パキスタンヒマラヤから帰ってきたY君のメール。 落石と雪崩で、命からがら下りてきたそうである。
公表する予定はないけれど、と関係者にだけ送られたレポート。
そこには、おそらく普通の人が一生遭遇することのない種類の、 自然に対する恐怖の体験が吐き出されていた。 生半可な登頂報告よりも、生々しく読んだ。
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何百メートルも頭上から、ぶんと音をたてて、岩や氷が次々に落ちてくる。 そのうちのいくつかは、実際にクライマーを直撃する。ヘルメットが変形し、割れる。 人間が立ち入ってはいけない場所に入ってしまった、という恐怖の実感。
いつも自分の実力と戦略への自信を隠さないY君が、降り注ぐ岩と氷に、もう勘弁してくださいと山に祈りながら、自分はなぜここに来てしまったのだろうと自問している。
標高7000m近い壁の中で、生をあきらめるか死ぬほどの恐怖と向き合うかの二者選択に迫られる状況は、読んでいるだけで気が遠くなりそうだ。
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死なないで下りてこられたのは、経験と実力のある彼ら3人だったからだ。 今回のことは、登頂の失敗というより生還の成功といった方が正しい。
生きて戻れてよかったね、とひとりごつ。 彼らは、次のチャレンジをするチャンスをつかんだ。
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