どうも。 先日、書類で落ちたと思っていた某広告会社(非事務)の面接をしゃーしゃーと受けてきた管理人です。 最近竣工したばかりという関西支社ビルの美しさを見上げて、普段着の自分にちっと後悔したもんの、
「ま、バイト面接だしね」
と舐めて掛かって通された部屋は、巨大な本革ソファと大阪の高層ビル群を一望できるカーテンウォールも素敵な応接室で、迎え入れたのは乱れ髪でヒゲぼーぼーのクリエイティブ現場担当でも、ホワイトカラーの中間管理職でもなく、人生の酸いも甘いも知り尽くしていますって顔の取締役2人という予想を裏切る事態にまずビビり気合い入る。 しかもそこで事前に郵送した履歴書の職歴が、ざっと2年半ばかり仕事内容をすっ飛ばしていたことが発覚し(つまりその間プーだと思われていたらしく、よく書類選考通ったなみたいな)、その後の一般常識の試験では、
問:次の空欄を埋めよ。「三権分立の3権とは司法と( )と立法である」 答:「内閣」
と苦し紛れとはいえ臆面もなく書き、30にもなってあわてん坊の上に常識なし子ぶりまでさらけ出すのかよ私、とその夜は自己嫌悪に枕を濡らす。 惜しいかな、正解は「行政権」よ私。まあ、行政権を持つのは内閣だから、「いいじゃん、かすってるし」ぐらいは言い張っても許されると思うんだけど、そうだとわかって書いていた訳では全然なく、そもそもそんな問題じゃない気がするってゆーか。 まぁその時は頭に左手の爪をめり込ませながら、
「(どうせわからんのだから)ここはいっそ玉砕承知で、「司法」「立法」「サモ・ハン・キンポー」ぐらいかまして帰るべきなのか?」
と右手でシャーペンぶるぶると握りしめて思い詰めたものだが、それをやったら今日、内定貰えなかっただろうしね。 何の因果か、30の春から職業は「コピーライター」です。はい。5年振りに物作りの世界に舞い戻ることになりました。 人生って本当、息の根が止まる瞬間まで気が抜けませんね。
そんなこんなの一環で、身分証明に住民票を取る必要があった(私は運転免許持ってません)ので、今日も遠慮無く早退して適当に油を売っていたところ、出張中の肉塊現在の上司から、携帯にメールが入る。 「月曜までの出勤予定でしたが、明日までで結構です」とのことで、それは前からKさん(デザイナーの女の人)に聞いていたのでさほど衝撃も受けなかったのだが、「欠勤扱いにもしないから大丈夫です」と書かれている。 ほっほう。
この会社は年俸制という名のもとに残業手当も休日出勤手当もなければ、有休も欠勤もないと思っていたが。
欠勤届自体がないもので、足しても引いても月収には1円も変動無しと思っておりましたが、そんな概念がちゃんとある会社だった事に驚きました。私もまだまだ功夫が足りません。今更とってつけたようなお心遣い、有り難くって涙が出ます(全て棒読み)。 というか、今更そんな単語を思い出したように引っ張って来るあたり、「うちはちゃんとした会社なんだから、労基署に訴えられるものなら訴えてみろ」とも読めますね。 もう、私にはどっちでもいいんだけどね。 たぶんそういう大人の事情に耐えられる人だけがやっていける会社なんだとは、もう重々わかりましたし。 昨日も昨日で、
「会社都合で失業保険がすぐ出るんだから、出ない人もいる事を思えば全然マシ」 「締日が20日なのに3月末まで在籍できるなんて、あの社長相手に私たちではあり得ない」 「みんなMさんには悪いと思ってるし、私たち制作職に比べて、まだ会社に大事にされてたんですよ」
とかKさんと子リスのデザイナー2人から、現実が真っ黒くろすけでも無理矢理白に解釈しようとする禍々しいまでの善意と、どう聞いても釈然としない慰めを1時間以上両脇から連発されると、逆に堪える。 まぁ、幾ら参っているからって、この人らまで敵と見るほど私もヒネてないし、特に子リスなんぞはちょっと配慮が足りないピンボケねえちゃんなだけでもともと悪い子でないのは承知しているのだが。 だが。
「3末までの賃金もつけてもらって失業保険も出して貰って、(そこまで会社に大事にして貰ってという意味らしい)Mさんが羨ましくて嫉妬しますよー」
という、感情移入も共感も欠片も感じられぬその露骨な台詞は、むしろ厭味という名の凶器で、私が銃を持っていたら脳天ぶち抜かれても文句は言えん気がしたのは、私の心がねじ曲がっているからだけなのでしょうか、チャールズ・ブロンソン? つか、3末までの賃金はいわゆる解雇予告手当というやつで、失業保険も会社都合で辞めさせられるならすぐ出るように法律で決まっていて、出て当然のものが出る事に対し、何が羨ましくて何が嫉妬で何がラッキーなんだ? 確かに、そういう事をしない無法な会社は、吹けば飛ぶよな制作系の会社にはごまんとある。だけど、それを周囲に流されて当然と受け止めてしまうか理不尽と感じて抗うかは、あくまでも人間性の問題であってだな、自分の言っている事が、法に背くことを容認しているとわからないほどのバカなのか? Kさんも、
「私はMさんが最近面接にばっか行ってるから、『もう金曜で出てこなくていいよ』というのは、支社長の気遣いだと思ったんよ」 「そこまで嫌われているとか思ったらあかんで」
とも言っていたが、それはあくまでも今見ている全てが他人事で、しかもこの人らが「上の言うことなら黒でも白に変換する能力」を持っている人間だからこそ可能な解釈な気がする。 まぁ、事前に言われたことでワンクッションは置かれたのだが、そんな「円楽師匠を前にした三遊亭楽太郎」みたいな能力なんぞ欲しくもない私には、
「だから私たちの前でそんな不安そうな顔しないで、見てられないから!」
みたいな感じで言われても、そこまで肉塊に気を遣う義理はない。 一応、言われるままに引き継ぎはしてマニュアルは残した。 もっとも私でさえまる3日で前任者から引き継いでも、半年間素人同然でひーひーだったのに、あんな数時間の付け焼き刃な引き継ぎじゃ絶対わからんだろーけども、私は来週以降の事は一切知らぬ。 これ以上、この人達に情けをかけるこたない。 構成人数の少ない社会では、偉いヤツの一言で黒も白で罷り通り、黒を黒と言い張るヤツは異物として葬り去ろうとする。その中で我が身可愛さとグレーゾーンが暴かれる事の恐怖、ひたすら良心の呵責から目を背けて不幸の降りかかる他人を見殺しにし、わかっていても黙認する。 恐ろしく閉鎖的な社会がそこにある。 獄門島だね。犬神家だね。横溝正史もびっくりですさ。 かたや私は、この会社に売ったのは時間と労働力だけであり、人間の魂まで捨てた覚えはないもんな。そんな青臭い私とこの大人な会社じゃ、やっぱり最初から合わなかったって事なんだから、破綻したって仕方のない事だったんだな。
でも、得たものはたくさんあった。 私はこの会社に行ったお陰で、窮屈で退屈で、本当に金を稼ぐためだけに行っていた前の会社を出ることが出来た。自分の至らなさをたくさん勉強できた。向いていない仕事がはっきり分かった。 生きているうちに本当にしたい事は何なのか、死ぬほど考えて結論を出す機会も貰えた。 逃げがもう通用しない事も知った。 今日まで、半年間懸命に仕事してきたのが拒絶された気がしたり、「それは違うんじゃないのか」とか思っている自分一人が、何だか取り残されている気がしてただただ悲しかったが、それは違う。 今日(上司が何も言わないので)、見切り発車で退職の旨を私が告げると、67歳のおっさんはぽつりとこう言った。 「何で君が辞めなければならないんだ?」 「俺はこの席で毎日君を見てきた。君は何も悪くないし一生懸命やっていた。企業は人を育てるものだろう?それなのにこの会社は、何故そんな理由で簡単に君の首を切るんだ?」 「だって君を育てる努力をここの会社は何もしていない、あの支社長は君に何もしていなかったじゃないか?引き継ぎだって3日しかなかった君に、何か教えたり注意をしたりしたか?」 「落ち込む前に、この新聞の切り抜きを見て欲しい。そこに書いてある通り、『仕事とはその人間の人生が一番輝ける舞台で、素晴らしいもの』なんだよ」
この修羅場の3週間で一番泣いたわよ!!ああ、びよっとぶわっと泣いたとも!!
○○さん(名前)、ありがとうございます。 ひとえにあなたのお陰で胸を張ってこの職場を去り、自信を持って次の仕事が出来ます。 私ダメじゃない、やっぱ全然ダメじゃない。 頑張っても結果としてはダメな時もあるけど、ちゃんと見てくれる人が必ずどこかにいて、自分と同じ疑問を持ってくれる人はちゃんといる。 何となく働いてはいけない。 生きることに手を抜いてはいけない。 それがわかったから、これまで通り引き続き、全能力を賭けて自分の人生を切り開き始めます。
という事で、広告会社の事務OL生活、明日で最後です。 出来るだけ綺麗に、忘れ物もせず去ろうと思います。
|