例えふと、 一年前を想い返したとしても。
過去を想い返した事と、 過去へ舞い戻る事は、 既に同義では無くなったんだ。
アイツを思い返す事が有っても、 アイツを想い返す事は決して無いんだ。
大丈夫。 人は都合の良い生き物だから。
声を聞いただけで、 貴女が不安を抱いた訳が、 理解出来る。
「ねぇ・・・」
声を聞いただけで、 貴女の問いたい内容が、 何故か理解出来る。
「想い出したの?」
きっと俺の奥底に、 あの男を恐れる気持ちが残って居るから。
きっとあの男の存在が、 俺の奥底で未だ燻って居るから。
だから瞬時に、 貴女の意図を察する事が出来るんだ。
矛盾。
俺の記憶は、 既にアイツを葬り去って置きながら。 貴女の記憶から、 あの男を跡形も無く追い出したいと欲しながら。
貴女の記憶に、 永遠に俺が住み続ける様に願う。
きっと大丈夫だ。
人の記憶なんて好い加減で、 都合の悪い事は忘れる機構を有する、 都合の良い生き物だから。 |