< 必死に覚えたのですか >
未だ大丈夫だろう。 今度も切り抜けられるだろう。
ほんの僅かな希望的観測。
もう駄目かも知れない。 今度こそ終わりかも知れない。
ほぼ確信に近い推測。
あの時の俺は、 貴女を失う事実に戸惑い、 目の前の出来事を、 只傍観しているだけだった。
あの時の俺は、 貴女を失う事実を受け入れられず、 目の前の出来事から、 必死に逃げようとするだけだった。
強情に。 きっと強情に。
貴女の強情さには、 若干の呆れと、 若干の諦めと、 沢山の嬉しさを感じる。
「教えたっけ?」 「必死に覚えたの。」
「何時の間に?」 「あの時。」
俺が写真を見せた時。
俺が貴女へ花の香を届けようと、 封筒から写真を取り出していた時。
俺がホテルで抱いた時。
俺が貴女を貪り尽くそうと、 渾身の想いで壁を突いていた時。
俺が空港で嘆いた時。
俺が貴女を助けられずに、 只黙って貴女の携帯を睨んでいた時。
物覚えの悪い貴女が、 必死になって覚えようとしていたのは、 俺の実家の住所だった。
「ストーカーとかアヤシい人じゃないよ!」 「封筒を見たら小坊主の住所書いてあったから。」 「写真見ながら、住所を必死に覚えたんだよぉ〜!」
物覚えの悪い貴女が、 一字一句間違えずに繰り返していたのは、 俺の実家の住所なんた。
強情に。
あの晩も、 あの男と話し合ったあの晩も、 きっと強情に。
貴女の強情さには、 敵わないな。
>> 参照 2002年6月1日 「また逢えますか」 << |
2003年01月20日(月)
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