愛しい女の腹の上で、 死を迎えたら。
雄にとって幸福な事だろうか、 其れとも恥ずべき事だろうか。
未だ生に執着の有る俺の身は、 問いを解く立場にも辿り着いていないけれど。
愛しい男の腕の中で、 死を迎えたら。
雌にとって至福の極致なのだろうか、 其れとも絶望の極限なのだろうか。
性差を有する俺の心では、 埋める事の出来ぬ感覚の差が存在するのだけれど。
きっと貴女は。
自身の姿を、 この昆虫に投影して居たに違いないから。
「あのね・・・」 「甲虫の雌が死んじゃったの。」
貴女が夜中に観察した、 情熱の契り合いが。
門出の刹那か、 本能の狼藉か、 別離の慟哭か。
何れにせよ、 決して暖かな未来を醸し出す行為では無かったのだ。
貴女へ伝えたい想いの数々が、 貴女を魅せたい想いの数々が、 俺には未だ残ってるから。
「雄は知らずに抱き締めてたのかな?」 「それとも悲しんで抱き締めてたのかな?」
そう呟いた貴女を、 抱けなくなりそうで怖い。 |