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2010年12月30日(木)
『抜け穴の会議室〜Room No.002〜』

Team申『抜け穴の会議室〜Room No.002〜』@PARCO劇場

2010年芝居おさめ。初演は観ていません。しかしこれ、漣さんあてがきのようだったよ…!蔵之介さんとの年齢差みたいなものが自然に観られた。初演では仲村トオルさんだったんだよね、この役…どんな感じだったんだろう?

しかし前川さんは面白いなー。Team申前作の『狭き門より入れ』ではキリスト教、こちらは仏教的な思想。ふたりの男が部屋にいる。彼らはどうやら転生待ちの立場で、前世で縁があった間柄らしい。前世の記憶がないふたりは「先生」「部長」と呼び合い、部屋の蔵書をめくり、これ迄の人生を復習する……。

転生の度に貸し借りをつくる。前世でやり残したことの続きが出来る、傷付けたひとを来世で助けることが出来る。自分が決めたことのようで神さま(のような存在)が決めている。その方が気楽だと思うか、ひと(神?)任せなんてイヤだと思うか。逃げても逃げてもその手を逃れることが出来ないと思うか、自分で何かを決められるなんて、自分がひとを救えるなんて思い上がりだと気付くことが出来るか。

どちらにしても、そう思わないと生きていけないひともいるのだ。自分が存在している意味を見出すために、必死で探す。こういうことがあってもいいと思えるのも悪くない。

蔵之介さんと漣さんのテンポよい台詞のやりとり、同一セットの中で繰り広げられる、さまざまな前世での出来事。展開が読めるところはあれど、ふたりの芝居のうまさと謎解きとは離れたところに着地するストーリーは気持ちのよいものでした。

あ、あと『母を逃がす』を観たあとにこれ観るとあ〜と思うところがあった。親と子供の思いは擦れ違うばかりだ。それが判らないまま死んでしまうのは悲しいけれど、多分そういうことが殆どだ。遺された者が考えていくしかない。そしてまた生まれ変わり、お互いそれに気付かないまま会う時が来たら、やりなおせることがあるかも知れない。

こういうことがあってもいいと思えるのも悪くない。

ラストシーンの漣さんの表情が素晴らしかった。それ迄意識的に冷静に観ようと務めていたが、ここでもうダメだった。個人的には人生は一度っきりで充分、もう沢山と思っているが、あの表情にはそれを揺らがせるだけの力があった。「やっぱりまた人間をやりたい(記憶がおぼろなのでニュアンスは違いますがこんな感じのこと)」と言って、来世への扉を開けて出て行った部長の表情、そしていつかの人生で先生と擦れ違い、そのまま渋谷の雑踏へ消えていく老いた部長の表情には、人生のつらさはかなさが凝縮されていた。

数日前の本番中に漣さんは怪我してしまったそうで、若干足をひきずっておられました。あと一公演、無事に終えられますように。