帰宅。
雛人形を飾る。 子犬のようにせわしなく早く早くとせかすAへ、きれいに手を洗うよう命じ、 私はわざともったいぶって、仰々しく箱を取り出し、 重々しい仕草で蓋をあける。
箱の中から奉書紙に包まれて姿を現したお内裏様とお雛様の二体の人形。 小さい頃は怖いばかりで少しも可愛いと思わなかったけれど、 大人になってその顔をよく見ると、 幼さのあるふっくらとした顔に微笑をたたえていて、愛らしいものだ。 創り手の子どもに対する思いが伝わってくる。
緋色の毛氈の上に台を置いて、お人形を並べて、 背後に屏風を立てたら、できあがり。簡素なのである。
Aは小躍りで雛祭りの歌をうたいだす。狂喜乱舞といった感じである。 季節ごとの行事というのは、いつでも子どもをハイテンションにする。 声をそろえて一緒に歌う。
この歌の歌詞で
「金の屏風に映る陽を かすかにゆする春の風」、
という部分が、私の一番気に入っているところだ。
住んだこともない日本家屋の、庭先の温い春の空気や、 そこから縁側や障子で隔てられ、ひな壇がしつらえられた 和室の情景などが、この短い詞からくっきりと浮かんでくる。
春の日本家屋の、畳と木の匂いがするんである。
2004年02月06日(金) 能動ラッシュを浴びる
|