何処かに旅立とうと、 この地へ足を踏み入れる度に。
何処かから自身の街へ戻ろうと、 この地に降り立つ度に。
如何しても消えぬ過去が、 拍動の頻度と強度を一気に変調させながら、 鮮明に迫り来る。
嫌な場所。
貴女へ逢いに向かう扉であり、 貴女を迎えに来る窓であるにも関わらず。
未だに嫌な場所。
「抱いて良いの?」 「うん・・・」
逢って僅か二度目の貴女を凌辱した、 切っ掛けの言葉が産まれたのも。
この地。
「駄目だった?間に合わなかった?」 「どうしよう・・・帰れない・・・。」
最終便に貴女を乗り遅れさせ、 事の重大さに脅え惑う貴女の抜け殻を、 身体だけ抱きしめたのも。
この地。
「仕事じゃ無かったのか?」 「もう逢えないかも。」
受話器越しに届く旦那の罵声に脅えながら、 現実の状況を把握出来ず、 中途半端に貴女を送り出したのも。
やはりこの地。
貴女に逢いに行く理由以外に、 この地を訪れたとしても。
行き交う機影と其の轟音を耳にした瞬間から、 報いだとばかりに、 俺へと牙を剥き続けるんだ。
最寄のこの空港は。
---------- References Oct.13 2001, 「貴女の心はどこにありますか」 Jun.01 2002, 「また逢えますか」 |