Hも山に行かないし、今日は家族みんなで満開の桜を見に行こうと、 楽しい休日を算段していた。
それなのに、なんだか不協和音の朝である。 気分を変えようとかけたオペラ・アリア集のCDでは、 マリリン・ホーンが慰めるようにオンブラ・マイ・フを歌っている。
私は誰とも口を聴きたくないぐらい疲れていたし、 Hは昨日のクライミング気分が消えず、浮かれポンチである。 Aは休みの嬉しさと存在を主張したいので、猛烈にやかましい。
ついに、赤ん坊を泣かせ片づけをしないAは、私にひどく叱られ、 今日一日あなたへの不機嫌を直さないと、宣言されてしまった。
怒り心頭、やさぐれた私に、音楽の記録媒体というのは無残である。 演奏中ですからお静かにといさめる人もなく、コシ・ファン・トゥッテは無視される。
気まずい沈黙が、朝の台所に広がる。 気まずかろうが何だろうが、そのまま静かにしててくれと、 がちゃがちゃと茶碗を洗う。
さすがにしょんぼりしたAと、自分だけ浮かれていたことに気付いたHが、 神妙に洗濯物などたたんだりしている。
そのうちに、ルッジェーロ・ライモンディが闘牛士の歌をうたい始める。 諸君の乾杯を喜んで受けよう、という勇ましいメロディ。
よく知られたメロディにあわせ、Hがはなうたをはじめた。 Aも、フンフンとあとにつく。
悠然とアリアは展開し、二人もさらに調子付き、コーラスに至った時には、 チャンチャラチャンチャンと手振り身振りで大合唱である。
私といえば、たぬきが訪れた夜のゴーシュみたいにおかしみをこらえながら、どうやったら怒り続けている風に見えるか苦心するばかりであった。
2006年04月12日(水) 2004年04月12日(月) マンガさん
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