無責任賛歌
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2007年01月03日(水) |
アクシデンタル・カメラマン/舞台『戸惑いの日曜日』/『もやしもん』4巻(石川雅之)/『月蝕領映画館』(中井英夫) |
今日もしげ。はパソコンと悪戦苦闘。 こりゃ、買い物も映画も、週末までは無理だなーと、またまた今日もテレビとDVDの寝正月。
見ている最中に眠くなるので、なかなか全部見通せなかったラーメンズBOX『椿』『鯨』『零の箱式』『雀』を見る。初期ラーメンズ、今見ると決して面白いアイデアばかりではない。演技も硬くて今ひとつ。 けれども客はたいして面白くもないギャグに笑っている。これでよくこの二人、思い上がって潰れなかったものだ。 昨年の『ALICE』がかなり面白かっただけに、その軌跡を後追いしてみたのだが、役者が上手くなっていく過程を辿れたという意味では、高い買い物ではなかったと思える。
時代劇専門チャンネルで、映画『大奥』の初日舞台挨拶の再放送。 去年の12月23日に放送されたものだ。
絵島(江島)事件についてのウンチクでもあるかなと期待して見てみたが、話は殆ど出演者へのインタビューだった。そりゃそうか。 絵島事件については、おおざっぱなことしか知らないので、この機会にいくつか本を漁ってみたのだが、史実はただの情痴事件で、当然、映画や舞台のような近代的な純愛話ではない。大奥内での権力争い、老中側用人も絡んだ陰謀事件のように描かれることも多いが、それにしちゃ史実の絵島の放埓ぶりがあまりにうかつ過ぎるので、どうかな、という気がするのである。
映画が史実に依拠しないのは仕方がない。現代人の感覚からすれば、そのまんま映像化するには人間関係が奔放に過ぎる。けれどまあ、大奥に入って総支配まで勤める女が実は処女というのはいくら何でもムリがありすぎで、もしかして今時のオタク向けの萌え要素まで狙ったのかと、穿った見方もしたくなる。
仲間由紀恵がインタビューに答えて「純粋な人としてみなさんの中に入っていけばいいんだなと思いました」と答えていたが、それをさほど違和感なく、堂々と演じられているという意味では彼女は貴重な清純派なのである。つか、ここまで来たら、もう一生、清純派で行くしかないんじゃないか。 若手の女優さんで、こういう「一生清純派」で行きそうなのは、あとはやはり長澤まさみくらいしかいないので、マジメに注目しちゃいるのである。
WOWOWで、舞台『アパッチ砦の攻防より「戸惑いの日曜日」』。
作・三谷幸喜 演出・佐藤B作 出演 佐藤B作/あめくみちこ/細川ふみえ/中澤裕子/小島慶四郎/西郷輝彦/角間進/佐渡稔/市川勇/小林十市/山本ふじこ/小林美江/市瀬理都子/斉藤レイ
§ストーリー§ 舞台は高級マンション「フォートネス・アパッチ301号」。 ここは4日間前まで、鏑木研四郎(佐藤B作)が住んでいたが、借金まみれのため手放していた。 しかし、娘のちよみ(中澤裕子)から、婚約者の堤君(小林十市)を紹介したいと言われ、情けない姿みせたくない彼は、ちょっとだけ部屋を借りることにする。 現在の持ち主、鴨田巌(西郷輝彦)の奥さん(細川ふみえ)が、たまたま電気屋(小島慶四郎)に配線を依頼しているのを見て、その電気屋になりすまして、侵入。まんまと娘のちよみをだます。あとは婚約者の堤君をだませればだいじょうぶ。 ところが、ちよみが堤君を迎えに行っている間に、本当の住人である鴨田がやって来てしまう。さらにちよみが、鏑木の離婚した前妻(あめくみちこ)やら、堤君の両親(角間進・市瀬理都子)までマンションに呼んでしまい、大パニック。その上、本当の電気屋に、鴨田の妻の浮気相手の不動産屋(佐渡稔)、鏑木の現同棲相手のビビアン(小林美江)までやってきて、ひっちゃかめっちゃか。 絶体絶命、どうする、鏑木研四郎!?
……という基本ストーリーは、初演時から変わらず。 初演はナマで見ているので、当時のパンフレットも持っているのだけれども、もともとこの芝居、『みんなのいえ』の原型脚本だったのである。 それがうまくまとまらずに、わずか一週間で全面書きなおし、公演三日前にようやく脚本が完成したという曰くつきの「やっつけ芝居」なのだ。 にもかかわらずここまでの完成度、と誉めることもできなくはないが、やはり他の三谷作品に比べると、無理が生じていたり納得が行かない部分も多々あったのが初演版だった。
それが、このタイトルも変えた再々演版、それらの不満がかなり改善されているのである。 鏑木がマンションに居残ろうとするムリはどうしようもない。それがなければこのコメディ自体が成立しないから。 けれども、鏑木=の佐藤B作のいい加減さがキャラクターとしてより強調されることで、「それくらいあほなことをこいつなら仕出かしそうだ」というリアリティが増している。 そして、初演版では娘たちは鏑木に騙されっぱなしだったのが、最後に全ての真相を鏑木が告白する形に変更されている。ここが私も初演版で一番引っかかっていたことで、「いずれバレることじゃん、始末が付いてない」と腑に落ちない点であった。 カタルシスの点で言っても、今回の結末の方が順当で、三谷さんも昔に比べて「大人になった」ということなのだろう。 新登場のビビアンのキャラクターも、出るべくしてようやく出た、という印象だ。オチはこうなるだろうなと見えてしまうけれども、そこはご愛敬。鴨田の役も、これまでの石井愃一、伊東四朗両氏には申し訳ないが、若妻にかまってやらない傲慢さでは、西郷輝彦が一番似合っている。
正直、三谷幸喜は最近、レベルが落ちてきていたので、新作にあまり期待はしなくなっていたのだが、こういう「改作の上手さ」を見る限り、まだまだやるな、と認識を改める必要があると思えるのである。 ああ、また買わなきゃならないDVDが増えちまった。
夜になって、またまた志免炭鉱竪坑櫓まで出向く。 と言っても今度はただの見物ではなくて、イッセー尾形ワークショップ仲間と一緒に製作中の自主映画の撮影のためだ。 私は探偵の役で、あちこちを徘徊するという設定。もっとも撮影するのは私の後ろ姿とか手元とかシルエットだけで、顔は映さない。探偵には顔がないのである(笑)。
で、ライトアップされたここ志免炭鉱にもやってきているのだが、なんでやってきているのかは演じている私にも分からない(笑)。 脚本なし、イメージ優先のかなり適当な作りの自主映画なので、どんなものになるのかは監督の私にも予測はつかないのである。 てゆーか、先読みのできる映画はつまんないなー、と思ってつくっているので、これでいいのである。
予測不可能というのは実際に予測不可能が起きることで、櫓の回りを歩いているところをしげ。に撮影させている最中にアクシデントは起きた。
櫓のわきに7、8メートルほどの高さのボタ山がある。その上に登って、櫓を見上げているカットを撮ってもらおうと思って、私は先に駆け登った。勾配は急なところだと40度ほどはある。勾配というよりは崖に近い。 中年とは言え、私も体力がなくなっているわけではないから、助走をつけてそこを一気に駆け登った。その後、下にいるしげ。に向かって、もっと緩い勾配の方を指差して、そちらから回ってくるように言った。
ところがしげ。は、何を勘違いしたのか、私のあとを、カメラを持ったまま走って追ってきたのだ。 私より若くても、しげ。の持続力は私以下である。それでも数メートル程度の高さの山なら、しげ。の脚力でも充分に登り切れたろう。脚力がなくても足場がよければ何とかなったかもしれない。 しかし、敵はボタ山である。雨が降ってなくても足場は何となくぬるい。しげ。はあと数メートルというところで崖に足を取られて腹ばいになった。そしてそのままズルズルと落ち、山の途中で引っかかってしまった。
「助けてー」 情けない声が聞こえる。 「あっちへ回れって言ったのに、なんで言うこと聞かないんだよ」 「だって見えなかったんだもん」 かと言って、今見えてる目の前の崖が登れそうかどうか、判断くらいしてほしいものだが。 まるでマンガかCMのように、私が手を伸ばして引き上げてやったのだが、撮った映像はあとで見ると、テレビのドッキリ映像のように、目算を失ったカメラがあえなく夜空を写していたのだった。 さてこのカット、状況によっては使えるだろうか。
ボタ山の上に登りきったところで、いざ撮影再開、と思ったところに、向こうから子供が登ってきた。 こんな夜に近所の子供だろうかと声をかけてみると、「パトロールにお父さんと来ています」と言う。 さてはさっきのしげ。の「助けてー」の声を聞き付けてきたらしい。 とんだゲスト出演者が現れてしまったが、ことによるとこの子との会話も映画のブリッジにそのまま使えるだろうかと考える。 探偵は一人、というつもりだったが、カメラマンが随伴、という設定にしてもいいかもしれない。
晩飯は「庄屋」でマクロビ膳。 私はよく知らなかったのだが、マクロビってのはマクロビオテックの略で、穀類や野菜を中心とした食事のことを指すらしい。中身は玄米ご飯にけんちん汁、湯葉に山菜といったもの。以前も同じメニューがあったけれど、そのときは確か「湯葉御膳」とか何とか言う単純な名称だったと思う。 要するに日本の伝統料理なのだが、こんなふうに新しい言葉で紹介されるとなんだか新発見っぽく聞こえるっていうんで、メニューを一新したのだろう。 味は悪くないが、980円という値段はちょっと高い。流行ものは高く売ろうって腹か。でもおかずの量もたいしたことないし、せめて780円くらいで商売してほしいものだと真剣に思う。
マンガ『もやしもん』4巻(石川雅之)。
限定版は悩んだ末、買わず。フィギュア付き買うと小うるさいやつが近くにいるもんで。 でもどこの店でも完売なようで、好きなマンガが人気呼んでるのを見ると嬉しい。『のだめ』人気もいささか作用してるかもしれないが(二ノ宮さんがホントに作画協力してるよ)。
主人公が影薄いとか言われているけれども、キャラクターはちゃんと立ってるからいいの。 あの、「菌が見える」能力について、誇るでもなく嫌がりすぎもしないところが、イヤミじゃなくていいんだからさ。 特に今巻は、魔女っ子ものにはつきものの「魔法が使えなくなっちゃった!どうしよう!」という展開で(いや、『もやしもん』は魔女っ子ものじゃないけどな)、しかもそれがやはり『もやしもん』らしく、意外な原因と、恋愛ドラマになりそうなならないような微妙で絶妙なバランスのなだらかな盛り上がりとで、まったりと魅せてくれるのだ。
……まあ、こう遠回しに書いてても何のことやら未読の方にはよく分からないだろうけれど、ネットとかで内容を調べる前にやっぱりゲンブツを手に取って読んでもらいたいのである。 農学的なウンチクが好きな方には、樹教授のお話をどうぞ。今回の題目は「ウンコから火薬を作る話」。『もやしもん』は教養マンガでもあるのです(笑)。
『中井英夫全集12「月蝕領映画館」』(創元ライブラリ)。
『虚無への供物』はミステリファンにとっては「これを読まずしてミステリファンを名乗るな」的なバイブルであるが、その人が大の映画ファンであったということは非常に嬉しいことである。 と同時に、中井氏の映画エッセイが、この一冊しか残されていないことに無念もまた覚える。どうしようもない駄文で各種雑誌の紙面を汚しているプロもどきは腐るほどいるからだ。
鈴木清順の『陽炎座』を評するのに、原作となった泉鏡花の短編が、公表されている『陽炎座』『春昼』『春昼後刻』のほかに『酸漿(ほおずき)』も含まれているだろう、と指摘しているのはまさに慧眼で、ただの感想ならばいざ知らず、映画「批評」にはこのような教養が絶対に必要になるのである。 清順監督からは、中井氏に「何かシナリオ書いてよ」との依頼があったそうで、これが実現していたらどんなに心を躍らされたことか、中井脚本による『カポネ大いに泣く』や『ピストルオペラ』が、いや、清順版『虚無への供物』が見られたかもしれないと思うと、氏の早世を悔やむばかりである。
横溝正史原作の『悪霊島』『蔵の中』についての批評などは辛辣で(まあ、あの二作を誉める人間はどうかしているのだが)、前者が清水邦夫脚本・篠田正浩監督という中井氏の知人の作品であるにもかかわらず「どうにもならない」と切って捨てているのが、映画に対する氏の愛情を感じさせて読者としては嬉しいのである。
知人が作ってるからと言って、批評に手加減を加えるエセ批評家はいくらでもいる。こういう文章を読めば、ああ、この人は批評家として信頼できるなあと思える。友達をなくそうが、親類縁者に縁を切られようが、批評家は孤高を貫かなければいけない義務があるのだ。その代わり、いざ自分が映画制作者の立場になろうとすると、スタッフが揃わないということにもなるんだけどね。 映画制作者と批評家とは、二速のわらじが履けない最たるものだと言える。
中井氏の批評は、1982年当時のものであるが、現在読み返してみても決して古びてはいない。それどころか、その先見の明、慧眼に舌を巻くこともしばしばである。 ウォルフガング・ペーターゼン監督の出世作『Uボート』であるが、私は10代のころに見たこの映画をかなり高く評価していたのだが、中井氏は「型どおりの展開で呆れた」「ご都合主義」「筋立てが安直すぎる」とコテンパンである。 当時、私が中井氏のこの批評を読んでいたら、中井氏も映画を見る目がないなどと思い上がったことを考えたかもしれないが、この後のペーターゼン監督の諸作、『ネバーエンディング・ストーリー』から『エアフォース・ワン』や『ポセイドン』に至るまで、ハリウッド規格の安直な映画を量産している状況を鑑みれば、不明だったのは私の方だったと痛感することになっただろう。
意見を同じくする映画については、嬉しくもなる。 ポール・グリモーの『やぶにらみの暴君』を「主人公をただの暴君には描いていない」と賞賛しながら、「後半がつまらない」とダメ出しする。 私が見ているのは改作された『王と鳥』の方だが、実際、私が好きなのも前半なのである。ちょうど先日の日記でこの映画について「後半、主人公が変わる意味が分からない」と書いたばかりだったので、この符合には小躍りしたくなった。
紹介されている映画についていちいちまた私の感想を付け加えていてはキリがない。 印象批評に過ぎると思われる文もないではないが、連載エッセイで紙数が限られている性質上、致し方のない面もあるだろう。 少なくとも、読むに値しない映画評ではない。 惜しむらくは当時の氏が既に病弱であったために、見損なった映画も多々あることである。『エレファントマン』などをどうこきおろしてくれるか、読んでみたかった。
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