無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2003年06月12日(木) 正義に勝たれても/『少年名探偵 虹北恭助の新冒険』(はやみねかおる)

 終日小雨。梅雨入り宣言はされたはずだが、まとまった雨が今のところ降ってない。今年は空梅雨かな。また水不足にならなきゃいいけど。1日中ジメジメしているが、風は吹いているのでそれほど不快というほどでもない。
 仕事は忙しいが、この程度の気候なら、体調を崩すギリギリの線で何とかカラダも持っている。……と言いつつ、今日は早出の仕事があったのに、どうにも起きられずに同僚に連絡、遅れて出社。無理はやはり効かなくなっているのである。


 奈良県市町村人権・同和問題啓発活動推進本部連絡協議会というところが(長いよ)、インターネットの掲示板への差別的な書き込みを監視する「インターネットステーション」を開設したとのニュース。
 悪質な書き込みについては、プロバイダー法に基づいて発信者を特定して、名誉棄損や脅迫容疑で告発する方針だという。
 とは言っても、いきなリ告発というような乱暴なことはせず、初めのうちは人権の大切さを理解できるような新たな書き込みをしていくんだとか。
 気持ちは分らないではないのだが、この「悪質な書きこみ」っての、基準が設けられるものじゃないからねえ。なんだかんだでただの言葉狩りになっちゃうんじゃないかという危惧は否めない。
 早い話が、今、私がこうして感想を書き連ねているこの文章ですら、「悪質」と判断されてしまうのであろうか? 出版業界の自主規制は、差別語、僭称語とされるもの自体を完全排除する方向に向かっているが、そんなことをすればこの手の問題について語り合うことすら困難になってしまう。
 特に気になるのは、この協議会の人たちの姿勢が、「告発するのは認識を改めることなく、名誉を傷つけたり、脅迫したりする書き込みを続けたケース」と言ってる点で、もちろん法的に問題がある場合、それも仕方ないとは言えるが、初めから「認識を改めない」と、あたかも「認識を改めるのが当然」という考えで望んでいる点である。こういう何が差別で何が差別でないか、といったような明確な線引きのできない問題に関しては、自らもまた差別者でありうる可能性を常に忘れてはならないのではないか。絶対正義の姿勢がどれだけ危険かは、具体例をいちいち挙げるまでもなく、容易に想像できることだと思うのだが。
 少なくとも、私が今まで出会ってきた被差別者の方々、部落出身の方々や、身障者の方々で、真剣にこの問題について考えている方々は、決して自分たちを被害者としてのみ捉えてはいなかった。巷間よく言われることのある「傷つけられた人間には、他人の痛みもわかる」というのがウソであることは、虐待されたことのある子供が親になったときに、その子をまた虐待するケースが多いことでも証明できる。
 本来この言葉は、「傷つけられたことがあるのなら、他人の痛みも理解できるようにならなければならない」であって、自らが加害者になり得る可能性を否定しちゃいけないのである。
 同協議会の平岡恭正事務局長さん、「差別は人を傷つけるという基本的なことを理解してほしい。賛同者を増やし、全国に啓発運動の輪を広げたい」と話しているんだそうだ。このコメント、どの程度ご本人の言葉のニュアンスが反映しているかよくわからんけど、これだけだと逆に差別に関する認識がえらく低いように見えてしまう。っつーか、理念だけが先走ってて、現実がまるで見えてないように聞こえちゃってねえ。差別がよくないことがわかってても現実には差別が横行してるわけだし、人を傷つけちゃいけないったって、人を傷つけずに生きていけるはずもない。「気をつけよう」なんてスローガンだけ言ってて世の中どうにかなるなら、とっくの昔にどうにかなっている。我々はこの現実をどうにも変革のしようもないジレンマの中で生きてるんであって、その事実を踏まえずにご大層な言質だけを撒き散らすのは、それこそ「賛同者」を増やすことだけを目的としたカルト宗教と何の変わりもない。
 まあ、実際に、この人たちがどんな「書き込み」をしていくのか、それを見てからでないとこれ以上の即断はできないことだが、標的にされるのはまず真っ先に2ちゃんねるだろう。結構ハデな攻防戦が展開されるかもという気がするが、協議会、2ちゃんねらー、双方ともに頑張って頂きたいものである。私ゃいつも通り、傍観させていただきますんで(^o^)。


 バタバタと仕事忙し、今日も帰りが遅くなる。
 食事はミニストップで買ったお握りを歩きながらパクつく。“二つ折りにした”平たいお握りの間にハンバーグを挟んで、海苔で包んでいるのがちょっと変わっている。少しでも食べやすいように、という工夫だろうが、見かけはあまり美しくないので、あまり売れ筋ではなさそうな気がする。でも歩いて食べるには実にちょうどいい。
 歩きながらなんて、なんて行儀が悪い、てなことは重々承知しちゃいるのだが、あまり非難しないでいただきたい。食事の時間と帰宅の時間をこうして兼用できれば、それだけ本を読む時間が確保できるのだ。
 こないだよしひとさんから「雨の日まで傘差して本読まなくても」と言われてしまったが、確かに風呂でもトイレでも私は本を読んでいる。傍目から見て無節操だとか変人だとか、そう言われてしまうこともわかっちゃいるのだが、そうでもしなけりゃ、一日のうち本読む時間なんて、一般人がどうして取れようものか(^_^;)。


 はやみねかおる『少年名探偵 虹北恭助の新冒険』(講談社NOVELS・735円)。
 『少年名探偵 虹北恭助の新・新冒険』との同時発売だけれど、一冊だと厚過ぎるので二分冊としたもの。でも、そのおかげで一冊分のナカミが薄い印象がどうしてもしてしまう。活字を二段組にすればこの問題は解消できるはずなんだが、小・中学生も読むのでそれは避けたんだろう。まあ、私はオトナなのであまり目くじらは立てません(^o^)。
 小説の内容よりも、イラストのやまざきもへじさんの絵で売れてるんじゃないかという気もするが、まあジュニアミステリとしてみれば、内容もそう悪くない。こういうのに日常描写が多くてミステリとしての味わいが希薄だとか、トリックがたいしたことないとか突っ込むのは野暮というものである。そういうミステリもあるのよ。
 わたしはこの主人公の恭助が中学生のクセにペシミストで、けれどどうにも人間が好きでたまらなくて、だから不登校でずっと放浪しているけれど、たまに故郷の虹北商店街に帰ってくる、という設定が好きなんである。幼馴染の響子ちゃんには心配ばかりかけているけれど。
 ……と書くと、もう気がつく人もいると思うけれど、この話、ベースは『男はつらいよ』なのだね。恭助の細い目は寅さんの目なのか(^o^)。
 作者が「寅さん」ファンであるのは、作中に劇中劇として登場する若旦那たちの自主制作映画『名探偵はつらいよin虹北大決戦』『名探偵はつらいよ リターンズ』というタイトルからもわかる。ここまで堂々と寒いタイトルを付けられるのは、ファンであることの証明以外のナニモノでもないよ(^o^)。
 今巻の大半は、この自主映画の監督である、カメラ屋『大怪獣』の若旦那が主役になって大活躍する外伝『おれたちビッグなエンターテインメント』で占められている。虹北商店街に昔からある映画館「虹北キネマ」には「つまらない映画をかけると『北斗七星が舞い降りる』という伝説がある」とか、「上映中に心霊現象のラップ音が聞こえたり、精神的な圧迫を覚える」映画の謎とか、ミステリ風味はちょっとあるものの、まあ、メインは若旦那ほか、映画オタクの狂乱ぶりだ。どこの世界に怪獣映画と横溝ミステリと寅さんとインディ・ジョーンズを混ぜて映画を撮るバカがいるか(^o^)。日本酒と青汁とレモネードと酢醤油を混ぜて飲むようなものである。飲んだことはないが。あっ、でも、平成『ガメラ』シリーズは怪獣映画とミステリを混ぜてたな。そこまでは許容範囲か。
 でも、そのおかげで作中に恭助がほとんど出て来ないから、タイトルに偽りありではあるのだけれど(^o^)。

2002年06月12日(水) 悲しい日/『B型平次捕物控』(いしいひさいち)/舞台『笑の大学』ほか
2001年06月12日(火) マンガの画力って?/『新しい歴史教科書 市販本』(西尾幹二ほか)



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