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2011年10月22日(土) ■ |
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『泣き虫なまいき石川啄木』 |
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シス・カンパニー『泣き虫なまいき石川啄木』@紀伊國屋サザンシアター
いやー…この手の困窮+家族がいつも揉めてる話ってすんごい苦手で……いや困窮してても揉めてても面白みがあればいいんですが(自分基準)、実際面白みもあったんですが、その面白みに行き着く迄がすんごいしんどかったー。
デフォルメは多少あれど史実がもとになっており、執筆当時の劇作家の家庭環境をも反映されている。そしてどちらのいざこざも作品紹介テキストに必ずと言っていい程記されていて、あたかもそれが観劇前の基礎知識のようになっているものだから、あーなんでもかんでも予習するってのも考えもんですなとしょんぼりしました。いやでも予習してなくてもあれはキツい。笑えねー。
し・か・も!役者さんが皆巧過ぎる程に巧過ぎる。嫁をいびりまくる姑とか、孫の位牌を質に入れて酒買っちゃうダメ坊主とか、もう、つらい!(泣)なんで金払ってこんなつらい話観なければならんのだと観劇の基本を振り返る程でした。理不尽なことを言っているのは自覚していますよ…家族のいざこざを楽しんで観る才能が私にはないんですよ……。いやーえりさんも段田さんもすごい…いつもすごいとわかっちゃいるが今回はすごい腹立った(笑・役にですよ)。しかもえりさん、盛岡弁があまりにも自在で台詞がところどころ聴き取れない…(笑)。信心深いクリスチャンの妹がいちばん正論を言ってるんですが、基本が信仰心にあるからオールマイティではない。西尾まりさんの声と台詞回しは、言葉の強さをズバリと通すのに効果的。
この家族が常に六畳二間にぎゅうぎゅう、劇中八割は揉めてんじゃなかろうか。啄木でなくてもムキョーてなる!逃げたくなる!いやむしろあの環境で作品を書き続けた啄木尊敬する!仕事あんまりしてない割に不満ばっか言ってるとかだらしないとかツッコまれてるけど、そうなっても仕方ないよー!と叫びたくなる追い詰められっぷりでした。
で、残り二割でいい話が…と言うか、こんなしんどい環境でもちょっとひといき、なこともあったんですよ。と言うエピソードのこころ休まることと言ったら。皆できしめん食べるとことか、夜鳴きそばを呼ぼうとするところとかね。どっちも食べもの関連か。そして浩介さん演じる金田一京介がいてくれてホントーによかったー!いいひとすぎると言うよりひとがよすぎて気前がよすぎる人物で、石川家にお金とかポンポン渡しちゃう。破った十円札を渡したシーンでは、客席の各所から「ええ〜!(またあげちゃうの?)」と悲鳴をあがりましたよ。このときの金田一って結構打ちひしがれてたんだよね…まーなんと言うか、育ちのいい子のおおらかさが嫌味なく出ていてよかったです。登場するタイミングもよくて。家族が揉めまくって、もういやー!席立ちたい!劇場から逃げ出したい!と言う思いがピークに達する寸前に出てきてくれると言う。いやー浩介さん有難うと思う程、劇中のオアシスとなっていましたよ!
濃い家族の濃いいざこざに囲まれて、稲垣さん演じる啄木はふてくされたりのたうちまわったり悶々としたり。さまざまなことを受け流しつつ、友人の金田一に愚痴をこぼしたりお金をせびったりの日々。金田一がいないときはあまり喋らず、仕事をさぼり、家族が揉めている部屋のすみっこで我関せず(と言うかなるべく関わりたくない)とものを書いている。そんな「実人生の白兵戦」を過ごす彼が二幕に輝きます。大逆事件を知り憤り、金田一と激論を交わす。その怒りは実人生からの逃避なのか、作家としての自負なのか…抑え込んでいたさまざまな感情が溢れ出るこのシーン、とてもよかった。
嫁の貫地谷しほりさんが、最後に啄木の日記を燃やすまいと、ほぼ初めて自分の意見をはっきり言うラストシーンは心に残りました。いやでつらいことはどんどん忘れていって、楽しかったひとときだけが濾過されて残るといいなと思うものですが、その楽しかったことはつらいこととセットになっている場合も多いですよね。はー、人生って。
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