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2010年09月12日(日)
『What’s going on in your Head when you’re Dancing?』『ビリーバー』

カール・ハイド展『What’s going on in your Head when you’re Dancing?』@ラフォーレミュージアム原宿

・madame FIGARO.jp / Music Sketch『カール・ハイドのソロ・ペインティング展』

カールの頭の中を覗いてみよう、ソロ・ペインティング・エキシビション。個展はこれが世界初だったそうです。身体の動きを妨げず引いたように見える線は躍っているよう。開放的なようで内省的にも見える。ヘッドフォンをして踊るカールの頭の中に見えるもの。最新作『Barking』のアートワークもカールの描いたものだけど、これとは随分色味が違う。上記インタヴューによると、今回展示されている作品は展覧会を行う日本と言う国からイメージ喚起された部分がかなりあったようです。アンバー系やダル系の色。赤も沈んだ系統で漆のよう。ダンスミュージックの側面があり乍ら静謐で、どこかモノトーンのイメージがあるアンダーワールドの曲群にも通じるものがありました。初日にライヴペインティングが行われた小屋のみ鮮やかな青が使われていました。

創作ノートの展示も。紙を綴じたものではなく、一枚の長い紙が屏風のように折り畳まれているタイプ。表紙も日本のもの?と思うような和紙柄だった。なのでなんか…鳥獣戯画みたいな感じで……描かれているうねうねした線が、いきもののように見えたりもしました。ホテル備品のレターヘッドに描かれたドローイングも沢山。旅の先々で、思いついたらその場にある道具を使ってすぐ描かれたような、イメージを捕まえる瞬間。

リックによるオリジナルBGM(『BUNGALOW WITH STAIRS 1』)もよかったー。会場でCD売ってたので買って帰ってきた。今年の秋の夜はこれがヘヴィロテになるかな。

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『ビリーバー』@世田谷パブリックシアター

具合が悪くて初日に行けず、結局初見が千秋楽。うう。『マイ バニシング ポイント』も仕事終わんなくて行けなかったしなー。入江さんのひとり芝居7年振りだったのに、学祭含めて2作目から欠かさず観ていたのにー(泣)。

それはともかく『ビリーバー』。観ることが出来てよかった。スズカツさんと勝村さんのタッグは随分久し振り。『C.B.』に一日だけゲスト出演したりとかはあったけど、ガッツリ組むのはそれこそ『LYNX』以来ですよね。お互いのコメントにもグッとくるところがあったし、プログラムを読む限り、勝村さんがどうかは判らないけど、スズカツさんの方はここ数年の仕事のやり方を振り返るきっかけにもなった様子。個人的にはどちらのやり方もバランスよく並行してやれるといいと思う。

さて本編。スズカツさんが演出するリー・カルチェイム作品を観るのは三度目。『ディファイルド』はサさんに「スズカツが書いたのかと思った」と言われたんだけど、それくらい相性がいいと言うか、カルチェイムの作品はスズカツさんが芝居を通してずっと描いていることと根本的なところが通じ合っているように思います。宗教と信仰について。時間の流れについて。言葉を使うコミュニケーションの方法について、その通じ合えない歯痒さと悲しみについて。

そして通じ合えないことは、自分の決意によってどうにでもなると言うこと。“信じようとする”ことは“信じる”ことではなく、“信じることを決意する”と言うこと。「すべてのものは、誰かが信じた何かなんだ」、と言う台詞が強く心に残りました。信じたものは存在する。そしてその信じる、と言うことは決意なのだ。

信仰を宗教にすりかえる矛盾。その宗教が必ず抱える、信じないものは排除する好戦的な姿勢。この作品はワールドプレミアだが、カルチェイムの国で上演された場合どれだけの波紋を呼ぶだろう。クリスマスシーズンの話であり乍ら、9.11の季節に上演されたことも重要なポイントだ。日本は八百万の神々がいる国だから、まだ許容し易いのではないかと思う。基本的に誰も悪くない。ちょっとおかしなひとがいるだけだ。そして彼は正しい。彼が正しいと受け入れる社会は存在し難い。「ほんとに、なー。」とサンタらしき男は言った。神さまは見ているだけ、ただ見ているだけ。

それでもカルチェイムは、「彼は正しい」と書いた。そう言える勇気と決意を観客に示してくれた。

時間の概念についてもハッとさせられることが多く、いちいち頷きたくなりました。見ているものは見た時点で全て過去、抱いた感想も既に過去とかね。どんなことがあっても時間だけは留まることがない。全てはいずれ過ぎ去るのだ。楽しいことも、悲しいことも。それに気が付くと、気持ちが軽くなった。

小劇場的手法。小道具のキューブを役者たちがさまざまな形に組み替え、そのシーンでのセットにします。そのアイディアによって、観客の想像力はハワードの家のリビングから北極迄を目に映すことが出来ます。4人の出演者中、川平さんと草刈さんが複数の役を演じます。特に川平さんはもういくつやったっけかと言う…事前に20と言われていたけど、数える気も起きなかったよ(笑)。エチュードで起こしたと思われるシーンも多く、自分が90年代前半に浴びるように観た小劇場の空気を思い出しました。しかもそれを懐古ではなく、現代演劇の一手法として定着しているものとして観ることが出来た。これも嬉しいことでした。欲を言えばトラム辺りで観たかったかな。視覚的や聴覚的な面に問題はなく、遠く迄届く演出だったと思いますが、空気を感じられると言う意味では正に小劇場で観てみたいと思わせられるものでした。

そしてその舞台に、勝村さんが活き活きと立っていることも嬉しかった。スズカツさんは“体力”と表していたけど、勝村さんが舞台に立つ時の“力”はものすごい強度を持っている。滑舌、発声、身のこなし…身体的能力と言ってもいいかもしれないけど、それだけじゃない。それらをフルに活かした上での“伝える”と言う力がすごいのだと思います。

それにしても勝村さんと川平さんのやりとりはホント面白かった…間に入る風間くんの冷静さと度胸にも恐れ入りました、いちばん大人(笑)。草刈さんは『宮城野』の時から飛躍的に台詞回しが上手くなってて(偉そうですんません)驚いた!やはり舞台でずっとやってきたひとは、空間を察知する力が大きいのかな、声も身体の一部ですし。とてもいい座組でした、再演が実現するといいな。