。これは「あなたはひとが死ぬところは見ないで綺麗な葬式にだけやってくる」と言うシーンに繋がる。
もうひとつは宇宙(たかおきと読むのですね…今回初めて知りました)くん演じるイヴニングスターの集金人がコドモコドモしていたところ。これすごい効果的だった!パンフレットにもあったけど、この子性的対象として扱われたのは初めてなのでは、と思わせられる。もーあれよ、あのー幼少の菊地成孔のことを思い出した…あれはトラウマになる……つ、つらい!てかコドモに手を出してはいかん!いーかーんーよー!そしてそれによってブランチのヤバさが際立つのです。あーこんなことしてりゃそりゃ近所で評判になるわ、ヤバいババアがいるぞ!って…ベルレーブにいられなくなる訳だわ、そしてここにもそろそろいられなくなるわ。説得力あったよう(泣)。
そうそうあとひとつあった。スタンレーがブランチとああなっちゃったー、ってのは酒が入ってたのが大きいなと受けとれたところ。そうなる迄のスタンレーの酔いっぷりが陽性なんだよ。で、それが豹変ってんじゃなくて元の人柄からのグラデーションに見える。前半のポーカーし乍ら酔っ払うシーンと地続きに、自然に見られました。ブランチのドレスのストラップが片方外れると言うちょっとしたところもポイントになっていました、この辺り、スタンレーとステラのセックスシーン同様、新劇的とも言える具体的な演出によってとても伝わりやすくなっていました。
高畑さんのブランチは精神が崩壊していく過程の提出が素晴らしかった…怖かったし可哀相だったよー(泣)。肉感的で豪快なイメージのある女優さんですが(彼女が演じたステラも観てみたかった!)、高畑さん演じるブランチは、気丈に家を守って来た長女がとうとう持ちこたえられなくなる程の傷を負った姿ととれました。ブランチはそれだけのことをされたのだと納得させられる。高慢さよりも自分と違う人種とどう接したらいいのか判らず混乱している感じを押し出していて、今やそっちの種類の人間である妹にも怯えている様子がよく出てた。ミッチとのデート前に極端な躁状態に陥っていたり、観ている側に「あれ、このひとおかしい?」と言う不安をポイントポイントで見せていくのも巧い。ミッチにアランのことを語るシーン、兵隊たちがトラックに「ひなぎくのようにつみとられていく」思い出を語るシーン、圧巻でした。
カトリーナ被害で廃墟になった遊園地をモチーフにした島次郎さんの舞台美術もすごくよかった、入場した途端わあっとアガったよー。ブランチとミッチがデートで出掛けた場所が、思い出とともに朽ちていったかのよう。そのセットの上で、クラウンのような仮面を被り演奏する小曽根真さんのピアノも素晴らしかったなー。ブランチの幻聴であるポルカにディスコードを交えて曲調を狂わせていく。効果音の配置も絶妙で、電車の通過音が移動したりねこがよく鳴いたり、なんかもーブランチでなくとも心がざわざわして落ち着かない。この作品、つくづく音を観る芝居だなあと思った…。
高畑さんがカーテンコールで見せた表情が印象的だった。ブランチを演じきった顔、座長としての顔。真摯な表情で拍手に応え、最後の最後にぽろっと笑顔が出た。高畑さんが看護師役の頃からずっと応援してきたのかな、と思わせられる彼女と同年代らしき男性ファンが何人もスタオベしていて、そこにもジーンときたなー。そういう関係って素敵だ。隣席が懐中時計+オペラグラス持参のおじさまだったんだけど、ブランチがミッチにアランの話するところでさめざめ泣き出していた。いくつになっても感動出来るっていい…そういうのも含めて、豊かな観劇体験が出来たなあと嬉しかったです。
幕が下りてすぐに再演してほしい、高畑さんのブランチにまた会いたいなと思いました。
そうそう、パンフレットの『日本での上演記録』頁に、ZAZOUS THEATERの『銀龍草』が作品変更の経緯とともに紹介されていたのが嬉しかったなー。編集の大堀さんありがとー(涙)。
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