個人的な話で恐縮だが、バンドにはふたつのタイプがあると思っている。言語誘発性のあるバンドとないバンドだ。どちらが良いとか悪いとかそういう話ではもちろんない。ただ、ステージの前に立ち/あるいは座り、バンドの演奏に耳を澄ませた瞬間に何かしらの言葉が立ち昇ってくる(それは呪詛にも似た意味不明の言語のこともあるし、メロディラインのうつくしさをそのまま描写したような場合もある。外国語のこともあるし、単語の羅列のときもある)音楽と、逆に頭が真っ白になっていくような感覚を覚える音楽とがある、ということだ。 前者のバンドを、私は勝手に「言語誘発性のあるバンド」と呼んでいる。AFTOは確実にこちらにカテゴライズされる。
わたしはまだ3歳か4歳くらいの幼子で、質素な二間続きの奥のほうの部屋にいる。古びた畳のうえに敷かれた布団に、首まですっぽりと潜り込んでいる。夕暮れ時で、室内は持ち上げた自分の指のかたちすらぼんやりとしか見えない程度にうすぐらい。続きの居間で1本だけ灯っているちりちりとした蛍光灯の光が畳の縁のところまで来ているけれどわたしを照らしはしない。朝から熱を出して寝ているせいで意識は朦朧と霞んでいて眠っているのか起きているのかすら判然としない。台所からは母が包丁をつかう音と、わたしに気を使ってか小さく絞ったテレビの音が流れてくる。6時のニュースを読み上げるアナウンサーの生真面目な声。森へかえってゆく鳥の甲高い鳴き声。汗ばんだ寝息で湿った布団の襟元。いつのまにかわたしはとろとろと眠って、おそろしいような夢を見るがそれが本当に夢なのかどうかは誰も知らない。だんだん暗くなってゆく部屋でぼんやりと聞いているテレビの音声こそが、もしかしたら。
わたしの拙い表現でどこまで伝わったか甚だ心許ないが、もし興味を持ってくれるひとがいたなら、ぜひAFTOのライブを聴きにいってみて欲しい。 そしてよければ、美味しいお酒でも飲みながら、あなたには何がきこえたかわたしに教えて欲しい。
【出演】 ●Informel 8 {三輪裕也(compose) 類家心平 (tp) 上運天淳市 (a.sax) 高井汐人 (t.sax) 中嶋錠二(pf) 大和康夫(ba) 田中教順(ds)} ●AFTO {雨下克(laptop,keyboard)/福岡宏紀(sax)/田村大介(guitar)}
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