無責任賛歌
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2007年08月12日(日) |
妖怪マンガ家のもう一つの真実/『鬼太郎が見た玉砕 〜水木しげるの戦争〜』 |
NHKスペシャル・ドラマ『鬼太郎が見た玉砕 〜水木しげるの戦争〜』を見る。 原作は数ある水木しげる戦記マンガの中でも、最も自伝的要素が強い『総員玉砕せよ!』。 昔、『ゲゲゲの鬼太郎』に比べて、水木さんの戦記マンガは「ちっとも売れない」ということで、作者ご自身もボヤいておられたように記憶する。 しかし、『鬼太郎』ほかの妖怪ものにもまた水木サンの戦争体験は深く影を落としているのであって、水木しげるという特異なマンガ家の全貌を知ろうと思えば、これらの作品群に目を通さないわけにはいかない。そこに描かれている真実は、「銃後」には想像の付かない、現実に戦闘が行なわれている場での狂気である。映画『硫黄島からの手紙』に違和感を感じたのは、リアルだと言われたあの映画ですら、水木さんの体験に比べれば、どこか「きれいごと」に見えてしまったからでもあった。
水木さんの伝記ドラマが映像化されるのは、少年時代を描いた『のんのんばあとオレ』を除けばこれが初めてだろう。『鬼太郎』のアニメに水木さんが登場する時にはしばしば水木さんの失われた「左手」が描かれており、なんだこの差別的な「改悪」は、と憤ったものだったが、今回、水木さんは戦後、片腕を失った姿で登場する。そして「片手をなくしたからって、不自由なことがあるもんですか。両手があったころの方が地獄でしたよ」と述懐する。演じているのは香川照之だが、これは水木さん本人の本音だろう。その点、今回のドラマ化は原作の精神に対して実に真摯に取り組んでいると言える。
しかし、水木さんご本人が強烈なキャラクターだけに、いかに香川さんが熱演しようとも、どこかモノマネっぽくなってしまっている印象がするのは否めない。これが舞台公演などなら回数を重ねるうちに「ひなれて」いくのだろうが、一発勝負のテレビドラマでは、もう一息足りない。
それに、何と言っても放送時間が1時間半というのは、どうにも短い。 現代編(昭和47年)の部分もかなりあるだけに、原作の『総員玉砕せよ!』に当たる部分が、事実を追っていくだけのダイジェスト版に見えてしまうのである。この「ラバウル編」、現地ロケもかなりしたのだろうが、現実にジャングルの川を下り、泥にまみれ、役者のみなさんが熱演を見せているだけに、もう少しのところで「迫真」にまでは至らなかったことが残念でならない。 もっと長尺を取って、兵士たちの疲労、絶望、無念、恨みが匂ってくるくらいに一つ一つのシーンの密度を高めて行くことができなかったものだろうか。
水木さんは、「『総員玉砕せよ!』は90%事実。戦記ものを書くと、わけのわからない怒りが込み上げてきて仕方ない。戦死者の霊がそうさせるのではないか」と語っている。そして自分のことを示す一人称に「水木さん」という表現を使う。 そのことを踏まえてか、「現代編」では実際に「戦友たちの霊」が現れ、水木さんに変身して料亭に出没したりして、水木さんに迷惑をかけるのである。それは「水木さんに自分たちの無念をマンガにして描いてほしかったから」と言うのだが、わざわざこんなファンタジーな設定にする必要があったのかどうか。「死者は語ることが出来ない」からこそ、水木さんは戦記マンガを描いていったのではないか。 こういうのを「過剰演出」と言うのである。 さらには、鬼太郎や目玉親父、ねずみ男がマンガから飛び出してきて、解説をするのも『のんのんばあとオレ』でもやっていた演出ではあるが、いささかやりすぎである。細かいことを言えば、映像では水木さんはこの時に『鬼太郎の世界おばけ旅行』を描いていることになっているが、これは昭和51年の作品であるから、昭和47年では時代が合わない。マニアはこういう細かいところも見てるからね。 声優がアニメ第一・第二シリーズの野沢雅子(鬼太郎)と大塚周夫(ねずみ男)に戻っていたのは嬉しかったが、野沢さんの声が明らかに「老いて」いて、哀しくも感じた。
しかし、イデオロギーでネジ曲げられた『はだしのゲン』に比べたら、こちらの方が何倍も出来がいいのは確かなのである。香川さんも『キネ旬』連載の『日本魅録』で二回に渡って宣伝していたが、それでもさして世評に上らなかったようなのは哀しい。
『大江戸ロケット』拾九撥目 「とち狂って候」。 隅のご隠居さんの正体が明かされる……って、もうバレてましたね。 銀さんが鳥居耀蔵の配下だったというのも清吉たちに露見するのだけれども、まあキャラクター設定からしても別にこのまま悪役で終わるはずはないので、そんなに切迫感があるわけでもない。 放送開始当初はかなり型破りというイメージがあったのだけれども、ラストが近いにもかかわらずなんだかおとなしい感じなっちゃってる気が。 原作がそもそもアレな出来なんだから、演出でもっと見せてくれないとね。
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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