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2011年08月27日(土)
『不思議な卵』『奇ッ怪 其ノ弐』

海流座『不思議な卵』@紀伊國屋サザンシアター

お誘い頂き行ってきました、米倉斉加年さんの劇団。米倉さんと言えば、角川文庫『ドグラ・マグラ』『少女地獄』等の夢野久作作品の挿画家としてのイメージが強い。何せ小学生のときに見ましたから、あの衝撃は忘れられません。と言う訳で、卵が先か鶏が先かではありませんが、個人的には米倉さんと言うと画家としてのイメージが強く、舞台作品を観るのは初めてでした。

実際に観る米倉さんはとてもとても物腰柔らかい穏やかな印象。しかし、かつての美しい自然を持った村を知っている150歳は生きているであろう老人、と言うある種異界の住人のような役柄で、こわいと言えばこわいのです。畏れみたいなものを感じました。なんだか動物堂を経営してた頃の飴屋さんが歳とったらこうなりそう、と思わせられる風貌になってた(笑)。

トルストイ『イワンのばか』から構成され、人間の手に負えないものを扱うことについて、自然の恩恵への感謝を忘れてはならない、と言ったテーマを織り込んだ物語。親子で観られるようにとの配慮(何せマチネが11時開演)で、わかりやすい言葉を使い、歌や演奏を交えたあたたかい舞台でした。

JOHNSONS MOTOR CARのブライアンがブラコ名義(かわいい)で出演しており、リコーダーやパーカッションを演奏。格好よかったYo!

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現代能楽集VI『奇ッ怪 其ノ弐』@世田谷パブリックシアター

『奇ッ怪』が帰ってきたよ!劇場はトラムからSePTヘ。まんまと間違えてトラムに行きましたよ……。

一昨年上演された『奇ッ怪〜小泉八雲から聞いた話〜』が夢幻能の形式をとっている(前川さんは無意識だったそうですが)ことから、今回の新作はSePTのシリーズ現代能楽集としての上演となりました。「このあたりの者です」と言う台詞もあり笑いもあり、狂言のエッセンスも。構成の妙も堪能出来ます。そこから浮かび上がるのは3.11の色濃い影。現在と普遍へ果敢に挑んだものになっていました。以下ネタバレあります。

登場人物がその土地にまつわる悲劇を伝承として語る。実は話し手はその悲劇の当事者であり死者であり、やがて成仏していく――これが夢幻能。とある事故(自然災害によるものか、人為的なものかは明らかにされない)が原因で壊滅した故郷に戻ってきた青年。彼は土地の者で彼の父親とも親しかったと言う人物や、土地の調査のためにやってきたと言う人物たちから“奇ッ怪”な出来事を聞いていきます。これが劇中劇で演じられていく。

死者であろうひとたちがかつての出来事を語っている、と言うのはある程度序盤から了解出来る。それに違和感がない。「ある程度」が「確信」に変わるきっかけがあるのですが、それもここぞ、と言うところで投げ入れられるので、判っていた筈なのに鳥肌がたつ。恐怖からではなく、パズルのピースがはまった!と言った鳥肌です。印象的なシーンとしては、入院していた奥さんが帰宅したが、実はそれは幽霊だったと言う場面。病院から電話がかかってきて、家にいるのは実体ではないと夫が気付いた瞬間に妻が“消える”のですが、このシーンの描写がすごかった。演じる岩本幸子さんの表情、それを浮かび上がらせる照明、徐々に大きくなるノイズ。ゾーッ!としたのですが、そこから浮かんだ感情はひたすら悲しみだったのです。これにはハッとさせられたな…原田保さんの白い照明、すごく好き。

と言うように、恐怖の質も独特。やはりこちらも恐れと言うより畏れ、なのです。彼らが未来への希望を語れば語る程、その「これから」はないと気付いている観客の心には悲しみが降り積もっていく。彼らが幸せそうに話す様子を、ただただ見ているしかない。どうすることも出来ない。この辺りの、こわさを悲劇として見せる描写がとても丁寧でした。

そして興味深かったのは、1時間40分と言う上演時間にも現れている凝縮された台詞。ギリギリ迄削ぎ落とされた言葉がさまざまな解釈と余韻を残すものになっているのです。演出と役者の腕のみせどころでもあります。このあたり一昨年の『奇ッ怪』でもそうだったけど、成志さんが冴えまくってたわー。妻を亡くした男が医師免許を持っていると偽り女性のカウンセリングをするパートのやりとりが、ミステリとしても成り立ちそうな鋭さと豊かさでした。彼のひとを救いたいと言う気持ちは自分への悔恨からか医者への復讐のためか?彼女が嘔吐したのは精神的なものかカレーが原因か?幾通りもの解釈が出来る。さあどっちだ〜?とドヤ顔した成志さんが浮かぶようだったわ、にくらしいわー(笑)。成志さんてホント自由よね…あの芸人ネタの数々は日替わりなのでしょうか、ゲラの小松さんはかなりつらそうでしたよ(笑)。

死んでしまった者と生き残ってしまった者への鎮魂とは。あれから半年も経っていないところ、この大きな(そして解決する術が見付かる筈もない)テーマを扱うことに葛藤や試行錯誤が見え隠れする部分はありました。しかしそれを含めた誠実さがひしひしと伝わる作品でした。前川さん、好きな作家です。

よだん:これからしばらく「目、合いましたよね」「家はひとが住まないと傷むんですー!」って台詞が自分内ではやると思います(笑)ヒー

よだん2:仲村トオルさんのオモシロい魅力は舞台で生きるなー。この辺り『ドライブイン カリフォルニア』で一気に花開いた印象。松尾さん、流石の慧眼

よだん3:カメラが入ってた。どっかで放映されるのかな?