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2011年05月14日(土)
『たいこどんどん』

『たいこどんどん』@シアターコクーン

宣美の古田さんが妙にかわいらしくて、やだわこにくらしいとか思ってたんですが、いやーほんっとかわいかった。古田さんをかわいいなんて思ったの、初めてだ!以下ネタバレあります。

芝居自体の仕上がりはちょっと綱渡りな部分もありました。それでもとても面白かったんですけどね。この顔合わせ、こんなもんじゃねーだろーと思うと同時に、この顔合わせだから今この状態に迄舞台にあげられたのかなとも思い、複雑な気分になった。古田さんをこんなにひやひやして観たことってあんまりない。いやでも八面六臂の活躍だったなー、もし桃八が古田さんじゃなかったらどうなっていたか…って思ったもん。

そう、不安要素を凌駕する程、古田さん演じる桃八の人物像が魅力的だったのです。若旦那がだいすき。江戸がだいすき。若旦那のためならどんなことでもするし、若旦那をバカにするやつは許さない。若旦那と江戸に帰りたい。そのけなげさと、主人を慕うさまはまさにこいぬのよう。しかもストーリーの語り手も務め、舞台と観客の橋渡し的な役目も担っている。インタヴューで「やること多過ぎる。特別手当がほしい」つってた意味がよくわかった(笑)。しかもこれ相当な熱演なんですが、そういう暑苦しさを前面に出さずしれっとやってるふうに見せちゃうとこがすごい。

そして桃八から慕いに慕われる若旦那、清之助。これが相当なダメ人間なんだー(笑)。金遣いは下手だしすぐ騙されるし女に弱いし。こんだけダメな清之助になんで桃八はついていくのさ?と言う疑問を橋之助さんがスパッと解消してくれます。かーわいいんだーこちらもー。性根自体は善人なんだよね…小心者でさ。タチわるいわー(笑)。憎めねえバカ!あーかわいい、誰かついといてやらんといかんー!と思わせられるバカです。もうね、あー橋之助さん本人がかわいいバカなんだーとうっかり思ってしまう程でしたよ。

この愛嬌たっぷりの桃八と清之助に惹き付けられ、彼らの道中をハラハラドキドキ追って行くことになる。3時間40分の上演時間中、集中力を切らすことなく観ることが出来ました。あっと言う間だったわー。要所要所で艶やかさを振りまき、東北弁を駆使して各土地の女たちを多彩に演じ分けた鈴木京香さんも素敵でした。

もともとはこの公演、井上ひさしさんの新作を勘三郎さんと古田さんで、と言うものだった。しかし井上さんが亡くなり、勘三郎さんがお休みに入り、この演目をこのキャストでやることになった。これが偶然なんてね……。若旦那とそのたいこもち桃八がひょんなことから東北へ流され、江戸へ戻ってくる迄のあれやこれやのストーリー。数々の困難が待ち受け、ふたりはすっからかんに。九年かけてようやく戻ったふたりを待ち受けていたのは、消えた屋敷と家族、そして東京と名前を変えた江戸。

清之助は自業自得で梅毒にかかるも快癒する。一方ご主人を侮辱した賊に歯向かった桃八は片脚を失くす。病気は治っても、脚はどうやっても戻ってこない。ここらへん、人間ってどうなっても平等にはならんのなーとうっすら悲しくはなったなあ……。それでも桃八は、気落ちしている清之助にまた一からたてなおしましょうと明るく声をかけ、元気づける。どんなことにも負けるものかと言う庶民のしたたかさ、強さを描く井上さんの厳しさをひしと感じました。

で、蜷川さん。絶対“今”をぶっこんでくるだろうなーとかなり気持ちを引き締めて席に着いたのですが……あの幕開けとあの幕切れに、あえなく撃沈されました。舞台の在り方に現在を込める演出家の面目躍如。戯曲を決してカットせず、改変せず、あの光景を舞台に立ち上げた。そこに立ちまっすぐこちらを向く出演者たち。美術、音響と役者たちの顔。言葉を使わず、幕末の時代を今に繋げた。一瞬ざわめくような空気が劇場に満ち、ほどなく割れんばかりの拍手が沸き起こった。舞台上にも、客席にも、人間に対する畏敬の念が溢れていた。

月刊伊藤ヨタロウ状態の、ヨタロウさんの音楽もよかった!来月は出演者として楽しみにしてますよ。

よだん:劇場内のビュッフェメニューに東北名物どんどん焼きが。すごいいいにおいがロビーに…ナイス物販、食べたかったよー