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2002年09月17日(火) ■ |
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『セプテンバー11』その2 |
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『セプテンバー11』その2
続きです。TVでは6本流してインターミッション、筑紫哲也氏のコメントが入りました。その後5本。
7.アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(メキシコ) 『アモーレス・ペロス』の監督。うわーんこれも逃してんだよ、むちゃくちゃ気になってんのに!ガエル・ガルシア・ベルナルも気になってんだよ!今度チェ・ゲバラ役やるって言うし!ベニシオさんといい何で気になる役者さんは皆ゲバラを!顔、似てるけどな。でもそれだけじゃないよな。 さて今回の作品、異色も異色です。画面は真っ黒。視聴者の困惑を考慮してか「オリジナルに忠実に放映しています」のテロップ。徐々に音が聞こえてくる。悲鳴、騒音、報道アナウンス。日本語のものもあった。あの日の音のコラージュだ。このまま最後迄行くのかなと思っていると、サブリミナルのようにパッと何かの映像が挿入される。最初は何か判らなかった。直に目が慣れてくる。ひとだ。ひとが降っている。あの日、ビルから飛び下りた人々の映像だ。 アイディアとしてはそれほど斬新ではない。他の10本のどれかと被るかも知れない、と言う懸念もある。しかし監督は賭けに出た。そして、そのインパクトたるや凄まじいものがあった。勝ちだ。 ラスト。画面が白くなり、英語とパシュトゥー語(アラビア文字)で 「Does God's light guide us or blind us?」 と言う文面が浮かびあがる。アラビア文字は表記出来ないので勘弁。 とても、とても恐ろしかった。このインパクトは現物を観ないと判らないかも。伝えるのは難しい。
8.アモス・ギタイ(イスラエル) エルサレムの繁華街で自爆テロが起き、現場はケイオス状態に陥る。ケガ人、警察、救急隊員、民間人が入り乱れ、大騒ぎになっている。そこへたまたま「町でいちばんのパン屋さん」の取材に来ていた女性レポーターが居合わせる。彼女はレポーター魂を発揮して、現場中継を始める。 しかし邪魔よ、邪魔なのよう。警察には邪魔すんなと言われ、民間人には「犯人を見たよ!」と寄ってこられ、救急隊員にはどいてと押し退けられ。それでも彼女は中継を続けようとするが、折しも例のWTCテロが起こり、局からは中継を打ち切るとの連絡が。レポーターは叫ぶ、「私は今テロ現場にいるのよ。打ち切りだなんて信じられない!」。 力わざの長回しワンカット(確か)。多分一発撮りだ。これは目が離せなくなった。圧巻でした。
9.ミラ・ナイール(インド) 冒頭に「これは実話を基にした物語である」とのテロップ。冤罪を被ったN.Y.在住のパキスタン系アメリカ人の家族の話。 あの日出かけたまま帰ってこない息子にテロの疑いがかかる。FBIから手配され、近所のひとたちからは冷たい仕打ちを受ける。数カ月後、息子はWTCの救出活動へ出かけ、そこで命を落としたことが明らかになる。葬儀には、掌を返したように息子のことをヒーロー扱いする人々がやってくる。星条旗にくるまれた棺を前に、母親は口を開く。「思いやりを持てと教育しなければ良かったのかしら。そうすれば息子は死なないで済んだかもしれない」。 太平洋戦争中、日系アメリカ人の受けた仕打ちをちらっと思い出した。他にも同様なことは沢山あるんですが。母親はFBIの捜査官に訴える。「息子はアメリカ人です。テレビゲームが好きで、スタートレックが好きで!」。その環境で育っても、心はそうでも、ひとは見かけに左右されてしまう。恐ろしいことだし、悲しいことだと思う。
10.ショーン・ペン(アメリカ) 御当地です。と言ってもこの監督、一筋縄では行きません。真っ暗なフラットでひとり暮らしをする老人。部屋が暗くて目覚ましがないと朝が来たことが判らない、とボヤきつつ、目覚ましが鳴る前にちゃっかり起きてヒゲを剃っている。伴侶は亡くなっているようだ。しかし、彼は毎朝妻の着る服を用意し、ベッドへ飾る。部屋の花は枯れ果てている。 ある日、いやあの日、轟音とともに部屋が明るくなる。この部屋はWTCの日影になっていた場所だったのだ。花が開く。植木鉢を抱き締めた老人は、妻にこのことを伝えようと喜ぶが、彼女の不在に気付き、声を詰まらせて泣く。 丁寧な演出、役者の妙。徐々に光が射し明るくなる部屋の描写は素晴らしかった。不勉強で知らなかったのですが、主人公の老人は名の知られたベテラン俳優さんだそうです。うーん、これは良かった。 ペン氏本人は監督業に専念したいそうですが、役者としても素晴らしいひとなので、役者業を辞めてもらいたくはないな。
11.今村昌平(日本) ……………。冒頭に書いた通りです。すげー破壊力でした。自分の作品どころか、他の10本も台無しにしかねなかったぞあの最後の2〜3秒は…。
この作品を観て、声高にアメリカ批判をしたり戦争反対を唱えることは結構簡単だ。しかしそれだけで終わらせられる程イージーなものでもないだろう。映画が作れるということ、映画を観られるということ。菊地成孔氏も丁度日記に書いていたが、ピチカート・ファイヴが引用した吉田健一氏の言葉『戦争を抑止する唯一の方法は、一人一人が自分の生活を豊かに、美しくし、それに耽溺することである』は至極的を得ている。
それにしてもこのオムニバス、アメリカ批判を真っ正面から描いている作品も含まれるので、北米では公開が未定だとか。それってさあ、それってさあ…。
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