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2011年07月27日(水) ■ |
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『CLOUD ―クラウド』上演台本 |
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7月22日に『CLOUD ―クラウド』の上演台本が公開されました。公式サイトからPDFファイルでダウンロード出来ます(『CLOUD』(「download」をクリック))。公開に際してのスズカツさんのコメントはこちら→・-suzukatz-cloud『CLOUD/上演台本公開について』
嬉しい。有難うございます。
536KBのファイル、出力すると44枚の紙の中に、あの世界の設計図が記されている。
個人的に興味深かったのは、テキストを通して、実際に舞台で観た際のリズム感とタイム感の記憶が掘り起こされると言うところ。例えば「#プロローグ」〜「#1」、暗転寸前から台詞の第一声迄に、“テキストに書かれていない”さまざまな情報と時間を思い起こし乍ら読むことが出来るのだ。
空から降ってくるような街のノイズ、心地よい速度のグラデーションで暗くなっていく視界、音楽が入ってくる迄の身体が浮きあがるような完全暗転の数秒感(多分2秒もない)、その直後耳に飛び込んでくるだけでなく音の粒子が頬にぶつかった感じすら覚える大音量のサウンドと、光による色彩で鮮やかに染まる空間、中央に歩み出るひとりの人物の佇まい、向かい側にゆったりと現れるもうひとりの人物の穏やかな表情、“I know a girl who's like the sea / I watch her changing every day for me”と言う歌詞、新たに現れた対角線上に立つスーツ姿のふたりの人物、“One day she's still, the next she swells / You can hear the universe in her sea shells”と続く歌声。“No, no line on the horizon, no line”のフレーズのあと弾かれたようにステージに駆け込み、踊るようにクラウドをつかまえていくスーツのふたり、“I know a girl with a hole in her heart / She said infinity is a great place to start / She said "Time is irrelevant, it's not linear"/ Then she put her tongue in my ear”、一歩退いた場所から彼らを見渡すひとりの謎めいた人物、繰り返される“No, no line on the horizon, no line”のフレーズ、高揚する音楽。それらが断ち切られ、軽快な第一声が投げ入れられる。「朝!」
約2分40秒。このシーンを説明するト書きは26行、テキストを読むだけなら十数秒と言ったところ。目で文字を追っているその十数秒の間に、脳内ではこれだけの情報と時間が高速で再現されるのです。このタイムラグが面白い。ここらへん、オガワの記憶にあるイタバシとウサミの「ノッキングやスローモーション」を思い起こさせる感覚でした。
そして「#1」冒頭。「朝。トースト、ソーセージ2本、アメリカンレリッシュ&タバスコ、ラズベリージャム、有機豆乳、野菜ジュース、エスプレッソ」…記号的な単語の羅列。何が始まるのか?彼は何について話しているのか?一瞬このシーンをどう捉えようかと、観客は台詞を発している人物を注視し言葉に聴き入る。……そして「ポトフなんか作れるんですか?」ダイアローグが始まり、観客はストーリーにランディングする。
……濃いーわ!情報多いーわ!「イタバシとウサミ、ゴミ袋を扉の外に運び出す」と言うたった21文字のト書きひとつとっても、そこからあれだけ芳醇な情景が立ちあがると言う舞台のマジック。「#2」終盤のDD使用中のオガワの挙動にしても同様だし、「#3」のテキストの並びをあの声、あのリズム、あのテンポで展開するMCオガワとMCアマリのやりとりもそう。台詞を叫ぶか、呟くか、と言う演者の選択からしても、その多様さは限りがない。
ごく簡潔に記されたこのスクリプトからあれだけの舞台空間をたちあげるカンパニーの想像力と、それを具体的に形にする実力を思い知らされました。これ100分前後で助かったわ…長かったらもちませんて集中力が。空調が寒いとか椅子が小さくて腰にくるとかして身体からくずおれるわ……(笑)とは言うものの、ダイアローグに比重があるシーン、演者の身体能力に注目するシーンというように、情報提示の振り分けと緩急が絶妙なのです。そのピースのハマりっぷりには爽快感すらある。そしてどこを、何を選択するかの判断と、それ以外のものをいかにノイズとして舞台上に残すかあるいはカットするか、は演出家のキューになるのでしょう。そして出来上がったのがあの舞台。キャースズカツさんカッコ☆E!
( )内に示される、実際には声に出されない台詞の心情、解説も簡潔に要点が押さえてある。想像が拡がるトピックがいくらでも潜んでいる台本ですから、舞台を未見のひとが読んでも存分に楽しめると思います。そして逆に言えば、今後『クラウド』を他のカンパニーで新たに上演することがあった場合、この“テキストに書かれていない”部分をいかようにも違うものに出来る訳です。
と言う訳でご本人言うところの「設計図」としての面白さが満載の台本ですが、勿論台詞そのもののキラーラインも地雷のように仕込まれていますよーう、うえーん。キャースズカツさんカッコ☆E!(だいじなことなので二度言った)
あと、『クラウド』以外のスズカツさんの作品から思い起こされたことを含め興味深かったところなどをおぼえがき。
・このオープニング、『LYNX』でも『欲望という名の電車』でもそうだったなーって。このふたつに限らないけど。ゆったり暗転、上空からの音と光。円形劇場って音も照明も降ってくるような感覚がある。大好きな劇場
・そういえばイタバシは「スマートフォン」、ウサミは「携帯」指定なのが面白かったな。当て書きの要素もあるかな
・エンドウの心情寄りで読んでしまいがちなのでしょんぼりする。うえーん
・オガワのある台詞がテキストにはなかったんだけど、これは最終稿の後にスズカツさんが書き足したのか、トモロヲさんがアドリブ的に言った言葉をスズカツさんが残したのかどっちなのか気になるなー。ここ自分にとってかなり大事なとこ。オガワの“ゆれ”が見えるので
・スズカツさんの作品にはよく“不在の女性”が出てきます。『LYNX』初演のエリコ、『ウェアハウス』初演のハスミの奥さん、他にもいろいろ。今回はオガワの元奥さん≒エンドウの奥さんがそれに当たります。「心に穴の空いた、無限が出発点なんて最高、時間なんて無意味だと言う海みたいな女の子」。『LYNX』初演のテーマは「都市生活におけるオリジナルとコピー」だったと記憶していますが、エリコと、ハスミの奥さんと、オガワ、エンドウの元奥さんが同一人物だったら?とふと思う。いや、同一人物ではなくコピーと言った方がしっくりくるか。彼女たちは誰かのコピーで、時間など意に介さず生きている。どこにもいなくて、あらゆる場所に偏在している
・なんてことを妄想するのも楽しいものです
・と言えば「あらゆる場所に偏在している」って矛盾していて、禅問答みたいだよね
・そうそう、イギー・ポップとデヴィッド・ボウイのことをオガワとエンドウに重ねあわせちゃったりもしたわー。どっちも死ななくてホントよかったよねー!でもエンドウは(泣)それ言ったらヒレルとアンソニーのことも思い出すわー!(もうすぐ来日記念)
だんだん使用曲の深読みみたいになってきた…あかんわー台本関係ない!そこをリセットしてまっさらから読める楽しさもある筈。忘れたり思い出したりし乍ら読んでいこう。そして新しい『クラウド』の世界にまた触れられることに感謝しよう。といったん〆ますが、いろいろひっかかりが出てきたらまた感想書きたいな(まだあるんかい)。
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