2012年02月02日(木) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・19 |
迷いに迷って、結果的に林檎のケーキを購入した。クッキーだと数が足りなくなるかもしれないし、そのぶんケーキだと叔母さん夫婦に食べてもらうにはちょうどいい大きさだと思ったから。 「クレイアさんは一人でお店の仕事をしてるんですか?」 「呼び捨てでいいよ。見たところ同じくらいだろうし堅苦しいのは嫌いなんだ」 あたしもイオリって呼ばせてもらうから。笑いながらお菓子を持ち帰りように包む。一軒華奢な外見とは裏腹にはきはきとしたものいい。さっきのアニータさんといい目の前のクレイアさん――クレイアといい、同じ年頃なのにしっかり自分の仕事をがんばっている。 「クレイアはお店を一人で経営しているの?」 さっそく名前で呼ばせてもらうとまさかと返答された。元々ご両親が経営されてるお店を手伝っていて、最近は親がいない間は仕事を任されることが多くなったとのこと。でも材料の仕入れや簡単なお菓子は作れるし、品物によってはお店の商品としてショーケースに並ぶこともあるとか。それだけでも十分すごい気がする。 「すごいなあ。そんなことができるなんて」 「イオリだって医術を学ぶために遠くシラハナからここまで来たんでしょ? 怖くはなかったの?」 「怖くないって言ったら嘘になるけど。お父さんの生まれ育った場所を見てみたかったし自分のやれることを試してみたかったから」 シラハナに医師がいないわけじゃない。だけど、せっかくなら本格的な場所で学びたかった。そう思うといてもたってもいられなくて。このあたりは父親ゆずりなのかもしれない。 「クレイア?」 「あたしにとってはそっちの方がすごいよ」 少しだけ目を伏せられたような気がした。このときは瞳を伏せられたのか、その表情の意味がわからなくて。 「林檎のお菓子ならどこにも負けないから。またいつでも買いにきなよ」 笑顔で見送られ、わたしとジャジャじーちゃんは店を後にした。
過去日記
2010年02月02日(火) 世界観構築における100の質問 その2 2004年02月02日(月) SHFH10−1
|