無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2003年01月22日(水) 役者が名前を出すということ/DVD『You Are The Top 〜今宵の君〜』/『一番湯のカナタ』3巻(完結/椎名高志)ほか

 朝のニュース番組に、中村彰男さんという文学座の舞台俳優の方が出演していらっしゃる。この方、実は『千と千尋の神隠し』で、カオナシの声を担当されていた方だとか。
 映画公開当時はその名前が非公開だったのだけれど、昨年から一般にも知られるようになっていったそうで、そのときの苦労を「『あ……あ……』だけで感情を演じ分けなければならなくて、宮崎監督に何度も注意された」と語る。
 そういう演技指導があったってことは、たとえ「あ……」だけでもちゃんと役者として扱ってるってことだろ? だったら、どうして最初から名前を出さなかったのかなあ。
 まあ、昔も『月光仮面』とか『少年探偵団』の怪人二十面相とか、クレジットの役者名に「?」が出るものが多かったけれど、ああいうのは謎ってことにしてても、ちゃんと視聴者にはわかってたんである。『千と千尋』であえてカオナシをノンクレジットにしなきゃならない理由なんてないんじゃないか。
 いずれこういう形で明かすつもりだった、というのなら最初から明かしといてもなんの問題もなかったと思うぞ。結局、これって「あのカオナシの声の人って誰なのかしら」ってウワサを使った「宣伝」臭いんだよな。なんとなれば、一時期、あのカオナシの声は「宮崎監督自身である」というウワサがマコトシヤカにネットに流れていたんである(そういうウワサが流れたんで発表したのかもしれないが)。
 役者が字幕にクレジットされるのは当然の権利だ、と大上段にモノを言わずとも、その演技をした人がどういう人なのかってことを知りたくなるのは、客の方に自然に起こる心理だ。役者が好きで、その映画を見に行くってのは、ほんのチョイ役の人に対しても起こることだ。
 というわけで、私はその点では『どれみ』もあまり好きじゃないのでした。結局、女王さまの声優さん、誰だったんだよ。


 俳優、田中明夫氏が19日、肝不全のため死去。享年76。
 もう30年近く昔、私が初めて上京したときに帝国劇場で見た舞台が、蜷川幸雄演出・平幹二朗の『ハムレット』であったが、そのときポローニアス(オフィーリアの父ね)を演じていらしたのが田中さんだった。
 悲劇とは言っても、シェークスピアの作品は合間にギャグが差し挟まれて緩急がつけられており、『ハムレット』で言えば、ポローニアスが飛ばすオヤジギャグ(^o^)が前半の見所でもあったのだ。昔の芝居って、今は古くなって見られないんじゃないか、とお考えの方もいらっしゃるかもしれないが、シェークスピアはそう簡単に古びない。実際、田中さんの芝居は会場に大きな笑いを生んでいた。悪役専門、と思われているが、舞台では実に幅広い役を演じられていたのである。
 時代劇の悪役が多かった田中さんのこととて、訃報もまたそれに触れたものが多い。けれど、アニメオタクとしては、まず真っ先に『空飛ぶゆうれい船』の黒汐会長の声を挙げるべきだろう。ボアーの手先として暗躍しながら、結局粛清される、というのは中ボスの運命なのだが、つまりはこいつ、『サイボーグ009』のスカールの原型なのだな('o'=)(原作は『009』よりも以前に描かれている)。そう言えば、時代劇でも本当の巨悪の悪大名より、その手先の悪徳商人を演じることの方が多かったね。
 忘れちゃいけないのはNHK少年ドラマシリーズの『幕末未来人』の大津屋役。歴史を改変、本来あるべき明治の時代をなくして、光文の時代にしちゃったんだから、田中さんが演じた悪役の中でも最高の巨悪であろう。あと、『ウルトラマン前夜祭』ではモンスター博士を演じてたらしいが、確実に見てるんだが古すぎて記憶に残ってない。ビデオ、残ってないんだろうなあ。
 でも、田中さんに善玉役が全くなかったわけでもない。実写版『鉄腕アトム』の初代お茶の水博士は田中さん(2代目は森野五郎)。残念ながら付けバナはされていなかったが。
 田中さん一番の善玉役は、何と言っても映画版エルキュール・ポアロの吹替えであろう。『オリエント急行殺人事件』でポアロを演じたのはアルバート・フィニーであったが、『ナイル殺人事件』のときにはフィニーが降りたので、ピーター・ユスティノフに代変わりしていた。けれどテレビの吹替えのときにはそのまま田中さんが引き継いでくれたので、少しはイメージのギャップが埋められた気がしたものである。田中さんはちょっと舌が絡むところがあるので、それがかえってベルギー人・ポアロの雰囲気を出していて(まあ日本語なんだけど。「モナ〜ミ!」って感じね)、実はデヴィッド・スーシェの熊倉一雄より好きだった。田中さんはこのあと、『地中海殺人事件』『死海殺人事件』と、都合四本の作品でポアロを演じている。
 ユスティノフは更に『エッジウェア卿殺人事件』『死者のあやまち』『三幕の殺人』とテレビムービーでポアロを演じているが、私は字幕版しか見ていないので、吹替版があるかどうか、声をアテているのが田中さんかどうかは確認していない。もしあるのなら、それも見てみたいのだが。


 えーっと、私、あまり感心なかったんで見てなかったんですけど、NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』の5日分第1話に、黒澤明監督の『七人の侍』そっくりのシーンがあったそうですね。具体的には「ほかの侍と協力して野武士から屋敷の一家を守るシーン」だそうで。
 本日、板谷駿一放送総局長が、「アイデアを借りた。事前に関係者にあいさつすればよかった」と釈明。
 ……ってつまりパクリを認めたってことじゃん(^_^;)。
 脚本、鎌田敏夫だろ? ホントにそんなシーンあったのか?
 と思って、NHK出版の『NHK大河ドラマ・ストーリー 武蔵 MUSASHI』を読んでみる(ドラマ見るかどうかを確認するためにとりあえず買っといたんである)。
 ああ、なるほど、「あらすじ」のところに屋敷の主人に武蔵たちが雇われて、盗賊を迎え撃つってエピソードがあるわ。もちろん、こんな話は原作の吉川英治の『宮本武蔵』にはない。「人を斬ることだけに生きてきた男」とか、「雨の中の対決」とか、「切れなくなった刀を捨てては死体から奪って戦う」とか、『七人の侍』を彷彿とさせる描写は確かにある。
 ……これを「オマージュ」と言って済ませるってのは、いい度胸してるな。野盗から村を守るために百姓が浪人を雇った、というのは歴史上の事実である。だからその設定はパクリとは言えない。けれど、キャラクターや状況設定まで同じってのは言い訳はきかないよなあ。つい似ちゃったってことじゃないんだもん。
 民放のテレビ番組って「バレなきゃいいじゃん」式の盗作が横行してるから、鎌田さん、長らくその習慣に馴らされてて、別に批判なんて出ないんじゃないかと高を括ってたんじゃないか。
 『武蔵』もいろんなバージョンの名作が過去にありすぎるくらいあるからねー、差別化を図ろうとしての失敗って感じだね。

 そう言えば、『七人の侍』もハリウッドでリメイクの予定だそうな。『荒野の七人』みたいに西部劇にするのでなくて、現代を舞台にするってことだけど、今のアメリカで「侍」にあたるのっているんか。退職刑事たちがノースダコタあたりの田舎街をギャングから守るとか、そういう話にするんか。
 どうやったって、『疾風の用心棒』の二の舞になっちゃうぞ。やめときゃいい企画があっちこっちで進んでるよなあ。


 今日こそは仕事に出かけるつもりが、咳が昨日以上に悪化。というわけで不本意ながら(ホントだよ)今日も仕事を休む。
 クスリも飲んでおとなしくしてるのに、どうして治らないのだ。
 ウチがウィルスの巣にでもなってるのか、それともなんかに取り憑かれてるのか。
 

 DVD『You Are The Top 〜今宵の君〜』。
 三谷幸喜作・演出の舞台のDVD化。
 コピーに「深夜のリハーサル室 ピアノの前に集まったのは作詞家と作曲家と
一人の死んだ女……」とあるから、てっきり幽霊モノかと思ったら、戸田恵子は「回想の中の人物」として出てくるのだね。
 キャストは作詞家・杉田吾郎に市村正親。作曲家・前野仁は浅野和之。女優・笹目にしきには戸田恵子。
 本公演では加賀丈史が作曲家の役にキャスティングされていたが、急性虫垂炎でいきなり代役になっちゃったそうである。役造りにも浅野さん、いきなりで相当苦労したらしく、収録DVDではメガネにヒゲを生やしているが、これも公演中に少しずつ変わっていったのだそうな。
 それにしてもいつもいつも思うことだが、キャラクターのネーミングはもうちょっと考えたらどうか。いくらなんでもササニシキから取って「笹目にしき」はないだろう。観客もちょっとは笑ってたが、少し引いてた気がするぞ。

 深夜のリハーサル室で、ピアノを間に争い合う二人の男。
 一人は作詞家の吾郎、もう一人は作曲家の仁。
 二人は親友だったが、性格は全く逆。おっちょこちょいだけれど社交家の吾郎、芸術化気取りで融通の効かない仁。けれどそんな二人が仲違いせず、ここまでやってこれたのは、間で仲を取り持っていた女性歌手のにしきだった。
 三人は次々とヒット曲を飛ばす。彼らの姿は、まさしくゴールデントリオの名にふさわしかった。
 二人は、ともににしきに恋をする。けれどにしきが結婚した相手は二人とは別の男。失意の底に落とされる二人。トリオはやがて自然解消に……。
 にしきが離婚したとき、二人の男は再び夢を見た。
 けれどその矢先、にしきが交通事故で死ぬ。
 そして、7年が過ぎた……。
 7周忌追悼コンサートのために、吾郎と仁は再び顔を合わせる。今夜中に、彼女を偲ぶ新曲を作らなければならないのだ。けれど、二人の打ち合わせは、いつの間にか、彼女がどちらを好きだったのか、という話にスライドして行く……。

 時間経過に従ってあらすじを書いてみたが、実際には回想シーンが随所に挿入されるために、過去はあるときは10年前、あるときは20年前と、行ったり来たりする。そのたびににしき役の戸田恵子が衣装を替えての七変化を見せるのだが、これがなんと魅力的なことか。
 あるときは少女のように(でも12歳のフリにはムリがあるぞ)、あるときは少年のように(時々鬼太郎のイメージが混じりますな)、あるときは魔性の女のごとく、あるときは聖母のごとく、二人の視点を変えるごとに同じ日同じ時の出来事でありながら全く別の顔を見せるにしき。
 映画でも、一人の女の過去をいろんな男が語るってネタは結構あるけど、このネタは舞台の方が絶対に生きるんである。

 そして、ついに最後には「回想でない」にしきが現われる。
 彼女の正体はいったい……?
 という結末のところがちょっとヨワイのだけれど、やっぱり三谷さんは舞台をやってるのが一番いいなあ、と思わせる佳作であった。
 音楽は井上陽水。最後は三人のダンスと歌をたっぷり見せる(忘れてる人もいるかもしれないが、戸田恵子さん、もともと歌手なんだよ)。
 三谷さんの舞台を見たことないって人にまず最初に勧めるんなら、この一本がいいかな。


 外食ができないので、またピザを頼む。
 前回持って来てもらったチラシに、「丼物もやってます」だと。既にピザ屋の範疇を越えてるな、ピザ・カリフォルニア。
 でもって頼んでみたカルビ丼、配達ものにしては美味い。でもやっぱりちょびっと割高。

 帰宅したしげと、DVD『名探偵ポワロ』を見る。
 今日は第6巻の『ベールの女』。
 ……やっぱり、クリスティーは長編の方がいいわ。トリックそのものもつまらないが、ラストの「追っかけ」はクライマックスのつもりかどうか知らないが、出来の悪いバラエティなみ。このシリーズが途中から長編スペシャルに移行していったのは正解だろう。


 マンガ、あだち充『KATSU!』6巻(小学館/少年サンデーコミックス・410円)。
 さわやかラブコメに見えながら実は昔ながらの「因縁もの」ってのがあだちマンガの特徴なんだけれど、活樹の父ちゃん、昔、試合で殺した相手の婚約者と結婚してたんですか。……って、ちょっとありがちすぎるんじゃないかなあ。
 いや、その間の事情がくだくだと描かれることはあまりないとは思うけれど、なんかこういう「過去のあるキャラ」を出して来ないとドラマが持たないっていうのは、ちょっと先行き不安なんだけど。
 だって、活樹と香月と紀本の関係だけでドラマは充分進めていけるんだからね。あだちさん、「今度こそアテねば」って、ちょっと「不安」になってないかな。


 マンガ、椎名高志『一番湯のカナタ』3巻(完結/小学館/少年サンデーコミックス・410円)。
 椎名さんのホームベージにも書いてあったけど、テコ入れも虚しく、3巻で打ち切り。でも作者自身が「これで終わったと思うなよ」宣言されてるから、いつかどこかで再開されることを期待しよう。
 ……でも、いったん打ち切られたマンガがそのあと再開された例って、あまりないんだけどね。ムリヤリ再開してもまた打ち切りの目に遭うし。『21えもん』が切られて、設定を変えて『モジャ公』を始めたけどまた打ち切られたっていう藤子・F・不二雄さんの例を思い出すなあ。

 ドラマ自体は悪くなかったと思うんである。
 けれど、やはり絵的にも人物描写としてもキャラクターを掘り下げ損なったかなあ、という印象が強い。
 ハッキリ言っちゃえば、なんとかキャラ立ちしてたの、セイリュートくらいのもんじゃなかったか。ワネットもカロー側に寝返るくらいの極悪キャラにしてくれたら、ねずみ男的役割を果たせたと思うんだけど。
 あと一回くらいはサンデーもチャンスをくれると思うんで、椎名さんには起死回生を願いたい。


 マンガ、橋口たかし『焼きたて!! ジャぱん』5巻(小学館/少年サンデーコミックス・410円)。
 えー、もう私、このマンガに何をどう突っ込んでいいんだかわかりません(^_^;)。
 カメパン食って美味かったら、回転して宇宙怪獣ガメラになるそうです。なんのことだかわかりませんか。私も自分でなに書いたらいいかわかんないので、もう責めないでください(T∇T)。代わりに踊ります。
 L(・_L)ズン(ノ_.)ノドコL(・_L)ズン(ノ_.)ノドコ

 料理マンガの中に、『ミスター味っ子』路線ができてるってことなのかな、これ。

2002年01月22日(火) 探偵小説の終焉/渡辺啓助『亡霊の情熱』/『サトラレ』1巻(佐藤マコト)
2001年01月22日(月) 月曜の朝は仕事に行きたくないのよ/『キノの旅3』(時雨沢恵一)



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