寒空。今月は仕事がタイトだから、憂鬱である。
ネパールから早々に帰国した後のHは、 失った恋を忘れるかのように、日々トレーニングに打ち込んでいる。
山道具の入った荷物を紐解くこともないまま、 1mも高度を稼ぐことのないまま、 予定より半月も早くHは帰ってきた。
目的の場所はあまりにも積雪と雪崩がひどく、 取り付きにすら行かれなかったのだそうである。
そんな事態を予想もしていなかったのが敗因、と語っていた。 登山許可というものが必要なので、じゃあ隣の山を登ろうと簡単にはいかないのである。
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Hの遠征登山をもう二十年近く傍観しているけれど、 -言っては可哀想だが-こんなこともめずらしい。
ヒマラヤの魅力的な山々を目の前にして、手付かずで帰ってきたのだから、 それはそれは無念であったと思うのだが、若い時ほどその気持ちを表に出さない。
そうだから、こちらもすっかりそのことを忘れていた。 けれども、Hのことだから、表向きは失敗を笑ってごまかしていたとしても、 無念のマグマがどこかにきっと溜まっている。人知れず、げんこつを握り締めて悔しがっている。
長年の付き合いで、そう思う。
2007年11月02日(金) 2006年11月02日(木) 因縁と落とし前 2005年11月02日(水) 記憶に残るもの、生きていくもの 2004年11月02日(火) 避難とは何か
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