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2010年02月06日(土)
『歌舞伎座さよなら公演 二月大歌舞伎』夜の部

『歌舞伎座さよなら公演 二月大歌舞伎』夜の部@歌舞伎座

十七代目中村勘三郎二十三回忌追善。口上は昼の部のみだったんですよね。今回は夜の部のみ、『壺坂霊験記』『高坏』『籠釣瓶花街酔醒』。先代の勘三郎に縁のある演目で飾る今月の大歌舞伎です。

今回『高坏』を狂言で観たことがあるのみで、他の二本は初見。しかもバタバタしていて予習も何もしておらず、内容を全く知らないまま観たので、個人的にはショックな内容過ぎてどーんと落ち込む始末です。いや皆見応えあったし、こっちの気持ちがずーんとなるくらい、なんつうか芝居だと切り換えて観られないくらいリアルだった(のはこっちの都合かも知れないが)のは、演者さんがすごかったと言うことですよね。

いやあ、しかし『壺坂霊験記』の第二場が終わった時は血の気がひいたと言うか、手が冷たくなるわ膝がガクガクするわで自分でもどうかと思った…そんで第三場の幕切れでホッとして泣く有様。うえーよかった……福助さんちょーいい嫁!三津五郎さんちょーいい旦那!

そんで『高坏』の、勘三郎さんの華やかな下駄ップ(ちょー格好いい、かわいい!)をうわあいと観て、最後の歌舞伎座になりそうだからとフンパツして食堂でおすし食べて、いい気分になって『籠釣瓶花街酔醒』。こっれっがっ、東京に出てきた地方出身者には痛過ぎる話で!そりゃもう勘三郎さん演じる佐野に感情移入してしまうことこのうえない。そして傾城に肩入れするあまりにあのーごにょごにょごにょ。と言う流れは現代だったらストーカー事件として報道されてしまいそうなものですが、事件の背後にはいろいろな事情があるもんですよ…八ツ橋の気持ちもわかるもんね……。それにしてもこういうテーマはおとことおんながいる限り永遠と言うか、普遍的なものかも知れないですな…はあー。兵庫屋八ツ橋部屋縁切りの場は、玉三郎さん演じる八ツ橋と、勘三郎さんの佐野の緊迫したやりとりが残酷でもーつらかったー!そしてここでの佐野があまりにも可哀相なので、大詰での落ち着きぶりとその後の凄惨な場面がひんやりとしていて怖いのなんの。最後の台詞「籠釣瓶はよく斬れるなぁ……」にゾッとする反面、ああこうなるのも致し方ないと思ってしまったり。当たり前ですが観客はどうすることも出来ません、ひたすら観るだけ。止められないもんね。

当時の花街の華やかさをこれでもかと見せる幕開けがとても素敵でした。始まる前に「真っ暗にしますから早く席に、始まったらしばらく入場出来ません」って注意のアナウンスがやたら流れたんですよね。で、あの歌舞伎座ならではの真っ暗闇になって、そこからぱっと舞台上に花街が現れた時の高揚感はすごいもんがあったんですが、しかし今思えばここ、その暗闇にこそ見所があったようにも思います。佐野は花街の、江戸の光と影を両方見てしまったんだ。見終わった後恐怖感と悲しみがじわじわ募りました。

勘三郎さんの、『高坏』でのアホの子次郎冠者と『籠釣瓶花街酔醒』での情念佐野のギャップには圧倒されました。同じひととは思えねえー。しかしどちらも、観る側の心に寄り添うと言うか、共感出来る人物像ばかりなのです。

そして彌十郎さんはとても格好よかったが、『籠釣瓶〜』でああいうことになったそもそもの原因は彌十郎さん演じる釣鐘権八にあったような気もするのでごめんなさいとも思いました(苦笑)。

と言う訳でしょんぼりして歌舞伎座を出てきましたよ…でもおすしはおいしかった(そこか)。