合唱団に入ったAは、いきなりメサイヤのハレルヤコーラスなど歌っている。
中学生や高校生のはじっこに混ぜてもらい、ほとんど口パクなのである。 歌詞は怪しく自己流に変化し、意味不明な呪文と化している。 苦痛じゃないのかねと思うが、それなりにやっている。
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オラトリオは実際、たいしたものである。 宗教と権力が、がっちり組み合わさり、 最高のメロディに最高の称え文句がセットされている。
なにしろ、king of kingsがforever and everなのだ。
しみじみ歌詞の世界に浸っていると、Aが意味を教えろという。 これはヨーロッパの神様を称える歌で、世界中から偉大な人が100人集まったとして、その中であなたがずっと一番偉大ですと言っている、と返す。
じゃあアジアの神様が怒るね、とAが言う。 まあそこが難しいとこだね、としか応えられないが、実際そうだから仕方がない。
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数日後のこと。
Aが、自分は国歌を習ってきたと報告する。おそらく卒業式の練習であろう。 そして、先生が、国歌を歌うことに反対の人もいると話した、と付け加える。
私は食卓で箸を運ぶ手を止めて、Hもちょっと難しい顔をする。
国歌とは自分がこれまで歌ってきた素朴な歌とは異質なものであると、 言葉を尽くさずとも、親の反応で気付いたようだ。
それでも「ちよにやちよに」という言葉が気に入ったようで、フレーズを繰り返しながら、意味を聞く。 ああそれはforever and everだよ、と教える。
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そうか、日本の国歌は一種のオラトリオであったかと、言った口で感心する。 king of kingsがforever and everなのである。
以来、頭の中で、あの「ちよにやちよに」というフレーズと「forever and ever」というコーラスが重なって流れてきて、これがまたぴったりくるので止まらなくなっている。
2007年03月15日(木) 水盗っ人 2006年03月15日(水) よれよれ申告 2004年03月15日(月) Mayor! Mayor!
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