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kai
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2002年02月23日(土) ■ |
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自転車キンクリートSTORE『OUT』 |
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桐野夏生さん原作の、ストーリーの内容と長さからして、映画はともかく舞台でどうやるんだ?でもこれをやれるのはじてキン以外に考えられないのも確かだと、期待と不安を抱えつつ観た初演の衝撃は今でもよく憶えている。抽象的な舞台装置、具体的な台詞によるセックス描写、モノローグの多用。じてキンの新境地を開拓したと言ってもいいと思う。それから1年ちょいの間をおいての再演、女優陣は「この4人以外考えられない」と言われた初演組、男優陣にはTHE・ガジラの千葉哲也さんを筆頭にひとくせある役者が揃った。場所をPARCO劇場に移し、どんなものが観られるか。
弁当工場の深夜パートに勤務する4人の女。家庭は皆破綻している。夫と心も身体も通じ合わなくなっている雅子、夫に先立たれ寝たきりの姑の介護に追われるヨシエ(師匠)、夫に貯金を持ち逃げされ、自身もカードローンに右往左往する邦子。ギャンブル狂いで暴力をふるう夫を殺した弥生が、雅子に相談を持ちかけた事から、彼女達はものすごいスピードで“OUT”していく。
2時間40分休憩なしの上演時間があっと言う間。そう、桐野さんが言っていたように、「舞台という容れ物は、限定されるが故に自由で豊穣な空間なのだ」。そういえば、鈴木勝秀さんも同じような事を言っていたな。「舞台は、想像力があれば何でも出来る」と。弁当工場、それぞれの家庭、死体を捨てた公園、仕事の打ち合わせをするファミレス、夜の廃工場。これだけの場面転換をひとつのセットで表現出来てしまうのだ。建築家型の演出家、鈴木裕美さんがこれだけ抽象的な舞台装置を持ってこさせたのは初めてではないだろうか。セットと音響だけで、舞台上の風景が簡単に変わって見える。
それには役者の力も大きく、彼等が台詞と肉体で、観客を転換した空間迄連れていってくれるのだ。これは初演時にも感じた事だが、“声”効果が本当に大きい。終盤10数分の、雅子と佐竹の対決シーンは、照明を落とし、ふたりにピンスポットが当てられ、舞台装置も一切排除され、モノローグのみで進行する。ともすれば破綻してしまいそうなこのシーンを突破出来るのは、久世星佳さんと千葉さん(初演時はM.O.P.の小市慢太郎さん)の声の力なしではあり得ない。
キャスティングは本当に絶妙で、久世さん演じる雅子はダウンジャケットに開いた穴をガムテープでとめているようなオバさんだが、十文字から「かっこいいじゃねーかあのババア!」と言われる男前。昨年の『欲望という名の電車』のステラ役といい、素晴らしい!ここ数年は目が離せない。ずっと家事と仕事をがんばってきた師匠を演じた歌川椎子さんの声もとてもいい声で、家に火を点け雅子にお別れを言いに来たシーンでは、息子が出ていった落胆と、だからこそふっきれて姑を殺す事が出来た安堵感がその声から溢れていて、あまりにもやりきれなくて涙が出た(初演で観てわかってるシーンなのにあれはたまらん…)。女のかわいさといやらしさを全面に出す邦子役の竹内都子さんもうまい、かわいい、にくたらしい(いや役がね)。弥生を演じた松本紀保さんは、初演時は気後れしてるのかなと思わせられる箇所があったけど今回はそんな事もなく、「世界一むかつく女」(裕美さん談)だったよ(笑)あんた夫殺しといてそれはないだろ、てな事は思いますわな。まあどっちもどっちだけどな!
男優陣、と言うか男性全般はストーリーの内容にかなり退いたそうだが、それは仕方ないわなあ。女は怖いんだよ(笑)。千葉さんは、変態だけど狂気が感じられない佐竹役を、あの美声と、いつでも理路整然とした言動と行動をうまく使って演じていた。うーん、やっぱり声だなあ。大石継太さんのヒステリックな高音の声も、弥生に暴力を振るう夫の余裕のなさを感じさせてよかった。十文字役の増沢望さんもお調子もんのちんぴらが合っていた。ひとり男優陣では続投の樋渡真司さんは、相変わらず嫌な役をさせたら絶品です。
舞台ならではの面白さは、弥生の夫役を演じた大石さんは序盤で死んでしまうので、それ以降いろんな細々とした役を兼任して出てくるのだけど、ファミレスのウェイター役で「サイコロステーキレアお持ちしました!」って出てきたのが面白かったな。数十分前に自分は細切れにされて捨てられてしまったんだもんね…(笑)それも含め、ここ迄ヘヴィーな話が“笑えてしまう”のも舞台ならでは。夫を殺して嬉しくてついつい笑顔の弥生に「ウキウキしてるとバレるよ!」と注意する雅子、弁当工場での工程の仕切りの良さを死体の解体作業にも発揮する師匠(流石の愛称ですな)、十文字に医療用メスを買ってきてもらい「これは切りやすそうだ!」と喜ぶ雅子のシーンなどはかなりウケていた。こういう状況は当事者でなければ滑稽なものなのかもしれない。
余談:ザズゥ常連の藤本さんがいらしてました。次は何に出るのかな。そして藤本さんを見れば思い出すのはスズカツさんですよ…また舞台が観たいよ。
ところでこれ、映画化が本格的に決定したそうです。で、それにですね、大森くんが出るんですよ……うわああああ!誰!誰の役をやるんだあああ!今からもうドキドキですよ!
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