浅間日記

2006年07月13日(木) 耳なし芳一の後悔

頭突きをして退場になったジダン選手のインタビュー。

「言葉は暴力以上に激しいことがある。私の非常に奥深いところに触れる言葉だった。」

「W杯の決勝で、自分の選手生活の終わりまであと10分しか残っていないという状況で、自分の喜びのために私があんな行為をやったと思いますか。」

「自分の行為を後悔するわけにはいかない。後悔すれば、ああいう言葉を口にするのは正しかったということを意味してしまうからだ。それはできない。」



ジダン選手のことは、知らない。
でもこうした局面で、謝罪だけの通り一遍でない、
自分の言葉をもって、堂々と話したことは、立派だなと思う。



多分、これまでにきめた全てのゴールや、得点に寄与する行為は、
彼にとって、あの頭突きと、そう変わらないものだったはずである。

スポーツという形式のなかで、怒りと上手く折り合いをつけ、
スポーツでの勝利によって、社会的存在を勝ち取ってきた。
そしてついに、マエストロと言われるまで自分の誇りを守り抜いた。

けれども、最後の1日だけ、やりかたを間違えた。

耳なし芳一みたいに、万全にガードしたはずの自尊心の、
片耳ほどの隙を、内なる亡霊にもっていかれた。

運命の神様は、意地悪である。



言葉は人を深いところで傷つける。内なる亡霊を呼びさます。
そして、この上ない人生の桧舞台をも、どんでん返しする。

あの挑発にのらず、優勝を勝ち取り、花道を飾ることができていたら、
ジダンは築き上げてきた自尊心を完全にすることができたのかもしれない。

しかし、彼は暴力をはたらいてしまった。

そして、「後悔するわけにはいかない」という彼は、
つまり、誹謗中傷との戦いを継続しなくてはならなくなったのだ。

そこのところが一番、気の毒である。

2004年07月13日(火) 


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