2012年01月19日(木) |
白花(シラハナ)への手紙(仮)・6 |
それは大きな包み。そもそもは舞台やお芝居の時に使われる道具だったらしい。太鼓のようにリズムをとったり、間(ま)をとる際にも使用される。極端に言えば大きな扇子。大きければ大きいほどふれば大きな音がして、そのぶん周囲の注意を引きつけることができる。 ものをたたいて音を立てるためにつくられた専用の扇子。人はそれを『張扇(ハリセン)』と呼ぶ。 「すごいね。こんなに大きなもの初めて見た。君の国ではみんなこれを持ってるのかい?」 「違います」 即座に否定した。こんなもの持ち歩いていたら変な目で見られることは間違いない。ただでさえ荷物が重いのに、このままだと精神的にも重くなってしまう。 送り返そう。 三秒で決断してハリセンを包まれてあった布で丁寧にまき直す。お父さんの気持ちは嬉しいけどハリセンを持たされる年頃の娘の身にもなってほしい。 「よくわからなけど」 そう前置きして藍色の髪のお兄さんが口を開いた。 「君のお父さんがくれたものなんだろ? だったらなるべく近くに置いておくべきじゃないかな」 きっと心配してくれてるんだと思うよ。そう言ったお兄さんに苦笑する。心配してくれるというのはいたいくらいよくわかった。だけど実際問題、この大きくて重い包みを抱えたまま異国まで移動するのはむずかしいだろう。そのことを伝えると、彼はうーんとうなった。 「じゃあさ。大きくて重くなければいいのかな」 お兄さんの紫の瞳が妖しく光る。どういう意味なんだろう。問いかけようとすると、ふいに船が大きくゆれた。
過去日記
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