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2011年05月01日(日) ■ |
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『欲望という名の電車』2回目(東京公演千秋楽) |
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『欲望という名の電車』@PARCO劇場
リピート、東京公演千秋楽。一度目はかなり前の席だったので、登場人物が床に座り込む場面になると前列のひとの頭に隠れて見えなくなってしまったり、セット全体や映像が見渡せなかった。あと戯曲を読み直してから(ウチにあるのは小田島雄志訳だが)確認したいところも出てきた。しかし何よりやはり演者が魅力的だった、どうにもこうにも気にかかる。もう一度あのキャストでの『欲望〜』を観たくなった。初見の翌日にチケットを確保しました。
前半観たときとは観客の反応が格段に違った。このライヴ感は嬉しい。やはり前半は堅かったのだ、観客も演者も。3.11から一ヶ月後、ちょっと落ち着いたかな、と思った頃大きな余震がまたあって、その翌日に開幕したからなあ……。そして、その観客のノリによって腑に落ちたシーン、気付いたことがより増えた。印象が変わったところもある。無理矢理笑わそうと言う演出じゃないのだ。以下ネタバレあります、未見の方はご注意を。
プログラムでの松尾さんによれば、「嫌味みたいに」ト書きに忠実にやっている。そして、ト書きにないところに、松尾さんならでは(と言うか、それが演出家の仕事のひとつでもある)の解釈を反映させる。例えば今回ミッチはハゲヅラ着用だったのですが、そのミッチが初めて帽子を脱ぐところがブランチの「世の中わからないことばかり…」と言う台詞の直前。これはずるい(笑)。しかし本筋からは逸脱していない。終盤の看護師がとった行動も、前半観たときより違和感がなくなっていた。動きが慣れてきたのかも知れない。
笑わそうと言うより、「一歩退いて見れば、この状況は滑稽でしょう?」と言う提案。その滑稽さが呼ぶ悲劇。笑えるのに泣ける、胸を押しつぶされる思いで笑う、これはもう松尾さんの演出以外のなにものでもない。名シーン「あなたと俺では?」以降のミッチとブランチの美しさとせつなさは、他では絶対に見られないものだったと思います。皆さっき迄ミッチの姿や挙動見て笑ってたくせにー!私もな!あのとき観客はステラと同じように「ミッチとブランチがうまくいけばいいのに」と思っただろうよ!ああ人間って愛おしい。いやもうオクイさん素晴らしかった。あのいでたちで涙を誘う、観客の心眼を開かせる役者さんですわ。恐ろしい……!
でも、やっぱりミッチとブランチはうまくいかない訳ですよ。ブランチの言動は嘘と虚飾で固められたものですが、あのときのミッチとの会話は何ひとつ嘘ついてなかったと思うのね。アランの話をする彼女は自分を取り繕っていない、そんな余裕はない。そして序盤ちらっとしか触れられないけど、ミッチとブランチが話すきっかけにもなる煙草ケースをプレゼントした少女の死――ミッチが「あなたと俺では?」と言う根拠でもある――がふたりを繋げる訳で、そうなるともうなんと言うか、死者を媒介とした共依存になるのは目に見えている。そうなると「あ、やっぱきっとうまくいかない」とは思う。
それなのに、あのキスシーンはとてつもなく幸福に映る。一瞬でも、ふたりはうまくやっていけるかも、と思わせられる。テネシー・ウィリアムズは刹那の情景を美しく切り取る。それはとても冷徹で、ひとの心を弄ぶもの。そしてそれが感動を呼ぶという皮肉!怖い!いやー酷いよテネシー、鬼!
そしてラストシーン。戯曲でのステラは「満ち足りた感じさえ見」せて「存分に泣きじゃくる」とあります。鈴木勝秀演出では、ステラは泣くのをやめ、スタンリーの腕から離れ、ある種の決心を抱いたと思える凛とした表情でまっすぐ前を向き退場する。ユーニスもこれに続く。蜷川幸雄演出では、泣きじゃくるステラにユーニスが泣いている赤ん坊を渡す。赤ん坊はステラの腕の中で泣きやみ、ステラも泣くのをやめる。そこをスタンリーが抱き締める。
映画版(エリア・カザン監督)では、ステラは赤ん坊を抱きしめて「もう二度とここには戻らない」と家を出て行くが、元鞘に納まるのではないかなと言う印象も残る。今迄が今迄だし、ここでの暮らしはこれからも続くと暗示させられるのだ。鈴木演出でもステラは家を出ていくのではないかと思わせられるのだが、こちらは本当に出て行くんじゃないか、と言う予感が強い。現代的な演出だったとも言える。
松尾さんの演出は全くのト書き通りだった。そう見えた。この「満ち足りた感じ」と言うト書き、ずっと引っかかっていたのです。うっすら気付いてるけど気付いたら人非人かなーみたいな。ここが今回ハッキリしました、と言うか自覚せざるを得なかった。厄介者が出て行ったが故の安心感なのです、これ。実の姉妹でも、厄介払いが出来たことにホッとしているのです。残酷だが真実だ。ぬぬ、ステラ…ブランチに勝るとも劣らぬ少女で淑女で処女で娼婦だ。やっぱりこのふたりは姉妹だわ…鈴木砂羽さんのステラは色気、強さ、はかなさが同居するおんなのなかのおんなだった。最高。
ミッチとブランチの会話、ステラの最後の行動。この二箇所、今回すごーーーく明確になった。松尾さんの演出で観られてよかった。この作品、ブランチとスタンリーは勿論ですが、ステラとミッチの解釈の違いを見比べるのがすごく面白いのです。個人的にもこのふたりのキャラクターは大好きなのだ。
2002年上演時に気になった箇所があった小田島恒志さんの訳も、細部が更新されていてより理解が深まりました。「おねえさん」の部分は変わっていなかったけど、アランはゲイだったってくだりはきちんと話されていた。その他プログラムにも解説があったので、これを読んでからリピート出来たのはよかったです。しかしステラがブランチのことを「おねえさん」と言うのはやっぱりひっかかる(まだ言う)。
ヨタロウさんの音楽もよかった。閉幕の曲は「レモンティー」だった(!)これは松尾さんの選曲なのかな。ここでこれを持ってくるってのがまたすごい。
カーテンコールは一度だけ。拍手が鳴り止まないところ、松尾さんの「えー、カーテンコールはないのです。節電とお客様の安全を考慮しております」とアナウンス。笑いとともにもうひと盛り上がりの拍手があり、閉幕となりました。
稽古時から本番迄、困難なことも多々あったと思います。舞台上の役者さん方の真摯な姿、秀逸なスタッフワークを目の当たりにし、この時期この作品をこの座組で観られて本当によかったと思いました。これから大阪と名古屋公演。無事大楽を迎えられますように。
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