2012年01月22日(日) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・9 |
まさかこんな物を手にして魔物と戦う日がくるなんて思わなかった。そもそもこんなものが荷物の中に入ってるなんて思ってもみなかった。 そして、手にしたはいいもののやっぱり怖い。当たり前だ。相手は子どもの頃けんかした男の子や近所の子ども達とは違う立派な魔物なのだから。 「逃げるしかないじゃない」 誰にともなくつぶやくとハリセンを持ったまま必死に逃げる。ハリセンを持ったところで相手に通用するとは思えないしそもそも舞台用の道具なんだから。 逃げて、逃げて。必死に逃げて。 「こっちに来るんだ!」 今度はお兄さんの声が耳に届いた。迷ってる余裕なんかない。必死に柱からよじのぼって。 高いところによじ登ればどうなるか。当然、出口はない。相手もわかっているから触手を柱に巻き付けてなんどもゆさぶりをかけている。でもお兄さんには何かしらの意図があるんだろう。希望と確信をもってたどりついたのは船に乗ってから半日後のことだった。 「大丈夫だった?」 心配そうな声。 「なんとか。お兄さんは大丈夫だったんですか?」 「どうにかこうにかね。全く困った事態になったよ」 でも口調とは裏腹に表情は息ひとつみだれることなく平然としている。こういってはなんだけど目の前の男の人は運動神経に優れているようには見えない。でも海の怪物相手にいききしている――堂々としている。そんな気がした。 「でも、君のおかげで時間稼ぎができた。あとはオレがやるから大船にのったつもりで休んでいていいよ」 今まさに大船に乗っていて船ごと壊されそうなのに! そんな指摘をするべきか迷っていると、乗っていた船の柱がみしみしと音をたてた。
過去日記
2011年01月22日(土) 「ほのぼのお題」その5 2010年01月22日(金) 「文章修行家さんに40の短文描写お題」その19 2006年01月22日(日) 「EVER GREEN」8−9UP 2005年01月22日(土) これからのこと
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