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2005年05月03日(火)
  竹島問題と出雲神話 <画像あり>

 竹島に関わる日韓間の問題は恐らく根深いもので、そう簡単に解決を見るものではないでしょうが、今回はそれを批判するでもなく、どちらの領土だと主張するワケでもなく、「何で島根県は『竹島の日』なんてものを制定するほどこの問題に執着するんだろう」という疑問について考えてみたいと思います。
 ・・・なーんてカタイことをのっけから言ってしまいましたが、出雲に行って感じた単なる思いつきです。

 何処の国にも、というよりはどの民族にも「神話」というものがあります。日本ならば、「古事記」や「日本書紀」(以下「記紀」)に記された「天岩戸」の話とか「八岐大蛇」の話とかが有名ですね。
 出雲には「出雲国風土記」というものが残っています。「風土記」は奈良時代に天皇の詔によって各国で編纂された地誌で、現存する物は出雲・常陸・播磨・豊後・肥前の5つ。うち、完本は出雲だけです。完成は天平時代・733年のことだとか。
 「風土記」にはその国の土地の名前の由来、地味地形などの他、土地の伝承も記されています。
 「記紀」には「出雲神話」という分類で括られる神話群があります。前述の「八岐大蛇」の話もそう、因幡の白ウサギもそう、大国主の国譲りの神話もそう。天津神から国津神への「国譲り」が行われた舞台とされているから、「記紀」での記述も多いんですね。
 でも「出雲国風土記」には、「記紀」にはない神話も数多く語られます(逆に「記紀」にはあっても「風土記」にはない神話も)。その中で有名なものに、「国引き神話」があります。
 その神話の舞台となった出雲・長浜の長濱神社パンフレットに記された口語訳概要を更に要約・意訳(やや乱暴)すると、次のような感じです。

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 八束水臣津野命(やつかみづおみつぬのみこと)は「出雲の国は細長い布切れのようだ。最初に小さく作りすぎてしまった。だから作り足して大きくしよう」と言われ、国引きを決意された。
 眺めてみると新羅の岬に余った土地があると見付けられ、その土地を半島からぶった切って綱を縛り付けて「国来い」「国来い」と引き寄せて元の国に縫い合わせた。
 こうして出来た土地は、島根半島の小津の切れ目から西へ広がる杵築の岬の一帯です。
 この土地を繋ぎ止めるために立てた杭が出雲・石見国境の三瓶山、引いた時の綱は薗の長濱です。
 次に北方の佐伎の国の余りを国引きし、北方の良波の国の余りを国引きし、更に北陸地方の珠洲の岬の余りを国引きしました。引いた時の綱は夜見の島、杭は伯耆の国にある大山です。
 そうして「今国引きを終えた」と仰せられて、意宇の森に杖を突き立てられて「おゑ」と仰有られました。
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 実に乱暴な神話です(笑)。国を狭く作りすぎたからと言って、勝手に「あそこが余ってる」って余所の土地を引っ張って持って来ちゃうなんて。

 でも、島根の方々はこの「国引き神話」に並々ならぬ思いがあるようです。

 試しに「くにびき」でググってみましょう。
   ・くにびきメッセ(島根県立産業交流会館)/財団法人くにびきメッセ
   ・JAくにびき
   ・サンフレッチェくにびきFC(出雲で活動しているサンフレッチェ広島の下部組織)
   ・国民宿舎 くにびき荘
   ・くにびき国体
   ・くにびきマラソン大会
   ・中国JRバス「くにびき号」
   ・JR特急「スーパーくにびき」
   ・くにびき奨学金
 その他、くにびき海岸、くにびき展望台、くにびきバス停etc. etc.・・・。日本語ページで引っかかった件数、約22,200件。ちなみに出雲では、でかい島に綱を掛けてそれを引っ張る神様の絵や銅像みたいなのを結構見かけました。


ちなみにこれは、長濱神社のパンフに載ってる絵。

 ・・・私の言いたいこと、判るでしょうか。

 多分、国引き神話は島根では物凄くメジャーな話なんでしょう。でなければ、上記のような施設名や団体名などに「くにびき」の語がこれほど多く使われるはずがありません。同様に、県民の思い入れも(それなりに)強いはず。

 正史(記紀)には記されていない出雲の神話。自分たちの祖先は、新羅の土地をも引っ張ってきて我が国土とした。
 にも関わらず、自分たちが竹島なんて小さな島ひとつ守れないのは情けなくないか? あの島だって、先祖が引っ張ってきた土地の一部だったりしないか? それをまた向こうに奪われていいのか?

 こんな心理に至ることが出来るのは、国引き神話に親しんで育った島根県民ならではでしょう。だから島根県民でも何でもない私たちには「竹島の日」なんてものを県議会が制定するという事態が何だって起こるのか理解出来ないのです。

 ・・・と考えるのは、見当外れですかねぇ。

 別に私は「だから島根県議会が竹島の日を制定してもしょうがないよね」とかそんなことを思う訳ではありません。ただ「何でそんなモン制定したんだろう?」という自分の疑問に、現地(島根)に赴いたことで何とな〜く答えが見えたような気がしただけです。
 勿論、漁業とか水産業の面での問題があることも承知しています。純粋に、竹島が日本の領土としては島根県隠岐郡隠岐の島町に属することになるから、というのもあるでしょう。
 でも、この「くにびき」神話(まさに「神話」!)を目の当たりにして、それだけじゃない気がしたんですよ。

 ちなみに、島根県総務課のホームページの標語は「かえれ!竹島」だそうです。御丁寧にハングル版のページも用意されています。一通り目を通しましたが、私には竹島がどっちの領土かなんてことは判断しかねます。この日記の内容にも、政治的意図は一切ありません。そっち方面には疎いもので。


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・過去の「今日」。


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