経験値の高い筈である人間程、 逆に雁字搦めに陥って、 そこには辿り着けないのだろうか。
自身に経験の無い事柄を、 技術と伝聞とで必死に埋めて。 知識と想像とで、 経験を乗り越えようとして。
何度も何度も、 辿り着こうと努力した場所。
あっさりとその場に辿り着いた小さな彼に、 途方も無い力を感じてしまう。
もしかしたら人とは、 生きれば生きる程可塑性を失い続けて、 成長では無く退化を続ける、 そんな生物かも知れない。
垣根の無い柔らかい物が、 隣の異物を飲み込んで溶かし込んで、 また新たな形に変わったかの様に。
小さな彼はもう、 別の姿を獲得出来ているんだ。
貴女が少しだけ我慢をした、 嬉しい報告が、 俺の耳元に届いた。
「今度来るんだよ。」 「本当に?!」
「泊まっても良い?」 「良いよ良いよっ!」
小さな彼と貴女とで交わされた、 口調は軽いけれど、 中味は重い意味を持つ会話。
俺の存在が初めて、 小さな彼に伝えられた瞬間。
俺の存在を初めて、 小さな彼が容認した瞬間。
貴女は子供の様な人だから。 小さな彼と同じ目線に、 ふわりと降りて行ける人だから。
きっと貴女は、 俺の事を包み隠さず残らず全て、 話しているに違いない。
貴女にとっても、 俺にとっても、 嬉しい事には違いないけれど。
何となく、 取り残された様な想いが、 胸に燻る。 |