雑記目録
高良真常



 Memories (音)

Memories
  谷山浩子
 ポニーキャニオン


■ディスク:1■
1.船 / 2.ピエレット
3.ひとりでお帰り / 4.鳥は鳥に
5.静かに / 6.再会
7.草の仮面 /  8.銀の記憶
9.ガラスの巨人 / 10.アリス
11.あたしの恋人 / 12.レディー・デイジー
13.見えない小鳥 / 14.まっくら森の歌



■ディスク:2■
1.森へおいで / 2.約束
3.夢の逆流 / 4.海の時間
5.王国 / 6.あやつり人形
7.ミスティナイト / 8.六月の花嫁
9.風のたてがみ / 10.小さな魚
11.おはようクレヨン / 12.冷たい水の中をきみと歩いていく
13.会いたくて / 14.パジャマの樹
15.約束の海 / 16.ひとみの永遠






シンガーソングライター・谷山浩子さんのライヴアルバム。
2枚組みで計31曲なのに、お値段は通常アルバムとほぼ変わらないという、お得な感じのアルバムです。
これは、谷山さん恒例の101人コンサートの300回記念ということもあり、曲の揃いも豪華な顔ぶれとなっております。
やはり聞き所は、『ナマのライヴの歌』であるところでしょうか。声と音が響きあい、小さな息継ぎまで聞こえるような、この感じ。
ライヴでの歌も素晴らしいどころか、オリジナルとはアレンジが違っていたり、ライヴの特別ヴァージョンがあったりと、ひとつの音源としても非常に聞き応えのあるアルバムになっております。
歌詞カードには、その曲に対する谷山さんのコメントが載っており、曲が産まれたエピソードや秘話など、こちらもファンには嬉しい作りになっておりますv


ディスク1は、静かに響くピアノが心地よい『船』から始まり、「綿の国星」のイメージアルバムにも収録された『鳥は鳥に』、オリジナルより厳かに唄われる『ガラスの巨人』と鳴り響き、盲目的な恐ろしい愛の歌『あたしの恋人』へ、そしてNHKみんなのうたでも好評だった『まっくら森の歌』で終息を迎えます。

ディスク2は、ライヴの特別ヴァージョン、2番の歌詞まで変化している『森へおいで』から始まり、これも非常に人気の高い『王国』、NHKみんなのうたで可愛らしく流れていた『おはようクレヨン』へ、輪廻の深さと夜の波が漂うような『約束の海』へと続き、CMにも起用された『ひとみの永遠』で爽やかに幕を引きます。


実は私、谷山さんのアルバムで初めて買ったのがこれだったので(2枚組みで安かったから…/笑)、いきなりその世界の深さをまざまざと見せ付けられ、以来虜になってしまいました。谷山入門編としても最適だと思いますv











2004年09月30日(木)



 緋色の囁き (本)

緋色の囁き
   綾辻 行人
  講談社文庫



内容(「BOOK」データベースより)
「私は魔女なの」
謎の言葉を残したまま一人の女生徒が寮の「開かずの間」で焼死した。その夜から次々と起こる級友たちの惨殺事件に名門女学園は恐怖と狂乱に包まれる。創立者の血をひく転校生冴子は心の奥底から湧き起こってくる"囁き"に自分が殺人鬼ではないかと恐怖におののく。


女子高を舞台にした、どこか伝奇ものな匂いを感じさせる長編。
“緋”をキイワードに本作は進んでいく。
夕陽の緋……火の緋……血の緋……。
“美しいホラー”と称され、実際幻想的な雰囲気のある囁きシリーズの中で、現実臭いようでいてどこか掛け離れた、少女達の物語。

この作品は、児嶋都さんによって漫画化もされております。













2004年09月29日(水)



 三月は深き紅の淵を (本)

三月は深き紅の淵を
     恩田陸
    講談社




『三月は深き紅の淵を』という本がある。
それは、たった一人にだけ、たった一晩だけしか貸してはいけない本。
その本を巡る、不思議な連作?短編集。


おそらく、著者の名前を一気に有名にした本だと思う。少なくとも私は、この本で初めて知った。この本より前に出されていた本は『六番目の小夜子』だけで、しかもそれは絶版だったもので……。
奇妙な、という表現がぴたりとあう小説。
この本自体が、『三月は深き紅の淵を』なのだから――……。


実は私、著者の本はこれと六番目の小夜子しか見ていない……;;;











2004年09月28日(火)



 ひとめあなたに… (本)

ひとめあなたに…
    新井素子
   角川文庫


地球が、あと一週間でなくなってしまう。
付き合っていた恋人にフラれてしまったあたしがヤケ酒をして、目覚めた翌日。
そんなニュースが飛び交っていた。
何でも、とにかくでっかい隕石がやって来て……地球、それに衝突するとひとたまりもないそうなのだ。防ぐ手は皆無。地球、あと一週間で消える。
絶望に狂う街。あと一週間。
そう、あと一週間なのだ。
なら。それなら。
せめてひとめ、あなたに会いたい――……。



「隕石が降ってきて、地球の運命はあと一週間」。SFでは多分、使い古された手だろう。SFならば、その隕石をどうにかしようとして、そこにドラマが生まれる。

が、本作は違う。

手立てはなく、地球はただ滅ぶに身を任せている。人々は狂気に己を委ねている。
そんな狂乱の中で、ただひとりに会いにいくために歩く主人公と、彼女が出会う人間の狂気とを描く小説。
その狂気が、本当に一人一人書き込まれていて、恐ろしいほどに切ない。
全て自分の夢だと言い切り、ただ眠る少女。
世界の破滅が理解できず、夫の帰りを待って料理する女性。
受験勉強を続ける少女。
それらに翻弄されながらも、ただひとりを目指して歩き続ける主人公。
やっとで辿りついたとき、もう地球の運命は数えるほどしかなくて……。

終わりが切なく、どこまでも破滅の幸福に満ちた、そんな小説。











2004年09月27日(月)



 星への旅 (本)

星への旅
   吉村昭
  新潮文庫



鉄橋 / 少女架刑 / 透明標本 / 
石の微笑 /星への旅 / 白い道


若者達がいた。
彼らは、同じ様な一日の繰り返しという“日常”に飽きていた。
そんな日常を繰り返すだけの人生に疑問と諦めを抱いた若者達は、この“日常”を終わらせようと、死地へ向かい、旅をする。


主人公もそんな若者の一人だった。
けれど、彼は死地へ近づく、その日が来るにつれて不安や恐怖を抱くようになる。逃げ出したくなるような、そんな衝動にかられる。
だが、仲間達の手前や、それに自尊心が、逃げることを不可能にする。
手を布でつなぎ、高い崖から落ちる瞬間、彼等はどうするのか――……。


透明な響きのあるタイトルと打って変わって、乾燥し擦り切れた雰囲気のある短編集。
若者の集団自殺を描く表題作もいいのですが、私は収録作の『少女架刑』が好きです。
これは、一人の少女の遺体が、医学解剖され焼かれ、骨壷に入れられるまでの経過を追っていく話なのですが、特異な事は、その経過が、死んだ少女自身の“一人称”で語られる事でしょう。少女は何処からともなく自分が運ばれ、解体される様子を見ていて、それに対しての羞恥や回想を語る。全く特異な話ですが、ひょっとすると、この短編集の中では一番透明な話かもしれない……と、そう思うのです。
続く『透明標本』は、透明に輝く人体模型を作る事に執念を燃やす男の話なのですが、これが『少女架刑』とも微妙にリンクしています。

一度味わうと、強烈なわけでもないのに不思議に忘れられない、そんな著者の短編集。
ちなみに、『星への旅』は太宰治賞を受賞しています。












2004年09月26日(日)



 骨は珊瑚、眼は真珠 (本)

骨は珊瑚、眼は真珠
      池澤夏樹
    文芸春秋



眠る女 / アステロイド観測隊 /
パーティー / 最後の一羽 /
贈り物 / 鮎 /
北への旅 / 骨は珊瑚、眼は真珠 /
眠る人々




亡くなった夫の最後の願いを叶えるために、悲しみをこらえて実行する妻。そしてそれを、何処でもない場所から優しく見つめ、語りかけるとも語らず話す夫の一人称で進んでいく、表題作「骨は珊瑚、眼は真珠」。最後に残された一羽の野性と、彼を取り巻く環境を映し出す「最後の一羽」。遥か遠い島の儀式に夜毎参加する女性の夢、「眠る女」。
透明な文体と容赦を許さない描写が、とても光って見える、そんな作品集。どちらかというとジャンル的にはバラつきがありますが、この著者という一括りで不自然なく収まる、そんな感じです。
夜の篝火と、青い空と藍の宙を思わせる小説。













2004年09月25日(土)



 Return to OZ (映)

Return to OZ



大きな竜巻に吹き飛ばされ、家ごとカンザス州から別の世界へ来てしまったドロシー。
そこはオズの国で、大魔法使いオズと、西北南東それぞれに一人づつの魔女が支配している土地だった。
ドロシーはそこで、脳みそが欲しいかかし・心が欲しいきこり・勇気がほしいライオンと出会い、皆と協力して、無事に懐かしいカンザスへ帰れた。

そして、その後――……。

カンザスへ帰り、おばさんやおじさんにオズの国の事を話すが全く信じて貰えず、とうとう病院にまで連れて行かれたドロシー。そこは不気味な病院で、ドロシーはひどく憂鬱になってしまう。
が、そこで出会った謎の少女。そして嵐の晩、ドロシーは少女に手を引かれて病院を抜け出す。追っ手から逃げて、流れ着いたベッドを船代わりに川を下るドロシーは、いつの間にか眠ってしまう。

そして眼を開いた朝、ドロシーはまたオズの国に来ていた……。

かかしが治めている筈のエメラルドの都へ向かうドロシー。しかし、様子がおかしい。
都はひと気がなく、何と、住人が皆石になっていた――…。




「オズの魔法使い」の続編にあたる話を映画化したのが、この作品です。
再びオズの国に来たものの、かかしはおらず、きこりやライオンは石になっている。しかも、敵と思わしきものまで襲ってくる。その中でドロシーはどうするのか……。
前半はハラハラしたり不気味だったりするシーンが多いのですが、独自のファンタジー性が素晴らしく活かされていて、とても楽しく観れる話です。
しっかり者のドロシーがまた可愛くて、三つ編みやエプロンドレスにくらくらきちゃいますv
名作と呼ばれるミュージカルの影に隠れてしまい、地味に見えてしまう本作ですが、とっても面白いので、是非ご覧になって下さい♪












2004年09月24日(金)



 少年アリス (本)

少年アリス
   長野まゆみ
  河出書房新社


月の夜。
アリスは友人の蜜蜂の忘れ物を取りに、蜜蜂、そして犬の耳丸と共に夜の学校に忍び込む。
夜の学校は静まり返っていて、ただ中庭噴水の水の音が聞こえる。
学校には誰もいない……はずだった。だが、理科室の前を通った時、ふたりは、その教室に彼等と同じ年齢の少年達が不思議な授業を受けているのを見る……。
教師に見つかってしまったが、逃げそびれたアリスは、少年たちに混じって奇妙な授業を受ける事になるのだが――…。


長野まゆみの初期の代表作であり、第25回文芸賞受賞作、そして課題図書にも選ばれた作品。
夏から秋への季節の移り目、その狭間に存在する不思議な力。それを手助けするもの。
奇妙な少年たちと、卵と小鳥。夜空の月。そして泉。
読んでいるうちに、綺麗な月夜の中に引き込まれていくような、良質のファンタジーです。


ちなみに、このアリスと蜜蜂、そして耳丸が出てくる話に、『少年アリス 三月うさぎのお茶会へ行く』という話もあります。これは、イースターの夜にアリスが奇妙なお茶会に紛れ込んでしまう話。こちらも可愛くてオススメ。








2004年09月23日(木)



 帰らざる夏 (本)

帰らざる夏
   加賀乙彦
  講談社文芸文庫




主人公・省治は、時代の要請や陸軍将校の従兄への憧れなどから百人に一人の難関を突破し陸軍幼年学校へ入学する。日々繰返される過酷な修練に耐え、皇国の不滅を信じ鉄壁の軍国思想を培うが……


あの時代。
天皇が神であった時代の、帝国のただなかで育ってきた少年が主人公の小説。
『僕』『君』を軟弱とし、『俺』『貴様』を通したその時代。
私達の知らない、“帝国主義”というものの一端を見せてくれる小説。
帝国や、戦争というものの別の一面も見せてくれる話。




うーん…これは書くかどうか考えたのですが。
この話は、耽美というか…男色を多々に含んだ話です。
そういうものが苦手な人は要注意。ちょっとした性描写も出てきます。
勿論、ただそれだけで終わるような話ではないのですが……。でも、この恋愛(…といっていいのだろうか)を含むからこそ、省治の最後がとても印象的であることは確か。










2004年09月22日(水)



 0をつなぐ (本)

0をつなぐ
   原田宗典
  新潮文庫



14階からの視線 / 箱の中には /
どうしても思い出せない約束 / ビデオテープでもう一度 /
あなたの後を / レイン・レイン /
黄色い旗のところまで / ジュリエットの薬 /
閉ざされた肖像 / 奇妙な線が /
水槽の棲む部屋 / 花嫁の父の事情 /
姿のない尋ね人



0(ゼロ)をつなぐと、鎖が出来る――…。
日常にふと感じる、かすかな違和感。見過ごすには障りがあり、目視するには小さすぎる……。
感覚の鈍い場所に刺さった棘のような、微かな毒を感じる短編集。



原田宗典さんの短編集です。
原田宗典さんといえば、『物凄いエッセイ』という印象があるんですが……実際、原田さんはコピーライターの経験がある人で、文章の使い方・流れがとっても上手い人なんです。
この本も、その僅かな寒気がリアルに感じられる、一見何でもないような描写に隠れているものがある。そういうものを感じさせます。










2004年09月21日(火)



 猫森集会 (本)

猫森集会
  谷山浩子
 サンリオ



紅茶の誘い / タネもシカケもコンピューター /
地球博物館 / 地底通信 / エイエン物語 /
スーパーマーケット・マン / 猫森集会 /
つぶやきあつめ


紅茶の中に階段が見えた。そこを降りていくと、たくさんのドアとメモがあって……
“ネムコ”こと“私”が、ふとした瞬間に紛れ込む、おかしな世界のおかしな短編集。


谷山浩子ファンだったら読んで損はない本。ふわふわしてて、少し夢見る少女っぽくて、でもその中に、暗い影や闇を隠している、そんな話が8つ入っている短編集。『まっくら森の歌』が作中に登場します。そして、谷山ファンなら一度は耳にする“トポポ”も……。
『お昼寝宮 お散歩宮』の主人公と同じ名前(―のよう―)ですが、実は別人だったりします。こちらにも“トポポ”という名前が出てはきますが……。
挿絵画家さんも数人いるのですが、私は表紙も描いている黒井健さんがいちばん好きですv










2004年09月20日(月)



 ニジンスキーの手 (本)

ニジンスキーの手
    赤江 瀑
   ハルキ文庫



ニジンスキーの手 / 獣林寺妖変 /
禽獣の門 / 殺し蜜狂い蜜 / 恋怨み候て


〈ニジンスキーの再来〉とパリの有力紙に絶賛された舞踊家・弓村高。彼とニジンスキーの間には、奇妙な一致があった。二十三歳。春。パリで。短い舞踊詩。処女作……。成功を収めた後、盗作とスパイ容疑をかけられた高が帰国した時、彼に執拗に質問をした若い新聞記者が殺された---。果たして高と関係があるのか!?表題作のほか、「獣林寺妖変」「禽獣の門」「殺し蜜狂い蜜」「恋怨に候て」の耽美幽玄の世界を描く傑作五篇を収録した珠玉の一冊。(裏表紙・解説より)


『オイディプスの刃』と並んで評される、赤江瀑の代表作。
私が持ってるのは旧の角川文庫なんですけど、そちらはもう絶版・廃版になっているそうなので; 新しく出版されたハルキ文庫の方にリンクを張っておきます。

とにかく、これも赤江瀑の世界を存分に堪能できる短編集です。収録作『獣林寺妖変』『禽獣の門』『殺し蜜 狂い蜜』は赤江ファンの間でも根強い人気を持つ話なので、赤江の入門編にはいいかな……と思ったんですけど……どうだろう、濃いかな……;;










2004年09月19日(日)



 とり残されて (本)

とり残されて
    宮部みゆき
   文春文庫



とり残されて / おたすけぶち /
私の死んだ後に / 居合わせた男
囁く / いつも二人で / たった一人


婚約者を事故で失ってから、“私”の生活には覇気がない。
知人からの紹介で学校の保健教諭を務めるが、生活には空白感が残る……。
そんな毎日の中で、“私”はある違和感に気付いた。
それは、見えもしない子供の声が聞こえるということ……。
不思議な声の正体も解らないまま、私は突然に起こった殺人事件に巻き込まれていき――…


宮部みゆきさんの、他の作品とは一味違った短編集。
これに収録されている短編は、やり場のない切なさや苦しさ、恐ろしさに溢れている。
ホラー色も強いのだけど、それ以上に物悲しさが残る、そんな話。










2004年09月18日(土)



 天体議会 (本)

天体議会 プラネット・ブルー
   長野まゆみ
  河出書房新社



南へ憧れる、硝子の街に住む少年たち。
銅貨は南で仕事をしている父を持つ少年。同じ父親を持つ兄の藍生と二人暮らしだが、ここのところはその藍生とも交流がない。
銅貨の親友の水蓮は、何でも出来る、彼ら少年世代にとっての“憧れ”の少年だった。その水蓮が、ある朝片目を腫らして来る。
水蓮のその眼を見て、「石がはいっているよ」と言った不思議な少年は、兄の藍生とも繋がりがあるようで……。


長野まゆみの初期の作品で、未だ根強い人気を誇る代表作。
実際私が二番目に好きな話だったりします(一番は“三日月少年”)。
長野まゆみ版「星の王子様」だそうで、この話にも透明な美しさや特有の孤独さ、優しさがあふれています。


ついでに、CDドラマにもなってます。銅貨役に高山みなみ、水蓮役に緒方恵美。
藍生さんのイヂワルなお声は必聴です(笑)
更に、河出文庫より、同じく銅貨・水蓮が登場する、『三日月少年漂流記』が出ています。こちらは『天体議会』より前の話で、“三日月少年”と呼ばれる自動人形にまつわる話。こちらで明かされる銅貨の癖が……; くま(笑)











2004年09月17日(金)



 沈黙博物館 (本)

沈黙博物館
   小川洋子
  筑摩書房



博物館技師である“僕”は、新たな仕事場として、ある博物館の創造に携わる事になる。それは、亡くなった人間の形見の品を集め、展示する博物館だった……。

依頼主の老婆から品物の由来を聞き、展示の準備をする。
老婆の家に住み込みで働く“僕”は、兄に向けて手紙を書く。
少女に連れられて街へ出る。
展示する品物の由来をあらかた聞き終えると、“僕”は思ってもいなかった事を請け負う事となる。
兄からの返事は来ない。
老婆の蒐集品であった形見の品――…その蒐集の後続を“僕”がやる事になる。
兄からの返事は来ない。
そうして蒐集を続ける“僕”に、連続殺人の疑いがかかり…………



とにかく、独特の空気を持つ著者の、これもまた独特の空気を持つ本。私はこの本で小川洋子にハマりました。
何も大きな事は起こらない。
事件というような事件は起こらないように見える。
実際には大事として扱うものが、流れる水のように書かれている。
とても好きな話です。










2004年09月16日(木)



 ビルとテッドの大冒険 (映)

ビルとテッドの大冒険
      スティーブン・ヘレク監督


歴史で落第しかかったビルとテッドのバカコンビ二人は、なぜかタイムマシンに乗って原始から未来までかけめぐり、ソクラテス、ナポレオン、ベートーヴェンその他を現在に連れてきて、試験パスを目論むのだが……。


とにかく全編おバカなボケ嵐。B級ギャグ映画の醍醐味を持った映画です。
例によって(笑)ネムキのレビューで見かけたのがキッカケですが、これもかなり面白かったです! しかも、主演にキアヌ・リーヴスが……。
B級のノリが好きなら見るべし。

続編の「ビルとテッドの地獄旅行」も有り。こちらも相変わらず(笑)










2004年09月15日(水)



 刺繍する少女 (本)

刺繍する少女
   小川洋子
  角川文庫



刺繍する少女 / 森の奥で燃えるもの /
美少女コンテスト / ケーキのかけら /
図鑑 / アリア / キリンの解剖 /
ハウス・クリーニングの世界 /
トランジット / 第三火曜日の発作



母が入院したホスピスで、僕はある少女と再会した。
その少女は、昔、別荘に行った夏に出会った少女だった。喘息で激しい運動が出来ない彼女はあのとき、刺繍をしていた。
そして再会した今も、刺繍をしている……。


男女の出会いと、別れ。
それだけの話。
それだけの話が、何故こんなに印象深く、心の底に残るのか。
美しく、儚く、残酷な短編集。


個人的には同書に収録の『森の奥で燃えるもの』と『キリンの解剖』がとても好きです。
『森の奥で燃えるもの』は、架空にある美しく深い森のような、そんな場所でひそやかに行われる密月のような甘い残酷さを、『キリンの解剖』は不思議な哀しさを感じさせる話で。
あれ以来、クレーン車がキリンや首長竜に見えて仕方ない……;










2004年09月14日(火)



 一人の男が飛行機から飛び降りる (本)

一人の男が飛行機から飛び降りる
      バリー・ユアグロー
     新潮社


とにかくブッ飛んでる短編集。
その数、なんと149編。
読み終わったあと、おい!と思わずツッコミたくなるものや、「???」となってしまうもの、ブラックジョークの毒気にやられてしまうものや、ほんのりジーンとくるものまで、多種多様です。

とにかく掟破りな本。
装丁画からしてもう何処かオカシイ。
ブラックジョークやシャレが大好きな人にオススメです。










2004年09月13日(月)



 時をさまようタック (本)

時をさまようタック
     ナタリー・バビット著
    評論社



その夏の日、ウィニーは厳格な家を飛び出し、森へ入り込む。そこはウィニーの家の所有している小さな森。
そこで彼女は、不思議な少年、ジェシー・タックに出会う。ジェシーは、森の中にある、ぱっと見ては解らない場所にある、泉の水を飲んでいた。
実はその泉は、不死の泉で、偶然にもそれを飲んでしまったジェシーを始めとするタック一家は、不老不死の身体になったという。
その秘密を知ってしまったウィニーは、タック一家の住む家に連れて来られる。
ただ、その秘密を誰にも言わないで欲しいと頼むタックの人々。初めて過ごす、己の家の外。
不老不死とはどういう事か。永遠にさ迷い続けるタックの家の人は、幼いウィニーに静かに語る……。



不老不死をテーマとした児童文学。
飲むと不死になる泉と、その泉と森を所有する家の娘、ウィニー。
言葉と文字がとても美しく、情景が溢れてくるような描写は秀逸です。
児童文学としても、不死をテーマに扱った作品としても素晴らしい物語。

“不死ということは、神様の作った環から永遠に外れてしまうことだ”

ただ静かにひそやかに暮らし、時代と土地を移り住むタックの人々はそう語ります。
それを知るだけでもいい。一生のうちに一度は読んでほしい本です。
それに加え、ジェシーとウィニーの幼い恋愛が個人的にツボでした。可愛すぎます……。しかし、ラストにほんのりとした切なさが漂う。そんなお話。


ついでに、どうやら映画化もされているようです。初めて知った; 探してこよう……。










2004年09月12日(日)



 フック (映)

フック
  スティーヴン・スピルバーグ監督



40歳の仕事人間ピーター・バニングがある日家に帰宅すると、子どもたちが消え去っていて、フック船長からの脅迫状が残されていた。
そう、ピーターの本当の正体はピーターパンであり、やがて彼は宿敵フック船長から子どもたちを救出すべく、妖精ティンカー・ベルとともに再び冒険の旅へと旅立っていく…。


“大人になったピーターパン”という斬新なテーマの作品。
ネバーランドを出て、大人になってしまったピーターパン。忘れていた、それでも忘れられぬ、幼い日の“永遠の島―ネバーランド―”。
どこかコミカルにつづる本作には、情景や、ピーター・パン症候群に対するメッセージが込められていると思う。
相変わらずのフック船長、ナマイキなティンカー・ベル。そしてピーター・パン……。

私的には、これこそがピーター・パンの続編のようなもの、と思っています。

余談。……時計ワニも相変わらずです(笑)










2004年09月11日(土)



 風街物語 (本)

風街物語
   井辻朱美
  アトリエOCTA



不死の竃 / 眠り男の森 /
マーチ博士の備忘録 / チェスの平原 /
噴水綺譚 / オルゲンビュヒライン /
人形芝居 / ロビン・グッドフェロウの災難 /
少女と傘 / 夢の掃除人 /
魔女のしもべ / 指環の魔神 /
花瓶―あるいは硝子の屈折率について /
珈琲の魔物 / 地震の話 /
扉綺譚 / ファルファレーシュ /
ドラゴンの夢


古の神々の国より魔法使いが造りだした幻想の街、風街。
ありとあらゆる風が吹き込むこの街には、奇妙な『日常』がある……。


「風街」というひとつの街を舞台に、そこに息づく人々やものの生活を記す本。
見る角度により姿が変わる広場。
捕まえたと思うと消えている兎。
死者のために毎日鳴らされる弔いの鐘。
永遠の恋人たちの噴水。
眠り男たちがいるという森への地図。

それらはすべて、風街にある。


実際に存在するかのような、確かな手触りすら感じさせる風街の話。
良質のファンタジーです。











2004年09月10日(金)



 スティル・ライフ (本)

スティル・ライフ
    池澤 夏樹
   中央公論社



スティル・ライフ / ヤー・チャイカ


仕事先で知り合った友人・佐々井。彼はどことなく不思議な雰囲気を持つ、僕の唯一の友人と呼べる青年だった。
その佐々井から、僕は奇妙な事を頼まれる。
株を買って欲しいと言うのだ。
資金や運営などは自分がやる。そのかわり、名義を貸して欲しいのだと……。
まるで詐欺でも働くかのような頼み事だったが、僕は佐々井の静かな人柄を考えてOKする。
株の投資は順調に進んでいるようだったが、僕は特に変化があるわけでもなく、穏やかに静かに暮らしていく……。



数年前、中学の時に初めて読み、数年経ってから読み返して驚いた。『株』という、余りにも俗な名前が出てくることに。
名前を貸すかわりに、投資を倍に増やしていく。
そんな取引があるとは思えないほど、主人公と佐々井の生活はただ静かで穏やかだ。
読んでいるだけで、神秘的なものに触れられる気持ちがする。
洗われる、というのは、こういうことを言うんだろう。
そんな文体の作家さんの、代表作。




『いつも思うのですが、池澤夏樹さんの小説は天体の匂いがします。
天体とは言っても、それは長野まゆみや星々の輝きのように硬質な響きではなく、ごく自然な、春の雨に近い、柔らかなもの。言葉は天文学や科学的な語列を含んでいるのに、果てしなく淡く緩やかな。
文体にも、例にあげられるような特徴がありありと見られる訳でもないのに、読んでいると「ああ、これはこの人にしか書けない文章なんだ」と思う。
そしてそういう人は、その文章とおなじ人柄(と、いうか精神や魂)をしているのかもしれない。』
     (以前、日記で書いた文より抜粋)










2004年09月09日(木)



 ユメノ銀河 (映)

ユメノ銀河
   石井聰互監督
  NTSC



女車掌・トミ子が勤めるバス会社に、新高という運転手が入社してきた。その名前に耳を疑うトミ子。なぜなら、先頃事故で亡くなった友人からの手紙に、「もし自分が死ぬとしたら、それは彼に殺されるのだ」と記されてあったのだ…。


夢野久作「殺人リレー」(少女地獄)を原作に、独特の感性と情緒で映像化した本作。
夢野独自の、狂気のような雰囲気はないが、レトロや淡々とした、これはこれで独自の雰囲気が出ています。
内容自体は起伏に疎く、飽きる人は飽きるような感じになっていますが、夢野ファンならば、新しい捉え方というものを知ることができるかもしれません。
私はこういうの、好きです。










2004年09月08日(水)



 蝶の骨 (本)

蝶の骨
  赤江 瀑
 徳間文庫



岸田流子は15年のあいだに見事な変身をとげ、美しい〈蝶〉になっていたが、それはある“悪意の計画”のためだった。女の爪に飾りの彫刻をしている高村涼介に流子は近づき、やがて涼介は流子の美しさのとりこになるが、この涼介こそ、かつて変身前の流子に一顧だに与えなかった男だったのだ。蝶となった流子は男の果肉の中を飛び交いながら甘美な復讐に酔い痴れる――愛の執念と官能を描く赤江瀑の世界。


それは確かに復讐の筈だった。
だが、蝶は知らずのうちに、蜘蛛に絡み取られる――…

復讐の物語でありながら、男女の物語でもある本作。この物語の最後。結局流子は、その最後まで己の欲望を遂げたのだ。本当に絡め取られていたのは――……。










2004年09月07日(火)



 誰がこまどり殺したの (本)

誰がこまどり殺したの
    篠原一
   河出書房新社



内容(「BOOK」データベースより)
羽を失い、獣となった少年たちに約束の百年は訪れるのか。「天国のドア」はひらくのか。きみに喰われてきみの血肉になってゆくのが僕の愛なのかもしれない…。文学界新人賞デヴュー(『壊音KAI‐ON』)19歳天才女子大生作家、初の長篇。



謎の少女“K”と、少女を取り巻く少年たちの、無意識の中の愛憎。母と子、男と女、少年と少女――……それらすべてに当て嵌まり、かつどれでもない彼等の世界。
紹介の言葉で多くは語れない。
読めば、解る。そんな本の一冊。

ちなみに、デビュー作『壊音KAI‐ON』も、退廃と世界と鳥のにおいがする、独特の世界です。長野まゆみの、夏至南風や雪花草子の世界が好きならオススメ。










2004年09月06日(月)



 トリックアート・トリップ (本)

福田繁雄のトリックアート・トリップ
     福田繁雄
    毎日新聞社



だまし絵、というものがある。
一見見て普通、でもよく見るとあれ?と思ったり、立体だと思っていたら実は平面画だったり……。
そんな遊び心いっぱいのトリックアートたちを紹介していく本。毎日新聞で連載をしていたそうです。
とにかくページを開くたびに驚いたり感心したりで、飽きさせない本です。写真からでも解る、ものすごいトリック。
本屋で恋月姫の人形写真集を物色していた時にたまたま手に取った本ですが、パラパラ読みでもうハマってしまい、予定を変更して速攻買ったという、いわゆる“衝動買い”本。
けれども、値段以上の満足感を与えてくれました。 

とにかく面白い本。トリックアートの世界、奥が深いです。











2004年09月05日(日)



 パペット・ショウ (音)

パペット・ショウ
   Plastic Tree
  ワーナー



1.Intro / 2.May Day
3.リセット / 4.絶望の丘
5.幻燈機械 / 6.「ぬけがら」
7.本当の嘘(Studio Live) / 8.Monophobia
9.クリーム / 10.3月5日。
11.サーカス


プラトゥリことPlastic Treeの、いわば出世作のようなアルバム。
プラの魅力は、その世界観にあると思う、その世界観を余すことなく、さながら幻燈機械――のように、眼の前で見せてくれるのがこの作品だと思います。
薄汚れて壊れかけたサーカスのようなアルバムですが、その退廃した雰囲気は一度触れると抜け出せなくなってしまいます。
私は特に“幻燈機械”と“サーカス”が大好きです。何ていうか、このアルバムの真骨頂を現した曲……のような気がするんですよね。個人的に。

とにかく一度聞いてみて損はないアルバムです。

こそっと……竜太郎くんの書く詩は、中原中也の世界に似通ったものがあると感じます。中也の孤独や悲観を、オブラートに包んでまぜたような……そんな感じ。中也の詩が好きな人にもオススメです。










2004年09月04日(土)



 遥かよりくる飛行船 (本)

遥かよりくる飛行船
    井辻朱美
   理論社



太古の島々の血脈を引き継ぎながらも、血と土の呪縛から逃れるために都会で暮らす主人公・アスナ。
彼女の“ジンクス”は飛行船。飛行船はいつも唐突に現れ、アスナを少しの間見守ってからゆっくりとビルの狭間へ消えてゆく。
アスナの働くビルは、地層が深く重なっていて、不思議な翼竜の化石が柱に埋め込まれている。その地層を調べるために来た二人の学者を案内するアスナは、二人組のかたわれ――リーデンブロックに不思議な印象を抱く。

古い神の島。マンションに生えたゼラニウムの鉢植え。パンゲアのシャーマンの血を引く友人。腐った海のにおい。古い、古い血。そして、のびやかな笑顔のリーデンブロック……。
私達の世界とは違った理論で動く、よく似た世界の古く新しい物語。



私の凄く大好きな本です。井辻さんの本は風街物語で最初に惹かれたんですが、風街とはまた色の違うこの本も、めちゃくちゃ好きになりました。
これも、結末が全く読めない本のひとつです。
太古の島、恐竜の化石、パンゲア、呪術。これらの単語に惹かれた人は読んで損は無いですヨ。
ついでに、この本のラストは、谷山浩子さんの「はじまりの丘」(アルバム『しまうま』収録)がとっても似合うと思います♪ 良ければそちらも併せてどうぞv










2004年09月03日(金)



 ダーク・クリスタル (映)

ダーク・クリスタル
    ジム・ヘンソン、フランク・オズ監督



1000年前、宇宙を支配するクリスタルが砕け、悪の化身スケクシス、平和を愛するミスティクスの2つの種族が誕生した。
以来世界はスケクシスが支配し、腐敗と貪欲がはびこっていた。予言では3つの太陽が重なる大会合の前に、クリスタルをもとに戻さないと世界は永久に悪に支配されてしまうと言う。ミスティクスはゲルフリンの少年ジェンに望みを託す。


全編人形(マペット)を駆使して作られたファンタジー映画。
人間やそれに近いものは一切出てこず、独特の世界観を持っています。
ストーリーも、なかなか面白かったです♪
善と悪の存在の意味が深くて、考えさせられる話。
そして何より、ジェンと同じゲルフリンの少女・キアラがめちゃくちゃ可愛くてー!(笑) 銀髪がサラサラで、マペットながら綺麗なコですv

同じくジム・ヘンソン氏の監督で、デビット・ボウイ主演の『ラビリンス魔王の迷宮』が好きな人にもオススメ。









2004年09月02日(木)



 青猫の街 (本)

青猫の街
  涼元悠一
 新潮社



神野の友人Aが旧式のパソコン1台残して消えた。神野はパソコン通信、インターネット、地下BBSを駆使してAを探索する。数々の暗号を解読し、幾たびかの危機を乗り越えてたどり着いた先は謎の地下組織「青猫」だった…。


横書きの文体という、珍しい形を取る小説。読み方も左から右にページをめくっていくので、慣れないうちは妙な感じがします;
横書きなのは英文が多いせいでもありますが……。
実は、これを読むキッカケっていうのが、城戸光子さんの『青猫屋』を読んだ直後だったからなんですが(笑)、これも面白かったです。

読んでいくうちに、主人公と共に、深い世界へ嵌りこんでしまったかのような感覚がします。果たして「青猫」の正体とは……。










2004年09月01日(水)
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