長い髪が好きだと、 そう伝えた事が有る。
短い髪に向かって、 そう伝えた事が有る。
ただ嗜好の問題だけでは無く、 あの男への対抗心と、 今を壊したいと言う願望が、 あれだけ強い想いを俺に齎した事は、 疑い様が無い事実だ。
小さな彼の勘違い。
幼気で素直で悪気の無い、 容赦も無い言葉。
「年下なのに呼び捨てしてる〜!」
貴女と共に呑んでいた同い年の友達は、 皆貴女より年下に見えると、 小さな彼は呟いた。
貴女の苦しさは、 俺が一番理解出来ていると想っている。
子供の素直な眼が、 例え貴女が同い年より年上だと主張しても、 俺の奥底が揺れる筈も無い。
けれども貴女は、 髪を切る道を選択した。
「きっとみんな髪短いからだよね。」 「美容院行って来る!」
寂寥感と嫉妬心、 そして何より敗北感。
貴女の近くに存在するのは、 俺では無く、 どうしても小さな彼なんだ。
女であろうとする貴女の気持ちは、 理解しているつもりだけれど。
「髪を切ったからって変わらないよ。」 「どっちかと言うと長い方が良かった。」
そう冷たく言い放った小さな彼の言葉は。
もしかしたら、 俺が一番言いたかった言葉かも知れない。 |