予測と異なる、 或いは想定外の事柄が、 自身に生じた時に。
一時的に、 怒気と、 興奮と、 視野の低下を伴うのは。
人が生物故に、 否応無しに発動する防衛本能の、 副産物で。
決して、 芯の想いから産まれる物では、 無いけれど。
目の前の相手を、 敵視し、 迸りを喰らわせるのも。
飽く迄、 事実なのだ。
待ち合わせに成らぬ事。
予定を御破算にして、 再び、 仕事に戻らねばならぬ事。
直前の電話は、 予測の範囲外で。
防衛本能の中枢は。
其処に、 迎撃の準備と意識の集中とを、 強いたから。
苛々を増し、 無言に成り、 そして、 全く気付かなかったんだ。
だから姫は。
何時もの様に、 終業の合図を贈って来なかったのか。
「どうせ私と話すことなんて無いんでしょ。」 「もっと楽しくおしゃべりできる人と歩けば?」
「そうじゃなくて・・・」
「どうして怒ってるか。」 「気づかないの?」
「・・・あ。」
「せっかく行って来たのに。」 「今夜のために。」
姫は、 綺麗だった。
整った、 良い匂いの髪を、 風に靡かせて。 |