2012年01月21日(土) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・8 |
(「なんでテメェがここにいるんだ」) 嵐の中、お兄さんは船の上にたたずんでいた。 (「この辺の海があれてるって聞いて来てみれば、こういう了見かよ」) 高いところにいるから詳しい様子はわからない。だけど口を動かしているのは遠目でもわかった。 もしかして、魔物と会話してる? ……まさかね。 (「大人しく引き下がるなら見なかったことにするよ。でもこれ以上、危害を加えようってんなら――」) 船が再び大きくゆれてバランスを崩しそうになる。 「お兄さん危ない!」 柱に捕まりながら大声をあげる。とたんに怪物の大きなヒゲがふりおろされた。 あんなものに襲われたらひとたまりもない。思わず目をつぶってしまったけど耳に届いたのは帆が破られる音だけだった。 「ありがとう。君のおかげで助かったよ」 遠くからだけど男の人の声が聞こえた。どうやら大事にはいたらなかったみたいだ。かといって事態が好転したというわけでもなく、むしろ矛先がお兄さんからわたしに移っただけみたいだった。 言葉が通じなくてもわかる。怪物がわたしに向けているのは明らかな敵意。でもわたしだって大人しく引き下がるのは嫌だ。何か武器になるものはないかと辺りを見回して、一つの結論にたどりつく。できればやりたくないし馬鹿げてるのは十分承知だけど。 走って走って。たどり着いたのは放り出された大きな旅行鞄。海水で濡れてはいたけれど中身はまだ無事みたい。 背に腹は代えられない。幸い見ている人もいないし、やれることをやらなきゃ。
鞄の中から取りだしたもの。それは布に包まれた特大ハリセンだった。
過去日記
2011年01月21日(金) 「ほのぼのお題」その4 2010年01月21日(木) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その18 2008年01月21日(月) 創作系ひたすら謝りまくるバトンです。 2005年01月21日(金) 今だけ叫ばせてください 2004年01月21日(水) ミーハーにつき
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