2012年03月09日(金) |
今宵、魚のみる夢は(仮)・8 |
その日の夜。約束通りオレは海岸にいた。
彼女が現れたのは真夜中だった。 「来てくれたんだ」 息も絶え絶えに走ってきたという体だった。今思えばそんなにまでして何を伝えようとしたのかもっと考えるべきだった。けど、その時のオレは彼女の答えを聞くことで精一杯で。 「テティス。返事を訊かせてくれないか」 だから、余裕なんてなかった。 「私は……」 自分の身体がどのような状態にあるかってことに。 「逃げて」 返ってきたのは肯定でも否定でもなく懇願の声だった。 「あなただけなら逃げられる。お願い。できるだけ遠くへ逃げて。そして帰ってこないで!」 なんでそんなことを言われたのかわからなかった。ただ、必死にオレを拒絶しようとしている。拒絶の声に別の感情が見え隠れしている。それを必死に理解しようとして。現状を全く把握できていなかった。 「お前にこんなことをする気概があるとはしらなかったよ」 声と同時に瞬時にして身動きができなくなった。 「お父様……」 彼女と同じ色の、けれども全く別の感情を灯した冷たい瞳。 「丁重におもてなしさせてもらおう。リールの息子よ」
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