無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2005年01月17日(月) 十周年の、祈念の日に/マンガ『ラブやん』(田丸浩史)1巻ほか

 阪神・淡路大震災からちょうど10年。
 職場で、正午に黙祷を捧げるように指令が出る。去年はこういうのをやった記憶がないから、10周年だということでの特別措置なのだろう。次は20年後ということか。毎年やらないと意味がないような気もするが。ゲンバクだってハイセンだって、もう60年も経っちまえば夏が来ても巷で話題にすることは少なくなる。戦後生まれが戦前生まれの人口を上まった、と報道されたことすら遠い昔となり、歴史の記憶の風化はもはや止めようもない。
 それでも阪神・淡路大震災についてどうしても寂しく思いを馳せてしまうのには、理由が二つある。一つは震災で家をなくした人が福岡に引っ越してきて、知り合いになったこと。テレビを通してしか震災を見ていない私にとって、「家は震災でなくなりました」と言った時の彼女の凍りついたような表情が、唯一私が震災の恐怖を肌で感じたように思えた瞬間であった。
 もう一つはちょうど10年前、母が死んだことだ。1995年という年は一年中、世の中に暗いイメージが蔓延していた。あの時の母は、大阪に親戚や友人がいたこともあって、無事を確認するまでかなり心に疲労を感じていたようだ。震災のほかにも、オウム真理教事件が起きたのがこの年だった。ジャイアンツファンの母にとっては原辰徳の引退も大ショックだったろう。そういった出来事の数々が心労となり積もり積もって、母の命を短くしたようにも思う。未来への希望が見えない時代にいきなり行ってしまった母のことを思うと、私は何度も暗澹たる気分にさせられたものだったが、その後の10年の更に暗い歴史を思うと、あのときこの世を去った母はまだ幸せだったのかもしれないとすら感じてしまう。阪神大震災の教訓は、今、新潟中越地震では生かされているのかどうか。
 テレビの特集記事で、「震災はまだ終わっていない」と呟くご老人の姿や、復興はしたものの客足が2割も減ってしまった商店街、再開発された街の陰で未だに空地のままになっている土地などが映し出されている。今はまだあれから10年、災害の爪あとは具体的な形であちこちに残っているし、こういう番組を通してあの時の記憶が反復されてもいる。震災を経験しなかった人々の心にも、震災の後に生まれてきた子供たちにも、何か響くものはあるだろう。しかし、更に10年を経過したらどうなるか。
 10年が経ち、1億の日本人がその時の記憶を忘れ、更に10年の後には、今の記憶もまた忘却の彼方に消えて行く。それは避けられないことではある。しかし、ほんのひと握りの人々が、10年前の、20年前の記憶を一生忘れずに受け継いでいくことも確かだと思う。仮にあの空地に再び建物が建って、100人中99人が、そこがなんの土地だったか忘れてしまうようになったとしても、あとの一人がそこに立って、「ああ、ここはあのときの……」と、過去の幻を見出すことだろう。歴史とは、実はそういう「たった1人」によってのみ、語り継がれていくものなのである。

 しげが「そういえば」と言った。
 「10年前は○○さんとまだ付き合いがあったね(○○さんというのは、例の中傷葉書ばら撒きのホモオタさんのことである)」
 「もう、そんなになるかな」
 「阪神大震災の時、○○さん、『大阪人は行いが悪いから天罰が当たったんだ』と言ってたの思い出したよ」
 「そんなこと言ってたか。……そのころからイカレてたんだなあ」
 言われて私も思い出したが、ホモオタさんは、あちこちで地震、台風などの災害があるたびに「天罰だ」と言い、その災害は「自分が起こした」と嘯いていたのである。他人を恨むあまり、自分を神のように優れた特殊な存在だと思いこむことでしか、精神を保てなくなっていたのだろう。
 先月もホモオタさんは中傷メールをバラ撒いて、何やら注意を受けたような話である。注意だけかい(-_-;)。
 イカレてるだけじゃなくて犯罪スレスレの行為を行っている人間だと会社も承知しているはずなのに、大っぴらに処分することもできずに大事に大事に飼っているんだから、世の中やっぱりどんどん悪くなっているのである。


 マンガ、田丸浩史『ラブやん』1巻。
 しげが古本屋で買って来たので読む。「前々から買おうかどうか迷ってた」そうだが、私も買おうかどうか迷ってたのである。買って正解。こういう下品で下らないだけのマンガは大好きだ。ジャンプ系の人気マンガとかね、ガロ系のゲージツマンガとかね、まあそういうのばかりじゃなくてひたすらアホなだけのマンガというものもないと、マンガの裾野は広がっていかないのよ。ストーリー解説もこんなのなら簡単にできる。
 「キューピットの『ラブやん』は、カズフサくん(恋人ナシ暦25年)の片想いを成就させようとやって来ましたが、彼はオタクでロリでプーだったのでムリでした(てへ)」。
 天使が来るとなりゃあ、ヒロインたるその天使とイチャツクのが常道だろうに、主役をロリにしたところが秀逸。天使に目もくれずに小学生一直線のカズフサくん、まあ今時の風潮考えたら、こんなアブナい主人公いつ打ち切りにあってもおかしかないが(路上でチン○ほっくり出してんじゃねえよ)、マンガなんだから、そのスジの方は目くじら立てないでいただきたいものである。


 『テアトロ』2月号、巻頭の「今月のベストスリー」に、舞台『ピローマン』(出演 高橋克実、山崎一、中山祐一朗、近藤芳正/作 マーティン・マクドナー/演出 長塚圭史)の江原吉博氏による批評が掲載されていて、これがもう手放しの大絶賛である。
 私もしげも先々月に福岡公演を見ていて、「これぞ演劇!」と大感動したのだったが、映画にしろ舞台にしろ、見る人によって評価は変わるものだから、自分たちが見て面白いと思っていても、それが劇評でケチョンケチョンに貶されていると(それが必ずしも的外れなものでなければ)、やはり「自分の見方もまだまだだなあ」としょげてしまうのである。
 逆に、「そう、そこなんだよ!」というところを誉めてあると、これはもう同士を得たようなものである。

〉「作家は、智恵遅れの兄から殺人事件は自分の作品を真似てやったことと告白され、せびるその兄に童話を語って寝かしつけた後、顔に枕を押し付けて窒息死させ、すべての殺人は自分の仕業だと刑事に申し出る。兄が犯人と知ってから作家が兄に聞かせる童話の語り聞かせは客席に染み入るようだ。作家役の高橋克実と知恵遅れの兄を演じる山崎一の意気がぴったりあっている」(原文ママ)

 そうなんだよ、客席に染み入ってたんだよ! と、ひと月半前の記憶が鮮明に蘇える。『ピローマン』は昨年見た演劇のベストワンであり、これまで見た演劇の中でも上位に位置するほどの素晴らしさだった。あまりに感動したために、劇中劇である童話をワープロで打ち直して、職場の若い子たちに「これ読んでよ」とムリヤリ読ませてしまったくらいである(^_^;)。しげなどは、出演者の近藤芳正さんのホームページのBBSに感動の書き込みまでしてしまった。我々の有頂天ぶりがどれくらいのものか、お分かり頂けるだろうか。
 なんにせよ、こういう素晴らしい芝居を今年も何本見られるか、丹念にチェックしないと、最近はいい芝居はチケットが完売するのが早くて、見逃してしまうことも多いのである。ケラリーノ・サンドロビッチさんの『消失』も、蜷川幸雄の『ロミオとジュリエット』も北九州公演、チケット取れなかったものなあ(+_;)。


 第62回ゴールデン・グローブ賞の授賞式が16日開催され、各賞が発表された。
 アカデミー賞の前哨戦、あるいはアカデミー賞よりも実質的な価値があると評価する向きも多いGG賞であるから、興味は津々なのであるが、残念ながら殆どが日本では公開待ち、あるいは未公開である。

 ◆映画ドラマ部門
  ■作品賞 「アビエイター」("The Aviator")
  ■主演男優賞 レオナルド・ディカプリオ(「アビエイター」)
  ■主演女優賞 ヒラリー・スワンク("Million Dollar Baby")
 ◆映画ミュージカル・コメディ部門
  ■作品賞 "Sideways"
  ■主演男優賞 ジェイミー・フォックス(「レイ」)
  ■主演女優賞 アネット・ベニング("Being Julia")
 ◆共通
  ■監督賞 クリント・イーストウッド("Million Dollar Baby")
  ■脚本賞 アレキサンダー・ペイン、ジム・テイラー("Sideways")
  ■助演男優賞 クライヴ・オーウェン("Closer")
  ■助演女優賞 ナタリー・ポートマン("Closer")
  ■作曲賞 ハワード・ショア(「アビエイター」)
  ■主題歌賞 "Old Habits Die Hard" / ミック・ジャガー、デヴィッド・A・スチュワート("Alfie")
  ■外国語映画賞 「海を飛ぶ夢」("The Sea Inside")
 ◆テレビドラマシリーズ部門
  ■作品賞 "Nip/Tuck"(2003年-)
  ■主演男優賞 イアン・マクシェイン("Deadwood",2004年-)
  ■主演女優賞 マリスカ・ハージティ("Law & Order: Special Victims Unit",1999年-)
 ◆ミュージカル・コメディシリーズ部門
  ■作品賞 "Desperate Housewives"(2004年-)
  ■主演男優賞 ジェイソン・ベイトマン("Arrested Development",2003年-)
  ■主演女優賞 テリー・ハッチャー("Desperate Housewives",2004年-)
 ◆ミニシリーズ・TV映画部門
  ■作品賞 「ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方」("The Life and Death of Peter Sellers")
  ■主演男優賞 ジェフリー・ラッシュ(「ライフ・イズ・コメディ!」)
  ■主演女優賞 グレン・クローズ("The Lion in Winter")
  ■助演男優賞 ウィリアム・シャトナー("Boston Legal")
  ■助演女優賞 アンジェリカ・ヒューストン("Iron Jawed Angels")

 下馬評通り、『アビエイター』の評価が高い。ヘタに『タイタニック』なんぞに出たために、ミーハーなバカ女のファンがついて、役者としてはかえって損してしまったディカプリオだけれども、この人の演技力が並々ならないことは『ギルバート・グレイプ』のころからご覧になっていれば、納得できることである。言わばディカプリオは“ようやく”本来の評価を取り戻した形になったわけで、『アビエイター』を見るのが楽しみになってきた。
 このリスト見て初めて知ったけど、日本では劇場公開予定の『ライフ・イズ・コメディ! ピーター・セラーズの愛し方』、もともとテレビ映画だったんだね。東京じゃもう公開ずみらしいけれど、福岡にはまだ来てない。つか来るのか。これを見ずしてどうしてセラーズファンが名乗れようかってなくらいに期待してるんだけどなあ。
 さて、これでアカデミー賞の方は概ね『アビエイター』『Million Dollar Baby』『Sideways』の3本に絞られた形になったわけだけれども、勝手な想像ながら『Million Dollar Baby』に票が集まるんじゃないかな。『アビエイター』がGGを取ったことで、差異化を図ろうとする会員もいるだろうし、何より昨年、クリント・イーストウッド監督には『ミスティック・リバー』に賞を与え損なった経緯があるからね。もちろんこれは映画本編を全く見てない憶測なので、アテにしたりしないように。

2003年01月17日(金) 言語作用としての2ちゃんジャーゴン/『POPEE THE PERFORMER ポピー ザ ぱフォーマー』(増田龍治・増田若子)ほか
2002年01月17日(木) 部屋の中を歩けるようになったよん(それが普通だってば)/アニメ『七人のナナ』第2話/『クレヨンしんちゃん』31巻(臼井儀人)ほか
2001年01月17日(水) 雪が溶けて川になって流れていきます/『これから』(夏目房之介)ほか



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