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2011年10月19日(水)
『HOPE JAPAN』

シルヴィ・ギエム・オン・ステージ 2011 東日本大震災復興支援チャリティ・ガラ『HOPE JAPAN』@東京文化会館

シルヴィ・ギエムが発起人のチャリティガラに行ってきました。趣向を凝らしたプログラム、心のこもった演技と演奏。静かに、しかし熱い思いのこもった作品ばかりの充実した内容でした。

東京バレエ団によるベジャール振付『現代のためのミサより“ジャーク”』で開幕。続いてアンソニー・ダウエルが登場、挨拶と詩の朗読。挨拶文は字幕が出ていたので原稿があったのでしょうが、ダウエルはカンペ等持っておらず、定型文を読み上げるようなこともしませんでした。ちゃんと自分の言葉で思いを語ってくれたのだと、ちょっとしたことですがジーンとしました。朗読された『満ち足りた幽霊』『子どもの言うには…』は、英国ロイヤルバレエ団の創設者であるニネット・ド・ヴァロアのもの。追悼の意を深く感じ、静かに聴き入りました。会場が礼拝堂のような雰囲気に。

ギエム登場、ベジャール振付の『ルナ』。ベジャールとギエムの出会いの作品でもあります。真っ白いシンプルな衣裳を身に着けたギエムの格好いいこと!美しさってある一線を越えると両性具有的なものになるなあ…曲線と直線、滑らかに動きピタリと止まる長い四肢。続いて登場したマッシモ・ムッルのプティ振付『「アルルの女」より』は男性性を押し出した踊り。アルルの女に魅了され破滅して行く青年の姿を狂おしく情熱的に踊り喝采を浴びました。

一変、次は日本から。花柳壽輔の舞踊、藤舎名生の横笛、林英哲の太鼓による『火の道』。重力と闘うかのようなバレエと、重力に根差した舞踊を続けて観るのはとても興味深い。どのプログラムもセットは皆無に等しく、裸舞台に身体ひとつで立つ演者たちからは、ジャンルは違えど地鎮と鎮魂と言った共通の祈りのようなものを感じました。

ここで一部終了。客電がつくとざわめきとともに「はあ〜」と言う感嘆のため息の気配があちこちから。一演目が終わる毎に歓声や拍手が大きくわくし、会場の雰囲気は高揚しているけれど静かで落ち着いた感じ。二部はバッハ『無伴奏チェロ組曲』から構成されたジェローム・ロビンズ振付の『ダンス組曲』からスタート。チェロ演奏は遠藤真理、ダンスはマニュエル・ルグリ。遠藤さんって『龍馬伝紀行』の曲を演奏している方でした!華やかで柔らかい笑顔に真紅な衣裳が映えるルグリも両性具有のオーラを纏っていました。踊り終わるとレディファーストでとってもジェントル、全ての仕草が優雅。

続いてソプラノ、藤村実穂子さんの歌唱で『十五夜お月さん』『五木の子守唄』『シャボン玉』『赤とんぼ』『さくらさくら』。無伴奏、広いステージにたったひとりで、声だけを響き渡らせます。客席の止まらない咳も響いてしまったのは気の毒でしたが、その唄いきる力強さと美しい声に釘付けでした。そして静けさも音楽なのだなあと感動しきり。

そしてプログラムの最後を飾るのは、ベジャール振付によるギエムと東京バレエ団の『ボレロ』。アレクサンダー・イングラム指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団による生演奏。生オケの『ボレロ』は2003年の『奇跡の響宴』で観たとき(ダニエル・バレンホイム指揮、シカゴ交響楽団演奏)、演奏と踊り自体は素晴らしかったけどテンポやリズムの感覚が噛み合わない部分があり、難しいものだよなあと思ったのでした。今回はそういったストレスは感じず。相性もあるのかも知れません。オーケストラピットがあるためステージが若干後方に退いている分全体のフォーメーションが綺麗に見えました。ギエムは確かに跳躍等が低くなった印象はありましたが、それを凌駕する力強さ、しなやかさが全身から青い炎のように立ち上がっており、若返った印象すらありました。彼女の踊る『ボレロ』を何度か観ていますが、鬼神のような迫力でリズムのダンサーたちを支配し、自身もろとも焼き尽くしてしまうかのような激しいメロディから、リズムたちを鼓舞する母性すら感じさせる、おおらかなメロディへと変化していった印象がありました。今回は鋭さと包容力が絡み合い、柔らかく静かな、しかし強靭なメロディに感じました。

封印された『ボレロ』が日本で上演されたのは二度目。一度目はベジャール追悼のため、今回は「日本との絆を再確認するため」、「日本を心から愛したベジャールの魂をつれてくるため」。ボレロが復活するのは何か不幸があったとき。複雑な気持ちではあります。でも観られるのは嬉しいし、この踊りにはいつも力づけられ、生きる意味を考えさせられるのです。踊りは祈り。ギエム、本当に有難う。

3月11日以降、来日公演の延期や中止が続きました。特にオペラ界はメインキャストの降板が相次ぎました。残念なことだけど、外国のひとからすれば、福島も東京も福岡もそんなに変わりはないのでしょう。それを責める気持ちは全くありません。あの国に行くなんて恐ろしい!と思われるくらいのことを日本はしでかしてしまったのです。ギエムは長いメッセージを送ってくれ、4月にパリでチャリティ公演を開催してくれました。そして予定通りのツアーに、この日の特別公演も加えてくれました。シンガポールから二日前に現地入り。他の出演者の方々もハードスケジュールのなか集まってくださって、しかもこの内容。

その行動力と優しさ、プロフェッショナルとしての仕事ぶりに、尊敬と感謝の気持ちでいっぱいです。素晴らしいステージでした。