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2010年04月24日(土)
『2人の夫とわたしの事情』『SUPER TOKYO』

『2人の夫とわたしの事情』@シアターコクーン

どコメディなんですが、ケラさんが演出したからこその黒いものが見え隠れするスリリングな舞台でもありました。うすい皮膚が何層にも重ねられたような登場人物の感情が瞬時に表面に浮かんだと思えば、次の瞬間には身体の中に沈んでいる。幾重にも折り重ねられたそれは、観る側がちょっと注意を逸らした途端にも顔を出すので、“その瞬間”を見逃しただけでも解釈が変わりうる。

そしてその、一見イージーに見えるストーリー展開を複雑に構成した脚本・演出を軽々と乗りこなしているように見えてしまう巧い役者を観ると言うのは最高に楽しい。台詞量もかなり多かったのに、誰も噛まねえよ。これって最近あんまりないんだよ!悲しいことだけど!で、こんだけ巧いと、噛んだとしても逆に、役本人が噛んだように見えてしまう次元迄行ってる。イギリス人を日本人が演じている時点でもうそれは事実ではないんですが、それを巧い役者が演じると真実になるのだ。

いやーホントにお松はすごい。この妻の役って、自分の利益を追求して動く人物で、それは当然、何故なら私は皆から愛される存在だから。愛されるのは、私が国の義務を果たし、容貌もよく、気配りも気遣いもこなしていて、素晴らしい人物だから。と思っているひとなんだけど、これって単純な役者が演じたら余程のアホ女に見えるか、ずる賢い悪女にしか見えないですよ。そうなると彼女には哀れみや憎しみばかりが浮かんでしまう。しかしお松が演じるとかわいい!ああそうかもって思っちゃう!この妻には虚飾がない、嘘がない。思ったことを全て表に出してしまうひとなんだ、とちょっと好感すら持ってしまうのです。確かに嘘がないんだろう、最初の夫を亡くした(と思った)時本当に打ちのめされ、悲しんだのだろうし、そして強く生きていこうと思っている。過去に囚われない魅力的な女性にすら見えてしまう。しかしところどころにしっかりアホでずる賢い面も見せてくれるので、観ているこっちはふたりの夫と同様困惑し、ちょっとムカッとし、最終的には妻の幸せと新しい夫への共感と一抹の寂しさをほろりと感じてしまい、うっかり「あー、いい話だったなー」と劇場を出ることになってしまう(笑)。

とにかく妻がどう動くかと言うのがキモではあるのですが、それを受けるふたりの夫も巧くなければここ迄多層的な舞台にはならないなー。段田さんの巧さは鉄板ですが、ケラさんと初顔合わせの渡辺さんがまたよかった。巧いひとってのは素じゃない隙を作ることが出来るひとなんだ。あー、いい舞台を観た!

終盤段田さんが松さんの首を絞めるシーンの演出はケラさんならではだなあと思った。こういうことってホント紙一重で、誰でもうっかり殺しちゃうし、誰もうっかり死んでしまうんだ。自分はそうならないなんて信じられるか。うっかり殺さないで、うっかり生き残ることも同様。

大森さんが体調不良で降板(残念。おだいじに…)、代役でナイロンの猪岐さんが演じた弁護士役がとてもケラ色の強い造形になっており、そこはもうナイロンの舞台を観ているような錯覚すら起こしそうだったのですが、大森さんが演じたらどうなったかなあと思うところはありました。猪岐さん自体はもう、すごくよかった(笑)法をかいくぐることが出来るならば手段は選ばない極端な弁護士像を賢く愚かに表現していました。ここにも巧い役者の底力と言うものを感じました。

戦時中の暗い雰囲気、離婚調停の面倒さ、男女の性格の違いもきめ細やかに描かれていて、エキサイティングな三幕劇でした。

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■LESLIE KEE『SUPER TOKYO』写真展@スペース オー
コクーンの前にこれ。
13歳の時に39歳の母を亡くしたレスリー・キーが、39歳を迎える4月に世に出した写真集『SUPER TOKYO』。39はサンキュー。売り上げの一部は『お母さんの命を守るキャンペーン』に寄付されるそうです。
2008年にスタートしたプロジェクト。その間離れてしまったカップルや家族もいるのだが、写真の中の彼らはとびきりの笑顔。皆がいい顔をしている。きっとこの時の感情には嘘がなかった。それを捉えた写真の素晴らしさも感じました。
そして被写体の笑顔は撮影者の笑顔が鏡のように映し出されたかのようにも感じられました。最後のセクションに展示されていたレスリーは、とてもいい笑顔だった。
所謂芸能人も多いのですが、個人的に俄然面白かったのは写真家を撮ったもの。伊島薫さんや平間至さんのヌードがとても魅力的。“撮る人間”は“撮られる人間”としても最高に素敵な被写体。
ADは井上嗣也さん。写真集もモロ好みのデザインなので買ってしまいそうだなあ。