あふりかくじらノート
あふりかくじら



 造り酒屋だった。

京都で桜を待っていたのだけれど、
田舎の祖母が亡くなったとのことで
久方ぶりに父方の田舎に戻る。

徳島の山奥にある古い元造り酒屋は、
その蔵とか母屋とか古い道具やらを
すべて手放すことになるのだろう。

子どものころから転勤族だったせいで、
親戚づきあいに慣れていない。
それでよかったと思っている。
これで、また少し縁遠くなる。
こちらも三十路近くなったというのに、
あら大きくなったわねぇ、と言われる。

永い一週間だった。
祖母と二人で、あの古い家で過ごした
夜のことを思い出す。

また、京都に舞い戻って桜を迎えた。

2004年03月31日(水)



 旅先のとんぼ玉。

京都に来ている。
アフリカの、親指ピアノを聴くためだ。

本日京都初日。
たまたま写真がうつくしいからと購入した雑誌に、
今日は東寺で「弘法さん」と呼ばれる縁日市が
おこなわれているということで
足を向けた。

たくさんたくさん観るものがある。
骨董とか古着物とか、陶器。たくさんたくさん。

そのなかで、わたしはとんぼ玉に見せられた。
大粒で、直径3センチほどもある。
グラデーションが買った円筒形に
細いラインで上品な模様がきちんと描きこまれている。
ふたつとして同じものはない。
雲の切れ間の陽が射すなか、
たくさんていねいに並べられていた。

ちょっと割高なので、買うことはできなかったけれど、
じっと見つめてたら満たされてしまった。

色とりどり。
きらり。

2004年03月22日(月)



 くじらの目的とは何か。

通訳者であり、環境ジャーナリストである枝廣淳子さんの
著書やメールニュースなどに目を通していくうちに、
自分の頭の中がきれいに整理されてきた感覚を覚えた。

「バックキャスティング」とは彼女の言葉であって、
それはたとえば、目標や理想などの大きなゴールがあり、
そこからその場所へたどり着くまでのいくつかの
要素や手段に分解していき、さらに各要素を
実現する方法を考えていくというやり方である。

これは「旗」の話に似ている。
高校生のころ、お世話になっていたある先生が
わたしに話し聞かせてくれ、わたしは以来そのことを
ずっと心にとどめていた、というものである。

まず、遠くに「大きな旗」をたてる。
そして、そこへたどり着くまでに、「小さな旗」を
いくつもたてるということである。
マラソンで、次の電柱まで、と自分を励ましながら
走るというやり方に似ている。

自分でわかっていたことを、完璧に体得しているのか
どうかはわからないけれども、目的と手段とを
明確に理解していくということは大事なのだろう。

手段が目的化してしまわないように。

2004年03月20日(土)



 本格小説読後感。

水村美苗は、この物語を書くべくしてそれを天から授かった
ということを、強く感じさせる物語である。
前編に撒き散らされたかけらたちは、後編に進むごとに
ひとつずつ寄り合わされ、そして人生の永い時の流れ深みに
読者を引き込んでいくような作品だ。
読んだあと読者は、フミコの人生を生きてしまった感覚を
どこかでおぼえてしまうだろう。

水村美苗、この物語に人生を取り込まれており、
日本と米国との境で生きている人間であるから、
これは彼女の筆をもってしてのみ世に生み出せる
ものであっただろう。

流れるような日本語はとろりとして濃く、
饐えたような空気が匂い立つ文章の中で、
東太郎の絶望的な孤独と強烈な引力から逃れられなくなる。
見たことがあるはずもない東太郎のまなざしが、
脳裏に焼きついて離れそうにない。

これは、夜通し読み聴かせてもらう、明け方の物語である。
そして読者はまた、誰かに読み聴かせなくてはならない、
かもしれない。

***

水村美苗 著『本格小説』(上・下)新潮社

…覚悟してください。




2004年03月18日(木)



 陽がこぼれる、風が吹く。

強い風が吹く。
街が夕暮れていく。

もうすっかり春の陽気の割合が高くて
桜色のほころびる季節となっていることに気づく。

この地球上で生きている生命体は
この地球上の一部であり、
循環する大自然のサイクルの中で
生を営んでいる。

だから、風にはかなわない。
風にはさからわない。

世界が狂ってしまわないように。
ひずみが、おおきくならないように。
揺らがないように。

2004年03月17日(水)



 南アフリカの十年。

アパルトヘイトが終焉し、南アフリカの民主化から
十年の月日が流れた。

作家ベッシー・ヘッドがみることのできなかった
南アフリカの十年は、過去の傷跡はぬぐいきれなくとも、
深い意味をもったであろう。
世界で唯一人種隔離政策を施行した国は、
そして気候の良い、うつくしい国でもある。

人種差別の根は、ここ日本でも存在しうるということを
忘れてはならない。
世界のどこかの国でおきた哀しい出来事も、
他人事のように感じている場合ではない。

たくさんの血が流された、二十世紀を。

そしてひとり、お世話になったあの方が
南アフリカに帰国されるのでした。
南アフリカに、帰られるのでした。

わたしは、わたしが生まれたこの国に残るのでした。
わたしとして、書かねばならないことがあるからでも
あるわけなのです。

2004年03月12日(金)



 あるミュージシャンの旋律。

そのひとは、とてもやさしい表情をしていた。
身体からやさしさがあふれ出ていて
やわらかいムビラ<親指ピアノ>の音色が
とてもよく似合っていた。

なんてきれいな心の持ち主なんだろう。

彼の人生のなかで
哀しいことやつらいことが たくさんあったぶん
音楽はうつくしくすきとおり
とてもやさしく明るく照らしてくれる。
だれかの心に とどいてくれる。

そのひとは、ほんとうに
うつくしい生を歩んでいる。

ジンバブエの空のしたで
いつかまた
彼のムビラに耳を傾けたい。

ゆうべは、そんな夜だった。

2004年03月07日(日)



 ぜいたくな車窓を。

わたしはこの風景をひとりでながめているのです。
あまりにもったいなくて、好きなひとにメールしてしまうくらい。

金色の夕焼け。蒼のせまる空。くすんだブルーと淡いピンクのグラデーション。
夜があとほんの少しで降りてくる刹那の地球。その、雲のうつくしさ。
ほら、はやくみてちょうだい。
いま、わたしと同じ地球に生きている、たくさんのたいせつなひとたち。

この贅を、分かち合わん。

(車窓より、深いうつくしい色をした東京湾をながめながら)

2004年03月06日(土)



 あふりかくじら的『私小説』

読み進んで行くにつれ、こんなにずっと継続して、
ある種、潜在的な意識レベルに内在していたものについて、
ぐんぐんと引き上げられるような感覚を
おぼえる本というのははじめてかもしれない。

こんなに苦しく、こんなに快感を覚え、
胸の底の方にたまっていたものを
突き刺した針の穴からすぅっと抜き出していく。
子どもみたいに、無力さに泣き出しそうになる。

水村美苗は12歳のときにアメリカに渡る。
以来、20年の時をアメリカで過ごしてしまった
精神性を語る。

わたしも、11歳でアメリカに渡った。
3年経たないうちに帰国することになってしまったけれど
あのとき感じたこと、太平洋の広さに打ちのめされたこと、
英語という言語、日本語という言語、
日本人という存在、アメリカという国、
地球という星にすむ人々の不平等。
それらを、わたしはずっとずっと、
胸に抱えて生きてきた。
今ここで、この本にすくい取ってもらうまで、
それらはあまりにも重たかった。

だからわたしも、やっと書きたいと思う。
16年経った今。

アラスカに暮らしたこと。
「くじら」の原点を。

**********もういちど****

水村美苗 著『私小説』新潮文庫


2004年03月05日(金)



 ごく小さな世界に。

ごくごく小さな世界に生きるくじら。
わたしは、
わたし自身の人生をいきることに精一杯で、
もしかしたらそうやって生きているひとが
ほとんどなのかも、などと期待を抱きつつ
私小説を読みふける。

魂をかけて愛してみたいけれども、
それはこんな小さなくじらさんにとっては
無理なご相談なのです。

ただ、大好きなひとを大好きと思う
そういう幸せのことだけ考えて
それからわたしは
わたしを何とかしなくちゃいけない。
食わせなくちゃいけない。

自分の中にあるたいせつなもの
たくさんのものをはきだして
テーブルの上にことばとしてならべて
ながめてみたい。

*****ところで

・読みふける私小説
 →水村美苗 著『私小説』新潮文庫

・月刊『アフリカ』に拙稿掲載


2004年03月03日(水)



 そぎ落とし、いまを見つめ。

パンクしそうなので
ひとりになることを怖がらずに
ひとつひとつ並べてみて
考えてみると
すごくシンプルな生き方が残った。

わたしはとりあえず、
自分の人生をおとなしく生きよう。
ひとつだけ、ひとつずつ
追い求めてみよう。

そうしたら、ずいぶん余裕が出るもの。
そして、わたしの人生にも
やっぱり限りはあるのだから
いまの瞬間を大切にするという
そういうあたりまえのこと。

ひんやりとして、みぞれが降ってた。

2004年03月01日(月)
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