< 掴んではならぬ腕ですか >
声が滞った。 言葉が留った。
「会った時にゆっくりと話そうね。」
先延ばしと言う唯一の手段に縋り、 一時的にせよ、 事を収めるしか無かったのだろう。
其れ以外の手段は、 気体状の黒い浮遊物の儘であり、 言葉として形作られる工程までには、 至らなかったのだろう。
一度に去来した、 雑多で整合性の無い感情。
話すべき出来事の一つ一つに、 口に出そうとした出来事の全てに、 内包している感情は、 俺の前で勝手に弾けて乱雑に散って行った。
歓びに然り、 辛さに然り、 怒りに然り、 困惑に然り、 寂寥に然り、 混乱に然り、 諦めに然り。
「出戻っちゃうかも。」
ようやっと眼前に出現した君の肉声は、 俺の行為が、 もしかして逆効果ではないかと主張する。
必要以上に距離が縮まらぬ様に、 懸命に受話器の間に壁を築きながらも。
君が弱音を吐けば、 俺が弱音を受け止めれば、 君にくるりと背を向けさせて、 背中を軽く押し出せるかも知れないと言う希望が、 見え隠れして。
時折最深部まで手を伸ばして、 君を腕を掴みそうになった。
「またメールして良い?」
君から発せられた最後の問いに、 俺は肯定以外の何を返せと言うんだよ。
---------- References Apr.18 2003, 「予感は正しいのですか」 Apr.11 2003, 「歓べないのですか」 Nov.12 2002, 「救いの神になれますか」 |
2003年04月30日(水)
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