あふりかくじらノート
あふりかくじら



 芝生のにおい。空をすべるくじら。

表通りは、あふれんばかりの幸福な笑顔の観光客でとてもにぎやかで、
それでも大学の中は、すこしだけ静かな陽射しに満ち溢れている。

土曜日。

青い空とそんな緩やかなときの流れのなかで、思考が浮遊するとき
大学のなか、静かにしずかに、フラットメイトに会った。

あした、ぎりしゃに、かえるって。

5年もこの街にいて、すっかり倦んでいて、ただただ
精神的な重圧が…論文、論文、論文。
「自分は何故ここにきたのか。」
彼女はしずかに微笑んだ。
じぶんには、できなかった。もう、この街を去るから。

もう、この街を去るから。

サンドイッチを買って、すこし歩いて、
とても広い芝生の上で食べた。彼女と一緒に、食べた。
まるで、わたしたちもたくさんのひとたちと同じくらい
幸福なふりをして。

それは、とびきりおいしいサンドイッチだった。

寝転がって、芝生のにおいが空をすうっとすべる
自分の身体にまとわりついた。

…ただ、それだけのこと。それだけの。

きょうは、土曜日。

2001年05月13日(日)



 懐かしさの狭間、エディンバラの追憶。

天気の良い午後、いつもの石畳の通りを歩く。
いつもの教会、いつもの陽射しが降り注ぐ。
みなれた店、パブの扉。

わたしは、この街を懐かしく思う。
スデニ、ナツカシサノハザマ。

初めてここにたどり着いた日。
大学院にいきはじめて、睡眠時間を削りながら
課題を読んだ日々。

ひとつところに、トドマレナイ。

あの瞬間のわたしから、今のわたしはもう
ずいぶん遠いところに来ていて、街では
知っている顔とすれ違う。

もう、すっかりこの街に慣れてしまった。
その石畳、ときの流れ、古い記憶、旅人たち、
城、大聖堂、酸素、陽射し、酵母のにおい、
日に焼けたパブの看板、バグパイプ…。

わたしがひとつところに存在する意味とは何か。
わたしの感覚のなかでの土地の変貌とは何か。

エディンバラという街を、わたしはとても好きだ。
だから、この街にいながらにして、すでに懐かしい。

そう感じたとき、ここを去る日のことがみえてきた。

もう、ここへきて8ヶ月になる。
それは、わたしのなかで、ある意味悠久の時間。

いつかは、去らなくてはならない。
ひとりで。
…ひとりで。


2001年05月10日(木)



 春先のくじらは旅にでる。

「アカデミックな意味で、わたしは真剣です。」

ベッシーヘッドと自分を重ねることへの恐怖。
真剣に、「アカデミック」をアートしようとする。

極限に近いような精神的集中の時期。
(ようするにエッセイの締め切り連続中なのだが。)

わたしは、文章を書くのです。
もっともっと丁寧に書きたいと切に願う。
もっともっと、一生懸命だれかにこころを伝えたい。

だから、時間もかかる。
脳が、重い。


エディンバラは、とんでもなく良い天気だ。
旅人が、街に溢れる。
わたしの意識は、否応無しに青い空に抜けてゆく。

くじら、浮遊。


わたしの、たいせつなたくさんのひとたちへ。
…ようするに、メール書かなくてごめんなさい。

2001年05月07日(月)
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