一つだけ。
約束を護りたいと、 相手が口に出したなら。
何を願うべきなのだろうか。
ずっと一緒に。 ずっと幸せに。
不確かな未来を縛る願いは、 そんなに必要無い。
「別れて。」
此の言葉を頻繁に使わぬと、 一つだけ、 約束してもらうんだ。
本気で俺を、 不的確な雄だと判断した時には。
或いは本当に、 俺と歩む事が出来ぬ事情を、 受け止める必要が産まれた時には。
甘受するよ。
此の言葉にだけは、 常に重みを包んでおこう。
姫と約束をした。
励まされた筈の作業の手が、 止まる。
ほんの少し、 時間を巻き戻せば。
其処には、 楽しい時間が在った筈なのに。
つい先迄。
受話器を介して、 笑い声の絶えぬ会話をした筈なのに。
毎晩遅いから?
早く寝ろと言ったから?
寂しい思いをさせて居るから?
「お願いだから。」 「別れて。」
電話を切った直後に、 届けられた文。
敢えて自分が創り上げた重みに、 潰されるのは。
決して本望では無く、 滑稽だろ。 |